東京駅~金沢駅間を走っていた北陸新幹線が、来たる3月16日に福井県の敦賀駅まで延伸される。さぞかし盛り上がっているのかと思いきや、意外と不安や課題が山積みのようで......。延伸直前の現地のリアルな声を聞いてみた。
■延伸直前! 現地は盛り上がってる?
2015年3月の北陸新幹線東京駅~金沢駅開通からちょうど9年。来たる3月16日、石川県の金沢駅から福井県の敦賀駅まで北陸新幹線が延伸される。元日には石川県能登地方で地震があり、新幹線への影響も懸念されたが、石川県交通政策課担当者はこう語る。
「新幹線の走る沿線に直接の地震の被害はなく、計画どおり開通の予定です。新幹線の延伸は被災地近辺に人を呼び込み、復興の追い風になるのではと期待しております」
というわけで、新幹線が延伸される金沢から敦賀までの駅を訪ね、現地の人たちから話を聞き進めたのだが、聞こえてきたのは「新幹線効果って本当にあるの?」と不安の声が多かった(涙)。いったいどうして? そのリアルな声をお届けしていきます。
■未完成で開業予定「加賀温泉駅」
石川県最南端の新幹線駅となる「加賀温泉駅」に行ってみると、特急などが止まる在来線と新幹線の駅がくっついた立派な"駅舎"は完成しているようだった。だが、駅前には重機があちこちに配置され、至る所がまだ工事中。
さらに、駅の中にもカラーコーンが置かれ、工事関係者が行き来していた。そう、今回の延伸で唯一この「加賀温泉駅」だけ、3月16日の開通時に駅構内が未完成、工事中の状態で迎えてしまうのだ。いったい何が起こったのか? 同駅の整備などを担当する石川県加賀市の新幹線対策室担当者に話を聞いた。
「駅の高架下部分に新幹線開通に合わせて、市の施設として観光案内所やコンビニなどのテナント、待合室、トイレなどを設ける計画でした。
ところが、一昨年の6月、昨年の1月と2回の工事入札をかけたんですが、応募する施工業者がなく失敗。費用や労働者などの条件を緩和し、完成期日も開通に間に合わなくてもいいと、工期を延長した条件で昨年3月に3度目の入札を行ない、やっと施工業者が決まりました。この工事が終わって完成するのは開通から約半年後の今年11月を予定しております」
1度入札失敗したくらいならわかるが、なぜ2度も失敗したのか?
「先にも述べましたが、3度目の入札は工期をかなり延長した条件にしました。そこから推測するに、職人不足や資材の高騰があったのではと考えられます」(同担当者)
駅前で客待ちしているタクシーの運転手に工事の遅れについて意見を聞いた。
「残念というか、恥ずかしいですね。駅の工事はもう4、5年前から始まってましたから。駅舎自体は去年の夏頃に完成。新幹線も今は試運転しながら、ゆっくりですけど、駅を行ったり来たりしている。なのに、駅構内だけが市の不手際で開業しても工事中なんて理解できないです。
せっかく県外から温泉に来られたお客さんもこの駅の工事の様子を見たら、エーッて思いますよね。本当に行政は何をしてるんだ、と言いたい気持ちです」
とにかくあと半年以上は駅の工事が続く。「加賀温泉駅」の名物は温泉ではなく、「駅前の工事」などと揶揄されないよう祈るしかない。
■たくさんの恐竜がお迎え「福井駅」
間に合わないのは「加賀温泉駅」の駅構内工事だけではない。福井駅で準備されている主役級のものが開業に間に合わないらしい。
福井駅では駅周辺を恐竜だらけにする「恐竜駅大作戦」が進行中。9年前の北陸新幹線開通に合わせて、福井で見つかった化石の恐竜(フクイティタンと名づけられている)などの動く恐竜ロボットを設置して観光客をうならせた。
さらに、今回の延伸に合わせて、恐竜ロボットの増設を計画。駅西口にティラノサウルスとスコミムス、さらに駅東口にトリケラトプスの親子と、4体の恐竜ロボットを追加。そして、福井駅直結の「福井市観光交流センター」の屋上にも恐竜が大小あわせて13体追加された。
