2月9日、衆院予算委員会で答弁する盛山正仁文部科学相。旧統一教会の友好団体との関係を正す野党の質問に対し「記憶にない」を連発した 2月9日、衆院予算委員会で答弁する盛山正仁文部科学相。旧統一教会の友好団体との関係を正す野党の質問に対し「記憶にない」を連発した
「盛んに揺さぶりをかけてきている。私の立場からすると弄(もてあそ)ばれている」

2月16日の閣議後会見でこう述べたのは、目下、野党から集中砲火を浴びている盛山正仁文部科学大臣である。

旧統一教会の問題を巡っては、文科省が昨年10月、東京地裁に宗教法人法に基づく「解散命令」を請求。2月22日には裁判所が国と教団側から意見を直接聞く「審問」の手続きが初めて行われた。

そんな状況下で選挙時の教団とのつながりを示す「写真」や「推薦状」が次々と暴露され、批判の矢面に立たされている盛山氏が漏らしたのが冒頭の一言だったわけである。

渦中の大臣が発した「開き直り」とも捉えられかねない発言ではある。ただ、その言葉が発せられた背景には、一連のスキャンダルが噴出した事情も関係しているようだ。

あるメディア関係者は、いわくつきの宗教団体との関係をめぐって、盛山氏が炎上するに至った経緯をこう振り返る。

「盛山文科大臣の旧統一教会との関係が最初に報じられたのは2月6日。朝日新聞が2021年10月の衆院選の公示直前に、旧統一教会系の関連団体である『世界平和連合』が主催した会合に出席し、『推薦確認書』を受けていたことが写真付きで報じられました。

これ以降、朝日が次々と独自ネタを報じ、週刊誌やテレビも、次々と盛山氏と旧統一教会との関係を伝える続報を伝えるなど、報道が一気に加熱していきました」(メディア関係者)

盛山氏が選挙直前に旧統一教会側から受け取ったとされる「推薦確認書」は、選挙での支援と引き換えに憲法改正など旧統一教会が求める政策への合意を求める文書で事実上の政策協定でもある。

盛山氏が文科相の任に就いたのは、岸田首相が第2次内閣発足後、二度目の内閣改造に踏み切った2023年9月。その頃には、文科省による旧統一教会への解散命令請求に向けた方針はすでに固まっていた。

とはいえ、政権与党の一員であり、宗教法人の生殺与奪を握る〝お目付役〟の立場を得た者として、政策を歪める恐れのある文書を受け取るという行為については、「軽率」との誹(そし)りを免れるものではない。

■他社にも持ち込まれていた情報

そんな盛山氏が追及されることになった朝日のスクープだが、他のメディアも同様の情報を掴んでいた可能性があるという。前出のメディア関係者が話す。

「盛山さんが追及されることになった旧統一教会との接点を示すネタを、ある人物が複数のメディアに持ち込んでいたようです。この人物は、政界や芸能界に独自のコネクションを持ち、警察やヤクザにも顔が利く大物で、長く事件屋として暗躍している人物です。

教団の本拠地がある韓国にもパイプがあり、そこから持ち込まれた情報が各メディアに回ったとの話です。文科省からの解散命令によって、宗教法人格を失う瀬戸際に追い込まれた教団からすれば、岸田政権は不倶戴天の敵。意趣返しの機会を狙っている中で、メディアへの情報リークを仕掛ける事件屋と利害が一致したというわけです」(前出のメディア関係者)

■スクープの裏で暗躍するタレコミ屋

誰かの思惑によって、「ニュース」が世に出るという例は今回の一件に限った話ではない。

大手メディアが、地道な取材を重ねた結果による「調査報道」の成果として喧伝するスク-プの中にも、「プロのタレコミ屋」ともいえる事件屋からの情報を端緒にしたものは少なくなく、メディア側は有益な情報をもたらす彼らと持ちつ持たれつの関係を築いてきたともいえる。もっとも、SNSの発信力が猛威をふるうようになった現在では、その関係性にも微妙な変化も生まれてきている。

「最たる例が、『ガーシ-』こと東谷義和氏でしょう。自ら『アテンダー』と名乗り、数々の芸能人との交遊の中で得てきた情報をYouTubeやInstagramといったSNSで発信することで注目を集めた彼ですが、表舞台に出て世間の注目を集めるようになる前は、一部の週刊誌の情報源になっていました。いわば事件屋のひとりだったともいえるのです。

事件屋がメディアを介さずに自ら発信するという新たな動きはガーシ-以降に活発になった。そういう意味では、今回の盛山大臣を巡る一連の報道は、事件屋とメディアがコラボした、昔ながらのスタイルだったともいえるでしょう」(同)

千代田区永田町に所在する国会記者会館。取材活動が円滑化や効率化が利点とされる記者クラブだが、当局に有利な報道に偏りやすいという指摘もある 千代田区永田町に所在する国会記者会館。取材活動が円滑化や効率化が利点とされる記者クラブだが、当局に有利な報道に偏りやすいという指摘もある
ただ、マスコミも事件屋から持ち込まれる情報の全てを鵜呑みにするわけではない。

「記者クラブ制度に依存している大手メディアの記者には『当局至上主義』が蔓延しており、事件屋などからもたらされる情報は『ガワ』と言って軽視する傾向にある。事件屋のほうの思惑が多分に絡むため、情報の客観性、信頼性が担保できないという側面もあるので、打つ場合は裏取り取材も慎重に行う。ネタを得ていながら朝日より先に打てなかった他のマスコミは、裏が取りきれなかったのでは」(同)

われわれが目にする「スクープ」の裏側では、知られざる情報の攻防戦が繰り広げられているのだ。

安藤海南男

安藤海南男あんどう・かなお

ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中

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