最近では大手チェーン系飲食店を中心に、配膳ロボを導入することでホール業務の削減を図っている。ただしキッチンはまだまだそうはいかないようだ 最近では大手チェーン系飲食店を中心に、配膳ロボを導入することでホール業務の削減を図っている。ただしキッチンはまだまだそうはいかないようだ

経済界、特に中小企業では「人手不足」が大きな課題になっているが、アルバイト募集でもそれは同じ。さらに"スキマバイトアプリ"の隆盛により、雇う側の立場がかつてないほど弱くなっているのだという。現場で働く店長たちの嘆きの声を集めた!

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■〝急募〟が競い合い時給を釣り上げる

東京都内の繁華街、新宿・歌舞伎町では、アルバイト募集の張り紙を掲示する飲食店が目立つ。内容を見ると、「週1回3時間からOK」「茶髪・ピアス・タトゥー・ヒゲ・ネイル ALL OK!!」「まかない食べ放題」など、働き手になんとか来てほしいという切迫感が伝わってくる。

時給額は低い店でも1200円、高い店だと1400円。都の最低賃金(時間額1113円)を大きく上回る設定だ。時給1300円で急募をかけていた格安居酒屋の中国人オーナーが言う。

「時給を高くしてるのに、応募が全然来ない。日本人も中国人も、ベトナム人も!です。人手が足りないから平日の深夜営業をなくし、週末には2階のフロアを閉鎖してお客さんの入店を制限せざるをえない日もあります」

全国に200店舗超を構える大手居酒屋チェーンの都内店舗の店長もこう話す。

「もともとうちの従業員は学生バイトとフリーターが大半ですが、時短営業のコロナ禍では、社員主体で店を回してバイトは最小限に絞っていました。

昨年5月にコロナが5類感染症に移行され、フル営業に戻した際、店に在籍する従業員に『通常の勤務に戻ってほしい』とLINEや電話で連絡したのですが、なかなか応答がなく......。結局、復帰してくれたのはコロナ前の半数止まりでした」

そこで新たにバイトを募集することになったのだが......。

「今年1~3月の3ヵ月間、総額30万円かけて大手求人サイト2媒体に求人情報を載せましたが、採用はゼロ。当社では最低賃金で募集するのが通例ですが、それでは見向きもされない。上司のエリアマネジャーの許可を受け、4月から時給1200円に上げて募集しても、4月15日時点では応募すらありません」

なぜこんなことに?

前出の中国人オーナーと居酒屋店長が口をそろえるのは、〝スキマバイト〟のマッチングアプリの影響だ。

スマホ上でいつでもどこでもヒマな時間に稼げる単発バイトを検索でき、面接も履歴書も不要、気に入った求人に応募して最短なら1、2時間後にはバイトに入る。そんな手軽さが受け、同アプリ市場はコロナ禍で急伸。「タイミー」「シェアフル」など大手4社の登録者数は合計1000万人を突破している。

「アプリ内では、突然の欠員を埋めたい事業者同士が〝急募〟という形で競合し合うため、時給相場が高騰しがち。デリバリーから引っ越し、庫内作業、介護まで、多業種にわたって時給1300円を超えるような高給募集があふれていて、われわれが重宝していた学生バイトやフリーターの多くが流れているんです」(大手居酒屋チェーン店長)

■アプリ経由の人件費は通常のバイトの1.5倍に

複数のアプリを使って週4、5回、単発バイトに入るという都内の大学生がこう話す。

「一応、以前から働いている居酒屋に籍はありますが、今はほぼ〝幽霊店員〟。スマホをいじりながら配送トラックの助手席に座っているだけで時給1300円という駐禁対策要員、『3時間5000円』の求人だけど実際は1時間程度で終わるハウスクリーニングなど、ラクに稼げるバイトがたくさんありますから」

小遣い稼ぎ以外に、こんなアプリの活用法も......。

「僕の周りでは、女のコと知り合いたいときにアプリで単発バイトに入り、気に入ったコがいればリピートで働き、ダメなら別の店を探すという、出会い目的で使う人もけっこう多いです(笑)。主にファミレスや居酒屋ですが」

