物価高が続く今、賃金動向が日本経済の明暗を分けそうだ。ところが直近の発表では、実質賃金は2年連続でマイナスを記録したという。大手企業を中心に広がる賃上げはどこまで波及しているのか? 徹底的な現場目線でその実態を調査した!

まずはベアがあったり、ボーナスが増額されたりした人々をご紹介!【みんなの給与明細 2024年春闘真っ盛りver. Part1】

*本特集に出てくる年収やボーナスは、額面の金額です。すべて個人の取材によるもので、職種や業界の平均値ではありません

■控えめなベアも、顧客優先主義でやむなし

・会計系ファーム会計士(男/40代前半)

〈年収〉【額面】1300万円
〈冬のボーナス額〉160万円(前年比→)
〈ベアは?〉あり

顧客企業(非上場)の会計監査を担う事務所なので、時期によっては顧客のオフィスにこもりっきりになることも。相手先のオフィスが地方や遠方の場合、移動だけでもけっこう大変。

仕事は面白いが、法律の規制が毎年変わるのでそのたびに仕事がやりにくくなっている。士業で人の流動性が高いので、自分もいつかは別のファームに移籍するかもしれないが、今は特に考えていない。

ベアは昨年3~4%上昇。決して十分な上げ幅とは思わないが、もっと給料を上げるとなると顧客に転嫁しなければならず、それは難しい業種なので仕方がない。

■ストックオプションで一獲千金を狙うが......

・ITベンチャー 執行役員(男/30代前半)

〈年収〉【額面】1100万円
〈冬のボーナス額〉なし
〈ベアは?〉なし

大手コンサルから、学生時代の友人が起業した会社に転職して8ヵ月。年収は減ったが、もっと下がることを覚悟していたので問題なし。その分、知人の会社のマーケティングを手伝って、副業として月20万円ほど補填している。

スタートアップなので業績はまだ赤字。最近は資金調達のための資料作成に追われて残業が多め。さらに若手の育成や採用など思いのほか多忙な日々が続いている。ぶっちゃけ、ストックオプションで一獲千金を狙って転職したのだが、配分は少なく、上場の見込みもまだないので先行きはわからない。もしかすると独立するかも?

■ダイハツショックをものともせず業績は好調

・大手自動車部品サプライヤー 技術職(男/20代後半)

〈年収〉【額面】700万円
〈冬のボーナス額〉100万円(前年比↑)
〈ベアは?〉あり

自動車部品の設計・開発を行なう技術職で、自分のチームは7、8人ほどのユニット。自動車メーカーに売り込み、受注してからディスカッションを重ね、5年くらいかけて製品を作る。

世間的にはダイハツ車のリコール騒ぎがまだまだ記憶に新しいと思うが、幸いにして自社への余波はあまり感じていない。ボーナスもそれなりに支給されているし、月7000円程度のベアも実施。おまけに残業があったとしてもしっかり給料が出るので、待遇面には今のところさして不満はなし。会社のブランド力も高く、合コンで名前を出しても聞こえはいい。

ただ、自分の会社は良くても、委託先やグループ会社にまで賃上げが波及しているのかが気になっている。うちは株主に配当まで出しているが、これでいいのかと疑問を感じることも。

転職願望はあまりないが、生真面目な人が多い社風ゆえなのか、管理職の表情が軒並み暗く、定年まで勤め上げる未来はイメージしにくい。忘年会や新年会も遠慮なく断る若手が多く、おかげで土日も含めてプライベートが確保しやすいのはいいが、魅力的な組織とは言い難い。

それでも業績は好調で、これからEVがさらに浸透すればいっそう勢いは増すと思う。

■円安のおかげで業績好調、ベアがなくても文句なし!

・大手総合商社 営業部課長(男/40代半ば)

〈年収〉【額面】2200万円
〈冬のボーナス額〉600万円(前年比↑)
〈ベアは?〉なし

野菜ジュースを海外から買いつけて卸す営業系の部署の中間管理職として働いている。管理職なので、どれだけ働いても残業代は一切なし。

総合商社といっても、昔ながらの商社らしい営業業務は子会社に移管されていて、貿易の仲介業務を行なう部署は本社にはほぼないのが実情。そのため、バブル期のような華やかな仕事とは無縁で、サポート業務や子会社管理など地味な仕事に忙殺されている人が大半。どうしても現場感が薄いので、やりがいを感じにくい側面があると思う。

自社の営業努力というよりも、資源高や円安のおかげで業界全体が好調なためボーナスが増えている。それが社員に還元されているのは大手商社のいいところではあるが、自分たちの努力のたまものという実感が得にくいため、高揚感はほとんどない。

ベアの話はみじんもなかったが、そもそも給料やボーナスをもらいすぎているので、まったく気にならなかった。課長クラスとしては十分な年収だと感じる。それでも周囲には、たまに副業をしている人を見かけるが、自分はしようとは思わない。

飲み会の類いは以前よりは減った気がするが、それでも歓送迎会や忘年会などは今でも部署単位では割と頻繁に開催されているようだ。

■福利厚生より給料アップを強く望む!

