渡辺雅史わたなべ・まさし
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。
連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第42回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
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皆さんは「3PR」という言葉をご存知でしょうか。
略さずにいうと「サードパーティーライダー(3rd Party Rider)」。この頭文字をとって「3PR」。注文を受けた店とは別の業者が配達を行なう、代行配達を意味します。
2023年、ウーバーイーツ配達員の契約制度が改正された際に登場した3PR制度。例えばマックデリバリーなど、大手チェーン店が独自に行なう配達サービスをウーバーイーツ配達員が代行するようになりました。
この制度が始まって以降、バイク配達員から「あそこのマクドナルドは3PRの依頼が多い」とか「セブンイレブンの配達サービス、7NOWでも3PRが始まった」という声をチラホラ聞いたのですが、自転車配達員である私には3PRの配達依頼がまったく来ませんでした。配達員体験の連載をやらせていただいている身としては、一度は3PRをやってみたいという思いがありましたが、マクドナルドの店の脇にはマックデリバリーのロゴの入ったバイクがたくさん並んでいるのを見て「速度の遅い自転車には依頼が回ってこないのだろう」と思っていました。
そんな自転車配達員の私に、ついに3PRの依頼がやってきました。
世間がお正月休みに入った昨年の12月29日。年末年始は稼ぎ時ということで、朝7時から配達員用アプリを立ち上げて配達していると、朝10時過ぎに舞い込んできたのはマクドナルドからの依頼。配達の際に必要な5桁の注文番号を確認すると、見慣れない10桁の番号が。「これは!」と思い確認するとマックデリバリーからの依頼でした。
マクドナルドからウーバーイーツ配達員へ向けた注意書きには細かな指示が出されていました。特に注意する点は「必ずマックデリバリーと名乗ること」となっていました。
早速マクドナルドへ向かい、商品を受け取り、配達先で「マックデリバリーです」と伝え、商品を受け渡して配達完了。注文者とのやりとりでマックデリバリーを名乗ること以外は普段の配達と変わらないものでした。
その後、同じマクドナルドからウーバーイーツの配達案件、配達完了後にマックデリバリーの配達案件、さらにマックデリバリー、ウーバーイーツと、配達先のインターホンでウーバーイーツと名乗るのか、マックデリバリーと名乗るのか、少々混乱があった依頼をこなすなど、3時間ほど配達をしてからひと休み。場所を移動して配達を再開すると、今度は先ほどとは別のマクドナルドからマックデリバリーの依頼が。店に受け取りに行くとスタッフの方から「置き配指定なのでこちらを敷いてください」との指示があり、商品を置くためのシートが渡されました。
ウーバーイーツでマクドナルドの商品を置き配する場合、ドアの近くに直接置くか、注文された方が指示する場所に置くことになっているのですが......。こんな独自のサービスをしているんだな、と思いながらマックデリバリーを名乗り、ドアの脇にシートを敷いて商品を置き、商品を置いた様子を撮影して注文された方に送信して配達を終えました。
この配達の30分後、先ほどの2店とはまた別のマクドナルドからの依頼を受けると、こちらでも置き配のシートが渡されました。商品受け取り完了のボタンを押し、配達先や店からの注意書きを確認すると違和感が。先ほど配達したマクドナルドと今回のマクドナルドの注意書きを比べると......。
先ほどの店では「インターホンを鳴らさないでください」と書かれているのに対し、この店では「必ずインターホンを鳴らしてください」と真逆の指示が。
同じマクドナルドからの依頼でも店によってルールが異なったり、マックデリバリーと名乗ったりと、気を配らなくてはいけないポイントが多い3PR配達は、長年ウーバーイーツの配達だけをやっていた私にとっては少々苦労しました。と同時に、普段から出前館、Wolt、menuなどの配達を同時に兼務する配達員の方はそのあたりの立場をすぐに切り替えられるだろうな、この程度で苦労するとは私も年をとったなと、自分の未熟さにヘコみました。
マックデリバリー初体験から4日後、ようやくマックデリバリーの3PRに慣れてきた1月2日の夜にやってきたのはセブンイレブンからの配達依頼。コンビニの配達はローソン、ミニストップが中心なので「セブンイレブンは珍しいな」と思いつつ配達内容の詳細画面を開くと、セブンイレブンの宅配サービス「7NOW」の3PR依頼でした。
ウーバーイーツの配達の場合、注文された方が不在のときは「10分間連絡がつかなったら配達を終了、商品を処分してもOK」というルールがあります。一方、7NOWでは不在の場合、店まで商品を返すルールとなっていました。また、運ぶ物が多い場合は他の配達員が到着するのを待ってから配達という決まりがあるため、配達員が揃わない場合は延々と待たなければならないようです。
幸い、運ぶ物の量が少なかったので商品を受け取り、「受け取り完了」のボタンを押すと、さまざまな指示が表示されました。
置き配不可は、商品を注文する際に利用される方が確認できるのでいいのですが、連絡が電話のみなことに少々不安を覚えました。前回の記事「ウーバーイーツを上手に利用するためのトラブル回避テク」でも書きましたが、配達員からの電話は注文された方にとっては普段見たことのない番号。そのためか、配達先マンションの部屋番号が未記入だったため確認したい、といったことで先方に電話をかけても出てくれる確率は50%以下。チャットでやりとりしてトラブルを解決するパターンが一般的です。頼みの綱であるチャットができないとなったら、もしもの時にどうしたらいいのか......。
そんな不安を抱えての配達でしたが、トラブルはまったく起こらず配達終了。「これからは3PRの配達がたくさん入って配達が複雑になっていくから、一層気を張って配達しないとな」と思い、この日の配達を終えたのですが、配達員が不足するお正月休み限定だったのか、以降、自転車配達員の私の元には3PRの依頼が一度も来ていません。
イレギュラーなことが多い3PRの配達ですが、同じ作業を繰り返していると気が抜けやすい私にとっては適度な緊張感を与えてくれるいい仕事。次に配達依頼が来るのはいつになるかわかりませんが、私は3PRの仕事が来たら積極的に依頼を受けていこうと思います。
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。