狩猟免許を取る人の増加とともに首都圏などで週末ハンターが増えている。彼らは、どのような猟をしているのか? そして、どんなサポートを受けているのか? 週末ハンター同行リポートとともに紹介する!
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■狩猟技術を支援する組織が増えている!
最近、狩猟免許を持つ若い人が増えているという。
2017年の全国の狩猟免許交付数は20万141人で、19年は21万5417人だった。この3年間で約1万5000人増加しているが、その中で10代から40代の交付数が、約7000人と半数近くを占めているのだ(環境省による)。
未経験者の狩猟活動をサポートする「ハンターバンク」の有田一貴(ありた・かずき)氏が、その背景を解説する。
「われわれの会員に話を聞くと、キャンプブームの延長として狩猟に興味を持った人。あるいは、おいしいジビエ(野生鳥獣)の肉を食べてみたいと思った人。また、命をいただくということを子供に教育として教えたいと思った人など、さまざまです」
いろいろな理由で狩猟免許を持つ人は増えているが、一方で問題もある。
「首都圏の1都3県では、19年の時点で約2万人の狩猟免許を持っている人がいますが、われわれの調査だとおよそ47%がペーパーハンターです。
狩猟免許を取る人は増えているけれども、実際に狩猟をしている人は半数しかいません。その理由は『狩猟する場所がない』『仕事との両立が困難』『技術を教えてくれる人がいない』『初期費用が高い』など。
自動車運転免許を取る場合、教習所で技能教習があるので『免許取得者=運転技術を持っている』といえるのですが、狩猟免許試験は法律的な内容が多く、狩猟技術はほとんど含まれていません。
そのため、技術を習得するためには、地域の猟友会などに入って先輩ハンターから教えてもらわなければいけないのです。
しかし、首都圏に住んでいる人は会社員の方も多く、週末だけ狩猟をしたいと思っていることが多いので、あまり時間が取れません。
そこでハンターバンクでは、『狩猟する場所が見つからない』という人と、鳥獣被害に困っている農家さんを結びつけます。そして『仕事との両立が困難』な場合でも、ネットワークカメラを使って平日でも罠の監視ができるようにしています。
もし、罠の餌がなくなっていたら、地元の農家さんやスタッフが補充の代行もします。また、『技術を教えてくれる人がいない』という人には、現地でスタッフがきちんと狩猟の方法をアドバイスしますし、獲物が獲とれたときの解体方法も教えています。『初期費用が高い』ことには月額利用料に狩猟道具の貸出料が含まれています」
ハンターバンクは入会後最初の3ヵ月間は狩猟講習を受けながら狩猟を行ない(月額1万5000円)その後はチームで箱罠を管理(月額8000円)するシステムを取っている。こうしたサポートによって、首都圏からやって来る週末ハンターは増加した。これまでのハンターバンクへの入会者は300人超だという。
「ハンターバンクが目指しているゴールは、狩猟を始める第一歩を踏み出しやすい環境を整え、狩猟人口が少しでも増えていくことです」
ハンターバンクは箱罠を使って週末ハンターをサポートしているが、銃の場合はどうだろう?
ちなみに、狩猟免許には猟法によって4種に分かれている。箱罠など罠を使う「わな猟免許」、網を使う「網猟免許」、装薬銃などを使う「第一種銃猟免許」、空気銃を使う「第二種銃猟免許」だ。また、銃で狩猟をする場合には「狩猟免許」と「鉄砲所持許可」が必要になる。
銃と罠の狩猟者育成プログラムを行なっている株式会社TSJの仲村篤志(なかむら・あつし)氏にも聞いた。
「『狩猟免許を取ったけれども、狩猟をするにはどうしたらいいんでしょうか?』という相談がすごく多いんです。
そこで、私たちは狩猟免許を取って猟師になりたいという人向けに、狩猟者を求める行政と連携した1年間の講習を行なっています。
獣の生態などの座学から、捕獲した後の解体の方法などの実技まで教えますが、やはり一番重要なのは、実際に鳥獣被害に困っている人々とのコミュニケーションです。地元の農家さんとお話をして、どういうところに獣が出てきて、どんな被害があるのか。その状況によって狩猟の方法も変わってきますから。
狩猟は趣味として扱われますが、実際狩猟のフィールドである中山間地域で求められる狩猟者は、鳥獣害対策の担い手である期待が大きい(22年度の野生鳥獣による農作物の被害額は約156億円/農林水産省)。猟友会なども会員の高齢化が進んでいるので、5年後、10年後には鳥獣被害対策をするハンターが激減してしまいます。
ですから、週末だけでも駆除してもらうと地元の農家さんは助かるんです。そのためには、ちゃんとした技術を教える狩猟者育成プログラムのようなものが必要だと思っています」
■獲れなくても楽しい。それが週末ハンター!
