直井裕太なおい・ゆうた
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。
1月1日に発生した能登半島地震。この影響で石川県などでは多くの地域でスマホの通話、そしてデータ通信が利用できなくなる事態に。そんな中、圧倒的な物量で復旧活動に従事するのが携帯キャリアだ。
震災初動から自衛隊やDMAT(ディーマット/災害派遣医療チーム)と連携して、陸・海・空で活動を行なっている。孤立地域との通信手段としてはもちろん、被災者たちに少しでもストレスを軽減して生活してもらうためにキャリアがやっている活動内容を、ITジャーナリストの法林岳之(ほうりん・たかゆき)さんに解説してもらいます。
――各種通信回線を復旧するために、キャリアはどのようなことを行なっているのでしょうか?
法林 まずは通話とデータ通信の要となる光ファイバーケーブルの損傷確認、そして復旧作業です。例えば、【A】というケーブルが分断された場合。ダメージのない【BとC】のケーブルを接続することで、【A】の代替ルートを構築する。
通常、このような作業は一般ユーザーが見る機会はありませんが、これを行ないつつ移動基地局車や中継車を被災地へ派遣しました。ドコモ、KDDIはそれぞれ90台前後、ソフトバンクや楽天モバイルも自社の車両を能登半島に集中させています。
――移動基地局車なんて、見たこともありませんけど?
法林 通常はコンサート会場やスポーツ大会など、スマホの通信が集中する場所で既存の基地局機能を補うために出動します。多くはワゴンやトラック型で大型アンテナが搭載され、車体にキャリアのロゴが描かれており、実は都市部でも見かけることは多いのです。
しかし、能登半島地震は既存の移動基地局車や中継車だけではその損傷を補い切れず、今回は船上基地局も投入されています。
――これはどんなスペックなのでしょうか?
法林 NTTドコモグループが運営する海底ケーブル敷設船「きずな」にドコモ、KDDIの基地局機能が搭載されています。搭載される衛星アンテナで電波を受信し、それを電波状況の復旧が困難な石川県輪島市の沿岸エリアへ発信してスマホが利用できる環境を提供しています。
NTTドコモとKDDIの両社は2020年に「社会貢献連携協定」を締結し、海底ケーブル敷設船の相互利用、両社による共同災害訓練も行なわれるようになりました。
KDDIは2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震でも自社が保有する基地局機能を搭載した海底ケーブル敷設船を現地へ派遣し、電波の送受信と避難所への支援物資の輸送を行なっていますので災害時の経験も豊富です。
――このような大掛かりな機材が派遣されるということは、それほど通信インフラのダメージは大きいと?
法林 はい。メディアで報道されることの多い孤立地域にもキャリアの基地局が設置されており、さらに住民のいない山間部にも基地局や中継所があります。このような場所の復旧作業は、孤立地域の支援活動と同様に困難を極めます。
ダメージのある施設の修復もありつつ、無傷でも停電が発生している地域は3日ほどでバッテリー切れとなり基地局機能は停止します。給電作業も発生し、そのためのスタッフも投入されています。道路が寸断され車両が進入できない地域もあり、徒歩移動が多くなる過酷な作業です。
――キャリアさん、やること多すぎ! お疲れさまです!
――最近、何かと話題になることの多いイーロン・マスクさんの米スペースX社。そこの衛星通信回線である「Starlink」。これの活躍はどうでしょうか?
法林 今回、最も活躍している機材です。KDDIとソフトバンクが中心となってすでに500台前後が被災地に届けられています。Starlink端末の重量は約20㎏で家庭用電源だけでなく、ポータブル電源でも使用することができます。
避難所、自衛隊や自治体へも提供され、日常のネット利用だけでなく、医療データの共有、オンライン授業などにも活用されています。そして、移動基地局車、船上基地局、ドローンとも連携できるなど汎用性が高いのが特徴です。
――そうなると今後も災害時にはStarlinkが主力となる感じがしますね。
法林 はい。スペースX社は1月3日に第2世代となる新通信衛星の打ち上げに成功しました。この衛星は普通のスマホと直接通信が可能で、まずはSMSでの利用から始め、将来的には通話やデータ通信の利用もできる予定です。KDDIはスペースXと業務提携しており、近い将来この直接通信サービスも国内で利用できるようになるでしょう。
しかし現状、災害時の情報収集や位置情報の取得に強いデータ通信が行なえることを考慮すると、現行のStarlinkが主力です。ただし、Starlinkにはちょっとした問題も発生しています。
Starlinkは説明書が英語で、通信機器になじみのない高齢者の多い避難所ではセットアップが難しく、キャリアのスタッフたちがサポートしています。
今後、Starlinkは自治体や企業の防災グッズとして採用が増えますから、AEDと同じようにStarlinkの取り扱い方法も防災訓練で指導するべきだと強く感じました。そうすることでキャリアのスタッフたちをほかの復旧作業に回すこともできます。
――ところで、今回キャリアが迅速かつ大規模な災害復旧活動を行なえる理由とは?
法林 キャリアは定期的に自衛隊、消防、警察、そして自治体と共同の災害訓練を行なっています。なので、各種車両や機材の輸送を自衛隊と連携し、Starlinkを提供することがスムーズに行なえるのです。共同災害訓練は東日本大震災を契機に始まり、冒頭でお話しした代替ルートの構築もそこから研究開発がより活発になりました。
災害時に通信環境を安定させることで、より効率的な救助・支援活動ができることを各キャリア共に強く意識していますから、今後も災害対策は強化されるでしょう。
――では、災害時に確認したいキャリアのサービスなどはありますか?
法林 各キャリア災害時の圏内エリア情報を「復旧エリアマップ」として公開しています。こちらはブラウザからリアルタイムの通信状況、無料の充電・Wi-Fiスポットを確認することができます。
また、キャリアの義援金サービスもあり、こちらは「キャリア決済」やキャリアのポイントでの支払いにも対応。新規での登録や設定などを必要としないのが、キャリアの義援金サービスの特徴です。
――「スマホの通信料金が高すぎる!」なんて声もあったりしますが、このような災害関連の活動には圧倒的に大感謝です!
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。