と、このように、すでに恐竜だらけなのだが、ここで悲報が。西口に設置される予定のスコミムスの完成が開通に間に合わないとのこと。
「海外製の部品の輸入が遅れているのが理由で、完成時期は未定です」(福井県魅力創造課担当者)。
まあ、大問題になっているかというとそれほどにあらず。福井市民からは寛容な声が。
「福井は恐竜しかないから、県も市もPRしろと言われたら恐竜で押すしかないんでしょう。すでにほかの恐竜でいっぱいですからね......ひとつくらいなくても気にならないんじゃないですか」(20代・女性)
「今の福井が盛り上がっているのは2000年にオープンした福井県立恐竜博物館のおかげ。博物館ができてから飲食店などが整備されたり、今回の延伸でも高級ホテルが入る高層ビルができたりしている。福井の発展は恐竜さまさまなんです。駅前の恐竜の完成が遅れたところで、文句は言えません」(70代・男性)
このように、恐竜への不満の声は聞こえず、市民も足並みはそろっているようだった。
■畑の中にポツンと駅舎「越前たけふ駅」
「越前たけふ駅」を見て、わが目を疑った。ウワサには聞いていたが、本当に何もない畑の中にポツンと駅があるのだ。また、在来線の特急停車駅「武生駅」からは車で15分も離れている。
駅前にはなぜか新幹線の開業直前なのに昨年秋にオープンした「"道"の駅」があり、これまたなぜか電子部品メーカー「福井村田製作所」の研究施設の建築工事が2年後の開業を目指して、粛々と進められていた。
この新駅について話を聞こうと思うが、そもそも人がいない(笑)。やむなく、駅から400mほど離れた道沿いに飲食店が立ち並ぶエリアがあったので、まず喫茶店をのぞいてみた。
すると、入り口に「令和5年末をもって閉店しました」の張り紙が。仕方がないので、隣のうどん屋さんを訪ねると、年配の女性店主が「うちも今月(2月)いっぱいで閉店します」と言う。
3月の開通直前に、駅近くの飲食店がバタバタと店じまいするとは? うどん屋さんの店主が続けて語る。
「新幹線効果なんてこの辺りの人は誰も当てにしてませんよ。そもそも(最速タイプの『かがやき』の停車は)一日2便だけ。それも朝9時と深夜11時台。そんな時間にお店を開けてませんから。
それに、お客さんが降りてきても、駅前の『道の駅』のレストランで食事するから、去年からずっと暇。今建設中の会社(福井村田製作所)ができるということだけど、完成して社員が通勤するようになる2年先までこんな状態ではやっていけないです。隣の喫茶店が閉店したのも同じ理由です」
では続いて、現在の越前市の中心地で在来線の特急停車駅「武生駅」周辺の商店街店主らに、新幹線延伸や「越前たけふ駅」について聞いた。カフェの女性店主はこう語る。
「どっちかというとマイナスにとらえています。新幹線の開通で、関西や名古屋方面から来る特急が敦賀駅止まりになってしまう(これまでは金沢駅まで運行)。特急が停車していた武生駅は各停しか止まらなくなるんです。
そうなると関西や名古屋からのお客さんは減る。関東からのお客さんは新幹線で増えるかもしれませんが、畑の真ん中の駅で降りる人は少ないんじゃないですか。トータルでマイナスだと思います」
飲食店の店主も語気を強めて語る。
「本来なら無理をしてでも、在来線の武生駅とくっつけんとあかんかった。この辺りの人、誰があんなに遠くて周りに何もない『越前たけふ駅』まで行ってわざわざ新幹線に乗ると思います? 止まる本数も少ないのに。
みんないつも利用している在来線で福井駅まで行って、福井駅から新幹線に乗りますよ。福井駅には全部の新幹線が止まりますから、よっぽど便利。なんのためにあの駅を造ったのかさっぱりわかりません」
というわけで、そもそもなぜあんな所に新幹線の駅を?という素朴な疑問を福井県の新幹線建設推進課の担当者に聞いてみた。
「この新幹線のルートや駅については昭和50年代に『鉄道運輸機構』という機関が決定しています。