こうした組織的なサポートによって、週末ハンターは少しずつ増加しているが、一方で自身も週末ハンターでありながら、週末ハンターを支援している人もいる。
埼玉県で会社経営をする谷島一夫(やじま・かずお)さんだ。
「うちにはサラリーマンの週末ハンターもよくやって来ますよ。銃の免許を取って射撃クラブに通っていると待ち時間があるんです。そのときに『鹿を撃ちたいなら、あの人に聞いてみな』とか『あの人は猟隊をやっているよ』とかいう話になる。それで『誰々の紹介です』とやって来るんです。
やはり、狩猟をするにはその土地の山をよく知っている人と一緒のほうがいい。例えば、犬に追われて獲物が出てくるから、ここの場所で待っていてと連れていってくれる。そして、『この角度だけは撃っていいけど、こっちは人がいるから撃つな』などと教えられる。
そういう経験を積んで、だんだんその土地の狩猟知識が増えていくんです。だから、猟をしたい土地にある程度通ったほうがいい。
それに、週末ハンターなんだから、鹿が獲れなかったら、獲れなかったなりに楽しめばいい。キャンプやジビエブームの延長として、鉄砲を担いで山を歩くだけでも楽しいですよ。
ああ、ここには鹿の好きなアオキの葉っぱがたくさんあるなとか発見したり、疲れたら持ってきたコンロでお湯を沸かしてコーヒーを飲んだり。それくらいの気持ちでいれば、鹿が獲れたときにはもっと楽しいはずです。
ただ、私は『狩猟は面白いからやったほうがいい』とは決して勧めません。やはり、命を奪うということになるので、興味を持ってやりたいと思っている人なら『じゃあ、一緒にやりましょうよ』と声をかけるだけです」
そんな谷島さんの週末ハンター活動に同行してみた。
場所は山梨県のある村。その日は、前日に雪が降り、当日は雨だった。
朝8時に谷島さんの山小屋に到着すると、すでに3名の週末ハンターがいた。自動車販売のMさんと建築業のKさん、そして谷島さんの息子さん。
今回は、V字の谷間の一方に撃ち手を3人配置して、その谷間に猟犬が鹿を追い込む巻き狩りだ。
谷島さんと猟犬は、撃ち手と違う方向から雪が残る山に入っていく。少し歩くと木の下で雪が積もっていない場所を指さした。「ここは鹿が寝ていた所。ほら、フンも落ちている」と教えてくれた。
その後、猟犬を放すと、全速力で鹿のニオイを追いかけていく。しばらくすると、谷島さんが無線で撃ち手に「犬が鹿を見つけた。出るぞ! いた! 大きなメス鹿だ」と伝えた。
一気に緊張が高まる。しかし、そのすぐ後「あー、ダメだ」と谷島さんの声。鹿を追いかけていた猟犬が、雪と雨で滑る急斜面を登れないのだ。その瞬間に鹿は犬から逃げきり、谷間ではない方向で消えていった。
もし、天気が良かったら鹿は獲れていたかもしれない。でも、獲れなかったら、獲れなかったなりに楽しめばいいのだ――。
今、狩猟を始める若者は増えている。そして、週末ハンターをサポートする組織や個人も増えている。
その背景には、鳥獣被害をできるだけ少なくしたいという思いがあるからだ。週末ハンターを目指す人は、ぜひ、それを忘れないでほしい。