リバイバルした客テロに、台頭するインフルエンサー......今年も大変よく燃えました! リバイバルした客テロに、台頭するインフルエンサー......今年も大変よく燃えました!

年々燃えては消えていくネット炎上の数々は、もはや「世相の鏡」ともいえるだろう。2023年のネット炎上を振り返ることで、今年はどんな一年だったのか、そして人々はどういったことに怒りの矛先を向けるようになったのかを経済学者・山口真一氏、ネットメディア研究家・炎上ウオッチャーの城戸 譲氏と共に考える!

■迷惑行為の投稿には流行の周期がある

――2023年もたくさんのネット炎上がありました。その中で"今年を代表するトピックス"として真っ先に挙がったのは、「回転ずしチェーンで客の迷惑行為が相次ぐ」でした!

城戸 一連のいわゆる「すしテロ事件」です。年始に『はま寿司』でほかの客が注文したすしを勝手に食べる様子がTikTokに投稿されたのを皮切りに、『スシロー』の備えつけの醤油の注ぎ口を舐める動画も大炎上。2月には『はま寿司』でガリの容器に直接、自分の使っていた箸を入れて食べる動画が拡散されました。

山口 マスメディアが積極的に報じたこともあって、これらの迷惑行為はネット炎上にとどまらず、株価の下落を招き、企業の時価総額にまで影響を与えてしまいました。それだけに企業側も損害賠償を請求するなど毅然(きぜん)とした対応で臨みましたね。

経済学者・山口真一氏 経済学者・山口真一氏

城戸 飲食店での迷惑行為の投稿自体は今に始まったことではありません。しかし、かつては「バイトテロ」と呼ばれたように、アルバイト店員によるものが中心でした。

それだけに今の飲食チェーンでは店員に勤務時のSNS投稿を禁止するなど、炎上対策の教育を徹底しています。ところが、今年の炎上はどれも客によるものだったところに新しい傾向がうかがえました。

ネットメディア研究家・炎上ウオッチャー 城戸 譲氏 ネットメディア研究家・炎上ウオッチャー 城戸 譲氏

山口 こういった迷惑行為投稿の流行には周期があります(表1)。Twitter(現・X)で店員や客の迷惑行為投稿が頻発して『バカッター』なる言葉が流行語になった13年、InstagramやTikTokなど短い動画のプラットフォームにも投稿が広まった19年、そして今年。

5年前後の周期で波が来ています。これには、迷惑行為が社会的な問題になると、学校で厳しい指導が行なわれ、一時的に投稿が減るが、そういった事件を知らない世代が成長するとまた同じことを繰り返してしまう、という説があります。

■謝罪会見がエンタメに

――今年は客だけでなく、企業側の炎上も相次ぎました。アートイベントで腐ったマフィンを販売した「デスマフィン」、丸亀製麺のテイクアウト用うどんにカエルが混入していた「丸亀カエル」、高級ホテルチェーンが日本の旅館を見下すような内容のウェブCMを制作して批判が殺到した「ヒルトン『旅館』動画」、そして何より今年一番の企業炎上騒動といえば、「ビッグモーター不正問題」を語らないわけにはいきません。

城戸 ビッグモーターはさまざまな観点で語ることのできる騒動ですが、ネット炎上という意味では、謝罪会見のエンタメ化を象徴する事例だといえます。今までの謝罪会見は一部だけがニュースに切り取られて拡散していました。

しかし、記者会見全体がネットで生中継され、視聴者がSNSでツッコミを入れながら見ることでますます炎上が盛り上がる。そういう構図が定着しました。

山口 しかもビッグモーターの会見は誰が見ても、「それはおかしいよね」というツッコミどころ満載でした。

城戸 靴下にゴルフボールを入れてクルマを叩いたとか、除草剤で公道の樹木を枯らしたとか、インパクト大のエピソードがいっぱい。過去には船場吉兆(せんばきっちょう)の「ささやき女将(おかみ)事件」(07年)もありましたが、その現代版といえるほどネットでいじられた事件でした。

■若者たちに広がる無意識の炎上商法

――不正をした企業を叩く行為が、ある種のエンターテインメントとして享受されている側面もある?

山口 人間は正義感の下に他人に制裁を科す際、脳内でドーパミンという快楽物質が分泌されます。しかも、ビッグモーターは明らかに悪いことをしていたので、特に叩きやすさを誘発した面もある。

ただ、そういったネット炎上の特徴はゆがんだ正義感の暴走を招きやすくもしています。その新しい例のひとつが「私人逮捕系YouTuber」です。

――犯罪を行なったと疑われる一般人を警察に代わって見つけ出して捕まえる、「私人逮捕」の模様を動画投稿するYouTuberたちですね。悪者をやっつけるとうたっていたはずが、自分たちが迷惑行為で逆に逮捕される事案が続出しています。

城戸 昔からネット炎上には確信犯的なものもあり、炎上によって知名度といくばくかの収益を得ることを目的に過激な行為をする人は後を絶ちません。私人逮捕系YouTuberはその最たるものです。

たとえ本当に正義感が背景にあったとしても、他人に迷惑をかける行為であることは間違いないので、逮捕になったのは当然だったと思います。

――冒頭のすしテロのように、SNSで注目を浴びるためにあえて炎上を狙う投稿が若者に広がっている面も?

山口 あくまで一部だと思います。多くの若者は炎上がとても怖いものだと認識しています。実際に大学でも、友人が炎上して困っているとか、ネットで誹謗(ひぼう)中傷にさらされているといった相談は増えています。ただ、同時にアテンションエコノミーが広がっているのも事実です。

――SNS社会では注目(アテンション)を集めることが経済的な利益につながると?