・デンソー系子会社 バックオフィス(男/40代前半)

〈年収〉【額面】920万円
〈冬のボーナス額〉90万円(前年比→)
〈ベアは?〉あり

社内文書・設備の管理・保全が基本業務だが、知財や広報とも連携して業務を行なうことも。最近は働き方改革に沿った労務マニュアルの策定に時間を取られている。

給料は安くはないと思うが、30代までは年功序列で微増するものの、40歳を超えると昇進しない限りほぼ上がらない。会社のカフェで使えるポイントを年間6万円分もらえるが、そんなことより給料を上げてほしい! ベアもあったが、管理職は適用外だった。

それでも、会社の業績は上向きで、雰囲気はホワイト。ただ、みんなが楽しんで仕事をしているかというと疑問ではある。

■待遇への不満から、退職→Uターンも辞さない構え

・生命保険会社 支店長代理(男/40代前半)

〈年収〉【額面】550万円
〈冬のボーナス額〉35万円(前年比↑)
〈ベアは?〉あり

某地域で、従業員8人規模の支店のトップを務めているが、給料が低いのでモチベーションが上がらない。保険外交員や新入社員のマネジメントのほか、営業面でも責任を負わなければならず、毎日がけっこうつらい。

生命保険業界自体は安定しているし、会社の財務もしっかりしているのだが、過疎化が進んでいるエリアなのに人口増加エリアの支店と同じ水準のノルマを課されるのは納得がいかない。

この業界に入りたい新卒は今どきレアで、慢性的な人手不足に悩まされている。先行きも暗いので、数年以内に故郷へUターンして就農することも検討中。

■5年間で年収が300万円増! ベアも月2万円アップ

・中堅総合商社 営業(男/40代前半)

〈年収〉【額面】900万円
〈冬のボーナス額〉200万円(前年比↑)
〈ベアは?〉あり

業績好調で、ボーナスがここ数年で倍増するなど、年収は基本的に右肩上がり。また、最近等級がひとつ上がり、5年前と比較して300万円ほど収入が増えている。直近のベアでも月2万円の上昇幅がある上、インフレ手当が期末に10万円支給されるなど、全体として待遇は悪くない。他社の状況はわからないが、順調だと思う。会社への不満もない。

残業代はすべてつくので、忙しい人だと35歳で1000万円に達する。ただ、残業が多すぎると産業医面談が発生したり管理部門から改善を求められるので、面倒にならないよう人によってはサービス残業をしている。

■生成AI登場で一時的な好景気も、未来は暗い!?

・特許事務所 特許事務(男/40代後半)

〈年収〉【額面】800万円
〈冬のボーナス額〉100万円(前年比→)
〈ベアは?〉なし

取引先は大手の知財部が中心で、一発勝負をかけてくるような街の発明家には対応していないので刺激は少ない。しかしデスクワーク中心のため、基本的にリモートで働けるのは気に入っている。月の残業時間は60時間ほど。

生成AIの出現によって、形式的な事務処理について人が担う仕事は減っていくことが予想されるため、現在の業績は悪くなくても、将来の危機感はある。その半面、生成AIに関する発明を受託することが増えているのがなんだか皮肉めいていて、一時的な好景気と引き換えに未来の自分の首を絞めているようなジレンマを感じる。

■大手事業者の業績と一蓮托生の構造

・通信建設業 インフラエンジニア(女/20代後半)

〈年収〉【額面】400万円
〈冬のボーナス額〉27万円(前年比→)
〈ベアは?〉あり

通信システムを新設したり増設したりする際に、システムが24時間365日、常に正常に動作するよう装置の設定を検討し、動作確認を行なうのが役割。適職とは感じていないので、仕事に満足はしていない。

でも組合は闘争を頑張ってくれているようで、月2200円のベアがあった。インフレ手当が5万円出たのもありがたい。

通信建設業界は、NTTグループなどの大手通信事業者の経営状況に大きく左右されるのが宿命。現在は事業者側が設備投資を絞っているので、業績が伸び悩んでいる。ただ、これは業界内の他社も同様の推移なので仕方がないかも。

■しばらく食いっぱぐれることはなさそうだが......

・ウェブマーケター 自営業(男/40代前半)

〈年収〉【額面】1500万円
〈冬のボーナス額〉【前年比】なし
〈ベアは?〉なし

新卒で入社した企業を含め、スタートアップを2社経て、3年前からフリーランスとして活動中。

このまま自営業でやっていく覚悟はなく、いい会社があればぜひ就職したいが、今のところ意外と稼げているのでやすきに流れるかもしれない。

クライアントは渋谷界隈のITスタートアップ企業が中心で、現状はまだ利益を出せていない企業でも資金繰りは問題なし。社内にマーケティング部署のないところが多く、しばらくは食いっぱぐれないと踏んでいる。ただ、10年後とかにニーズがなくなったらどうしようという不安は常にあって悩ましい。