六代目山口組を巡って、同門組織間での潰し合いが起きているとの観測が流れている。2015年に始まった、神戸山口組との分裂抗争における勝利を手中に収めつつある中、終結を見据えた戦後戦略が展開されているのだろうか。
■「カジノ利権を奪い取れ」
関西の暴力団事情に詳しいA氏が明かす。
「六代目側のナンバー2の高山清司若頭が、弘道会の野内正博若頭に、一心会のカジノ利権を奪うように言ったそうで、一心会が経営している大阪・ミナミのバカラ屋を取り囲んだという話が出回っている。ただ、神戸側との抗争で特定抗争指定を受けている関係で、ヤクザは5人以上では集まれないから、野内組が面倒をみている半グレの若いやつらを使ったみたいだ」
弘道会といえば、六代目山口組の司忍組長が創設し、高山の出身組織でもある。そして大阪・ミナミを本拠とする三代目一心会も、六代目山口組の直参団体。つまり両者はともに、六代目山口組を親に持つ身内の間柄にあるのだ。それにもかかわらず、六代目山口組が下部組織同士の抗争を画策したというのだから穏やかではない。
「窮地に立たされた一心会は、同じくミナミを根城にしている直参組長を頼って仲裁に入ってもらっているようだ。一時は、これらの直参団体と"反弘道会連合"をつくったなんて噂もあったが、それはさすがに飛躍しすぎ。ただ、名古屋が本拠の弘道会が、もともとは神戸側にいた阪神エリアの団体を吸収したりしてミナミに進出してきていることに、大阪の同門組織はピリついているようだ」(A氏)
■伝統ある組織も餌食に
一心会は、山口組中興の祖と呼ばれる三代目・田岡一雄組長に初代が盃を下ろされた、いわば伝統ある組織である。事務所は、現状は特定抗争指定によって使用できないが、大阪・ミナミの繁華街に構えられている。
「一心会は、2008年に二代目組長が高山若頭を追い落とすクーデターに連座したとして除籍処分を食らいました。処分を受けた組織は通常、名称は引き継がれません。ただ、歴史ある組織ということで、一心会の名称は継承されました。
三代目の能塚恵組長は大阪の暴走族の出身として有名ですが、最近は組員の減少傾向に歯止めがかかりません。分裂の狼煙を挙げたばかりの神戸山口組の組員に事務所周辺を練り歩かれるなど、標的とされた一心会が所轄の警察署にやめさせるようにクレームを入れたと報道されて話題になりました」(全国紙大阪社会部デスク)
組織の退潮以外にも、六代目執行部から不興を買っている要素があるようだ。
「去年の1月に、茨城県にある一心会の傘下組織の幹部が事務所内で射殺された。業界内では実行犯は絆會の金澤成樹若頭だという憶測が流れて、その返しで一心会のヒットマンが絆會の幹部を銃撃した。重傷を負わせたものの命を奪えず、報復はそれっきりで終わっていることに『バランスを欠いている』という声が飛んでいるそうだ」(前出のA氏)
■パワハラ再燃「引退は認めぬ」
しかし、表向きは社会から排除された者たちの相互扶助組織であるヤクザの組内で、身内の米櫃を荒らす行為はご法度のはず。異例の事態が起きた背景に何があるのか。関東地方の暴力団担当刑事が解説する。
「そもそも、六代目側から神戸側が離反したのは、シノギの横取りや、何かと金銭を徴収する弘道会の専横体制に不満を抱いたから。分裂抗争にあたって、六代目側は寝返りを防ぐために上納金を引き下げたし、弘道会は同門組織に高圧的な姿勢を控えるようになっていたという。
しかし神戸側は、六代目側の攻勢によって引退や離反が相次ぎ、いまや風前の灯火。弘道会は分裂構想の勝利を目前にした安堵から、身内の前では隠していた牙を再びむきだして食い物にしようとしているのではないか。
分裂抗争で数多くの殺傷事件を起こして"手柄"を挙げて、また神戸から組員と利権を引きはがし、焼け太りの1強となった弘道会に歯向かえる組織はない。最近も高山若頭が六代目の直参に、『神戸側が存続している限りはお前らの引退を認めない』と強烈な激を発したそうだ」
抗争によって相手の利権を刈りつくしたあとは、矛先は身内へと転化される。ヤクザの収奪心は尽きることがないのだろう。