山口 だから容易に過激化する。最近もTikTokで、とあるホームレスの女性を動画のネタとしていじる投稿が流行しました。その投稿主の多くは若者で、おそらく悪意を持ってやったわけではないでしょう。

単に自分の動画をみんなに見てほしいから、注目を集めやすいネタとして撮影した。それが非常識な行為だと気がついていない。こうした"無意識の炎上商法"も問題です。

■ネット炎上のキーパーソン

――特にネットは"若さゆえの過ち"もデジタルタトゥーとして残り続けてしまいます。

山口 しかも、今はネット炎上をさらに拡散するインフルエンサーの影響力が非常に大きく、たとえマスメディアが報道しなくても瞬く間に話題となってしまう。今まで以上に炎上しやすい社会であることに注意が必要です。

――ネットで話題の事件を一般ユーザーのタレコミからSNSで報じる「告発系インフルエンサー」は、まさに今年のネット炎上のキーパーソンです。

山口 そうした中でも特に滝沢ガレソさんの影響力はものすごいですね。『X』の匿名アカウントが238万人以上のフォロワーを集め、話題の投稿では3000万以上のインプレッション(閲覧数)がある。大手のウェブメディアはおろか、マスメディアすらも上回る数字です。

YouTuberでも『コレコレチャンネル』が告発系インフルエンサーとして大きな影響力を持っていますが、Xは炎上の主戦場ということもあり、ガレソさんの影響力は甚大です。ガレソさんの告発によって炎上した事件を挙げるだけでも、今年のネット炎上を振り返ることができるほどです。

――実際にまとめると、あれもこれもガレソ氏発だったのか......となりますね(表2)。

山口 ガレソさんがうまいのは、自分の独自の見解を週刊誌などの取材記事も踏まえつつまとめることで、その投稿さえ見ていれば炎上の経緯がわかるように仕上げていることです。より拡散しやすくすることで、みんなが盛り上がりやすい投稿になっている。

――滝沢ガレソ氏の告発によるネット炎上の中で、特に注目したのは?

山口 千葉の県立高校で起こった現金盗難事件です。

――校内での現金盗難に気がついた生徒が犯行の瞬間を撮影し、それを証拠として学校側に提出するも窃盗犯が処分されず、逆に教諭が生徒へ口止めを図った事件ですね。

山口 そこで生徒がガレソさんに動画をタレコミしたことで、一気に炎上しました。ただ、このときの投稿では窃盗犯と思われる生徒の映像をそのまま投稿し、青少年の人権侵害だという批判もありました。

ほかにも、未成年者をモザイクなしで取り扱った複数の投稿が批判を浴び、明らかに顔がわかる状態となっていた投稿は削除した上で「今後についても未成年者に関するニュースは特に慎重に取り扱います」と述べるに至りました。

このような問題点は指摘されるものの、画像などを駆使したまとめ方のうまさや誤情報の少なさから、X上では信頼されるアカウントとなっており、単なる匿名アカウントではなく、メディアのような影響力を持つインフルエンサーとなっています。

■もう隠蔽することはできない

――告発系インフルエンサーの影響力が大きくなったことで、今後、社会にはどのような変化が起こると予想しますか?

山口 何か問題が起こったときに隠蔽(いんぺい)するのは無理になったということです。まさに、千葉の高校が事件を隠蔽しようとしたことでかえって炎上したように、SNS上ではタレコミがしやすく、防ぎようがない。それは社会にとってはいい変化でもあります。

城戸 今の企業はコンプライアンス意識が高まっているといわれますが、ガレソさんにタレコミがたくさん集まってしまうのは、実はいまだに内部告発の仕組みがうまく機能していないという問題も表していると思います。

本来は警察や企業がやるべき役割を、インフルエンサーが担っている。そういう意味で滝沢ガレソさんという匿名アカウントの活躍は、日本社会のゆがみを象徴しているともいえますね。

山口 ただ、告発系インフルエンサーの台頭に問題がないわけではありません。マスメディアには報道に際してさまざまな規則があります。しかし、インフルエンサーには何もありません。たまたまガレソさんはプライバシーに配慮するようになりましたが、より注目を集めやすいからと、そういう配慮のない人が大きな影響力を持つこともあります。

城戸 ガレソさんは"わかりやすさ"で人気になりましたが、そこにもリスクはあります。単純な善悪の構図に落とし込んで叩いてしまうと、「実は冤罪(えんざい)でした」といったことも起こりかねない。

まさに、私人逮捕系YouTuberがその典型だったわけです。正義だと思って拡散した人にも責任は生じるので、あまり投稿をうのみにせず、ほかの報道も参照するなど常にダブルチェックする意識は今後さらに求められるでしょう。

――では、今年のネット炎上を振り返った上で、私たちが学ぶべきことは?

城戸 迷惑行為が忘れられた頃に周期的に流行してしまうように、ネットの話題は燃え上がるのは速いけど、風化するのも同じくらい速い。だから、こういう機会に「何がネット炎上を招くのか」を肝に銘じることが大切です。

しかも、今は滝沢ガレソさんのような告発系インフルエンサーもいるので、すぐにとんでもない炎上事件となり、人生を棒に振ってしまうことにもなりかねないですからね。

山口 結局、人間は炎上事件が大好きですから、来年以降も告発系インフルエンサーの影響力は衰えないでしょう。もはや「ネットだけの話題だから大丈夫」なんて対応は通用しない時代になったことは間違いありません。

●山口真一(やまぐち・しんいち)
1986年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学。『ソーシャルメディア解体全書』(勁草書房)、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社新書)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)など著書多数

●城戸 譲(きど・ゆずる)
1988年生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト『Jタウンネット』編集長、総合ニュースサイト『J-CASTニュース』副編集長などを経て、2022年秋に独立。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウオッチしている