安藤海南男あんどう・かなお
ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中
レッド、イエロー、パープル。明滅する色とりどりのレーザーライトがフロアを妖しく照らし出す。フロアの中央にある電飾で彩られたお立ち台では、ビキニ姿の若い女性が激しく腰を揺らす。激しいダンスミュージックのリズムに合わせて団子状態で抱き合い、踊る男女は恍惚の表情を浮かべていた――。
筆者が入手した動画に映し出されていたのは、北関東の某所にあるクラブの店内の様子である。一見、乱痴気騒ぎに興じる「クラバ-」たちの日常を映しただけのようにも映るが...。動画を撮影した男性がこう声を潜める。
「実はこのクラブ、地元では有名な『クスリ箱』なんです。いわゆる違法薬物が黙認されているクラブってこと。しかも、集まるのは日本人じゃない。客のほとんどはベトナム人たち。技能実習生や留学生として日本にやってきた若者が羽目を外す場所なんです」
男性は、ベトナムやインドネシアなど、おもにASEAN諸国からやってくる外国人労働者と、人手不足にあえぐ建設会社や農家などをつなげるNPO団体の代表として活動している。そうした「表」の顔とは別に、技能実習の現場から逃げ出して不法滞在となっている外国人に仕事を斡旋する「裏」の顔も併せ持つこの男性が、「面白い場所がある」と連れて行かれたのが件の「ベトナム人オンリー」のクラブなのだという。
「彼らの多くが手を出しているのがコカインです。いま、ベトナム人の間ではコカインが大流行していて、このクラブ内でも闇取引されているんです。人の目などお構いなしで、目の前でキメているやつもいた。摘発の心配はないのかって? そんな心配をしていそうなヤツはいませんでしたね。そもそも当局側は、ベトナム人ばかりが集まるこんなクラブがあること自体把握していない。まさに治外法権ですよ」(前出の男性)
男性は取引のある建設会社の社長に連れられてクラブに足を踏み入れた。
ベトナム人コミュニティーに深く入り込んでいるこの社長の案内がなければ「入ることはできなかったはずだ」と男性は振り返る。
駅前の繁華街を抜け、車の通りもまばらな国道沿いを20分ほど走った場所に、ポツンと、クラブが入居する古びたビルが建っていたという。
「1階にはベトナム料理店があり、地下1階がクラブになっていました。でも、看板も出しいないしバーとして営業しているから、通りから見てもクラブがあるなんてわからないはずです。入場料は1000円。メニュー表も何もかもベトナム語で書かれていて、ベトナム人以外は容易に立ち入れない雰囲気です」(同)
まるで異国に迷い込んだかのような感覚に陥った、と男性は証言した。
ただ、こうした光景は珍しいものではない。いま、北関東の各所にこうしたベトナム人向けの「裏スポット」が次々と出現しているのだという。前出の男性は内情を打ち明ける。
「技能実習生としてやってくるベトナム人たちの働き先が多いのが北関東。企業の工場や農家など彼らの受け入れ先が集中しているからです。ただ、ベトナム人を集める雇用主の多くは、彼らを安い労働力としかみなしていないのが実情です。雀の涙の賃金で、こき使われて勤務先から逃げ出す技能実習生も後を絶たない。
行き場のなくなった彼らは同胞のコミュニティーを頼り、法務当局の監視の目から逃れて暮らしている。鬱憤を抱えた彼らが憂さ晴らしの場を求め、北関東のあちこちに自分たちのテリトリーをつくっているのです」(同)
出入国在留管理庁が公表している統計によると、2022年12月末時点で日本の在留外国人数は307万5213人。このうち、76万1563人でトップの中国人に次いで多いのが、48万9312人が暮らすベトナム人とされる。
さらに、厚生労働省がまとめている「外国人雇用状況」の統計では、2022年10月末時点でベトナム人労働者の数は46万2384人に達しており、国別ではトップだ。外国人労働者全体の25.4%を占めるという彼らのコミュニティーが日本各地に形成されているというのは、自然な流れである。
都内では、上野にほど近い湯島にベトナム人向けのガールズバーやベトナム料理店、クラブが乱立し、さながら「ベトナム人街」の様相を呈しつつあるというが、こうした流れは今後もさらに加速していきそうだ。
ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中