当時、敦賀駅と福井駅は在来線の駅と同じ場所に新幹線の駅を造ると決められていたのですが、ほかの駅については新幹線が効率良く進む直線上に駅を造ることになっていて、越前市の辺りでは高速(北陸自動車道)の武生インターチェンジの近辺に、となったようです」
それで、新幹線の駅前なのに「道の駅」がオープンしたのか。理由に納得。では、新幹線の駅前一等地に商業施設や宿泊施設ではなく、なぜメーカーの研究施設なのか? 続けて聞いた。
「当然、商業施設も含め、誘致活動を何年も前からやってきました。しかし、商業施設目当てに新幹線を使って観光客が来るものではないということもあって、誘致が難しい現実がありました。
では、人が集まるほかの方法をということで、『働く場所をつくろう』となり『福井村田製作所』さんに来てもらうことが決まったんです。2年後に、数百人規模の方が通勤するようになります。そうなるといきなり誘致するのが難しかった商業施設なども誘致しやすくなるのではと考えております」
今はポツンと駅だが、高速道路や企業との相乗効果でどこまで賑わいをつくれるのか注目だ。
■今回の延伸の終着駅「敦賀駅」
敦賀駅は今回の延伸の終点駅。東京駅から来た乗客は金沢駅、福井駅を越え、この敦賀駅にやって来る。さらに大阪に行く人はここで特急サンダーバードに乗り換え、名古屋に行く人は特急しらさぎに乗り換える。
ただ、敦賀市にしてみれば、経済効果を考えた場合、乗り換えるだけでなく、駅を降りて観光スポットや商業施設にいかにお金を落としてくれるかどうかにかかっているわけだが......。
果たしてその見込みはあるのか? 敦賀の人に聞いてみた。まずは駅前で乗客待ちをしていたタクシー運転手から。
「東京から来たお客さんのうち8割、9割が金沢と福井で降りてしまうでしょ。終点の敦賀まで行って観光でもしてみようとする物好きは1割ほどしかいないのでは。その1割に期待するしかないけど、多くは望まないです(笑)」
また、別のタクシー運転手はこう語る。
「敦賀は昔からまったく観光には力を入れてこなかった。また、観光PRがすごくヘタ。敦賀の観光地は? と聞かれても、われわれですらパッと思いつかない。あえて挙げるなら日本三大木造鳥居で売っている気比神宮なんですけど、県外の人にどれほど知名度があるのか不明です」
この神宮には、駅から商店街を15分ほど歩けば到着するのだが、残念なことに商店街の多くの店は開いておらず、シャッター街と化しているのが現状だ。
ただ、なぜかこの商店街には松本零士氏の原作作品『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』の名シーンを再現した銅像が点々と立ち並んでいて、それが目を引く。前出のタクシー運転手が語ってくれた。
「あれは市民にしてもちょっと理解しづらいものです。松本零士さんは敦賀出身でも敦賀に滞在したことがあるわけでもない。
なぜ敦賀に?というと、敦賀港の開港100周年記念事業で、『科学都市』『港』『鉄道』という敦賀市のビジョンが作品に合ったという理由だけのようです。まあそれを聞いた観光客の皆さんは不思議そうな顔をされますよね(笑)」
では、今後の観光地化の見込みは何かあるのか。敦賀駅前商店街理事長の河藤正樹氏に話を聞いた。
「福井の県民性は慎重で、実際に新幹線の運転が始まって乗降客がどれくらい動くのかなどハッキリしないうちは動きたくないというところもあると思います。ただ、敦賀は未開の地。
われわれ地元民も知らない観光資源が残っていると思います。まずは県外からやってくる観光客の様子を見て、これはいけるとなったときにエンジンがかかるのでは。なので、長い目で沿線の駅や街を見ていただけたらと思います」
コロナなどもあり、準備が慎重になったのは納得。新幹線の開業とともに、徐々に繁栄していき、震災を吹き飛ばすほどの北陸の復興を祈るばかりだ。