フィリピンからの遠隔指示で日本国内で特殊詐欺や強盗事件を繰り返し、挙句の果てには人命まで奪った広域強盗事件の主要幹部が日本に強制送還されてから1年余り。遂に、彼らの上位に位置していたとみられる黒幕的存在にも捜査のメスが入った。海外を股にかけた犯罪グループの一網打尽につながるのか――。
■今村被告から月数千万円を徴収?
フィリピン司法当局は、フィリピンで活動する日本人特殊詐欺グループ「JPドラゴン」の幹部・小山智広容疑者(49)を1月に詐欺容疑で拘束し、3月に入管施設に収容したことを明らかにした。全国紙社会部デスクが解説する。
「小山容疑者は、日本が2019年に特殊詐欺事件などの容疑者10人をフィリピンに通告した際のリストに、広域強盗事件の主犯格としてフィリピンから強制送還された今村磨人被告、渡辺優樹被告らと共に名前が並んでいます。フィリピン当局は、小山容疑者がJPドラゴンではナンバー3に君臨しているとみています。近く強制送還されて日本に身柄が引き渡される見込みで、今村らのグループの事件への関与がさらに追及されることとなります」
小山容疑者と今村被告の上下関係がうかがえる事件がある。収監中の今村被告に対し、接見弁護士を通じてスマートフォンで小山容疑者とビデオ通話をさせたとして、証拠隠滅の疑いで警視庁が3月19日、この弁護士を書類送検した。その際の通話では、小山容疑者が今村被告に対し、「面倒は見るから事件について話すな」と口止めしたとみられている。
「今村は、もともとはタイで特殊詐欺をしていてフィリピンに流れ着いた渡辺と合流してグループを結成されたとみられています。この際、すでに組織化されていたJPドラゴンが脛に瑕(きず)がある渡辺被告らに対し、『カネを持ってこい』と上納させていたとみられています。つまり、今村らのグループはJPドラゴンの傘下に属する組織で、上納金額は月に数千万円に上ったと言われています」(現地記者)
■リーダーは神戸山口組関係者
日本からじわりと捜査のメスが迫ってきたJPドラゴン。その実態はどのようなものか。暴力団事情に詳しいA氏が解説する。
「リーダーは徳島県出身の暴力団関係者のRで、フィリピン在住歴は30年に上ります。父親が山口組系の暴力団幹部で、R自身も神戸山口組の井上邦雄組長から盃を受けているそうです。ナンバー2のYが金庫番を務め、闘鶏や日本食店などの表のビジネスに加えて、特殊詐欺に関わって財を成しているようです。
今村らのグループは、渡辺被告や今村被告らが日本に送還されたあとも残党が20人ぐらいいますが、彼らを吸収して特殊詐欺事件を繰り返しています」
フィリピン裏社会における日本人勢力で一角を占めてきたJPドラゴン。力の源泉は、地元警察との癒着だったとA氏は語る。
「潤沢な経済力にものを言わせて、警察上層部をカネで飼いならしています。今村らのグループがタイからフィリピンに逃れてきた際は、買収した警察官を使って渡辺容疑者らを『国外退去させるぞ』と脅し、軍門に率いています。このように、東南アジアを転々とする犯罪者を迎え入れることで人員と金脈を絡めとってきたのです」
■頼みのフィリピン当局から三下り半
しかし、小山容疑者の身柄確保によって組織は岐路に立たされている。
「ナンバー3の小山容疑者は、特殊詐欺のかけ子を束ねる立場で、JPドラゴンで重要な位置を占めていました。また、日本で指名手配がかけられている別の幹部(55)も3月に拘束されています。日本警察の強い要請におされて、フィリピン当局がようやく本腰を入れてJPドラゴンの一掃に取り掛かっているところです。日本警察のターゲットとなるRやYの拘束も時間の問題となりそうです」
フィリピン当局との蜜月が終わりを迎え、大物幹部の相次ぐ逮捕で瓦解が進むJPドラゴン。異国の地・フィリピンからリモートで闇バイトを使って行われた犯行の全容解明が待たれる。