人間関係の煩わしさがなく、お宝バイトの恩恵もあり、職場を変えるたびにワクワク感が味わえる。

「このうまみを知ったら、時給も人間関係も仕事もほぼ固定される通常のバイトには戻れなくなります」

この流れを受け、飲食店でもアプリ経由で単発ワーカーを募集する動きが加速している。前出の大手居酒屋チェーン店長が言う。

「JR山手線の内側にある都心部の店では特にバイト不足が深刻で、週末に働く従業員の半分が単発ワーカーという日も普通になってきました。ただ、アプリ運営会社に支払う紹介手数料がバカにならない。

『タイミー』だと働き手の報酬額の30%ですが、求人自体も高時給で出しているので、時間当たりの人件費に換算すると店側の負担は通常のバイトの1.5倍にもなります」

時給ではスキマバイトアプリに太刀打ちできないからか、「仲間」「楽しい」「サークルみたい」など人間関係の充実ぶりをアピールする求人張り紙も目立つ 時給ではスキマバイトアプリに太刀打ちできないからか、「仲間」「楽しい」「サークルみたい」など人間関係の充実ぶりをアピールする求人張り紙も目立つ

さらに、バイトの〝質〟の問題もあるという。

「言われたことしかやらない、客前で壁に寄りかかっている、平気で遅刻してくる......。私の主観ですが、アプリで来る単発ワーカーの半分は〝ハズレ〟で、急募のときほどその確率が高まる。

各運営会社は遅刻や無断キャンセルをした人に対し、アプリの利用停止などの罰則を設けていますが、別のアプリを使えば働き続けることは可能です。

店側も、どうせ単発だからと指導も育成もしない。それ以上に、叱りつけたらアプリ内の公開レビューで何を書かれるかわからない......という怖さもあります。どうしても彼らには甘くならざるをえないという事情があるんです」

■インバウンド観光地は都心以上の高額時給に

では、ファミレスの現状はどうか。都内の大手中華ファミレスチェーン店長が言う。

「人手不足は常態化していますが、居酒屋ほど深刻じゃないのは、店内業務の自動化が進んでいるから。コロナ以降、配膳ロボットを全店に導入し、タブレット端末でのセルフオーダー、無人レジ会計も主流になりました。ホールなら以前より1、2人少ない人数でも十分に回せる環境です」

しかし、キッチンのほうは繁忙時になるとパンクすることが少なくないという。

「炒飯や餃子も基本はロボット調理ですが、あくまでも〝半〟自動。炒飯なら米や食材を炒めるのは自動でも、適切なタイミングで油や卵を入れるのは手動ですし、焼き餃子も鉄板の加熱開始から〇秒後に餃子を並べるといった部分は手作業。

また、野菜のカットや料理の盛りつけも人力です。だからキッチンには人手が必要ですが、応募があるのは仕事がラクなホール希望者ばかり。たまにキッチンスタッフが入っても激務に追われ、ホールとの格差に不満を募らせて辞めてしまう人が多くて」

キッチンの欠員をアプリ経由の単発ワーカーで埋めることも多いという。

「固定のキッチンスタッフには年4回の検便を実施しますが、一回きりの可能性が高い単発バイトは検便ナシで採用しています。そのため皿洗いや食器の片づけ、清掃などがメイン業務で、『調理はNG』というのが社内ルール。

......なのですが、どうしても人手が足りないからと、手袋をつけて野菜をちょっと切るくらいなら......とか、肉に軽く片栗粉をまぶす程度なら......とか、店ごとに独自の判断で調理補助の仕事を任せている部分があるのが実情です」

また、コンビニ業界でもスキマバイトは広く浸透している。『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)の著者で、ある町の郊外でコンビニを営む仁科充乃氏は、これまで「コンビニ経験者限定」としていた応募条件を、「〇〇(チェーン名)経験者限定」とするよう本部から指示されたという。

「セブンとファミマとローソンでは、レジも違えばクレジットカードや電子マネーなどの決済方法も違う。確かに、各コンビニチェーンの経験者じゃないと、こうしたレジ操作には対応できません」

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最後に、北海道南西部、札幌市からは90㎞ほど離れた羊蹄山の麓にある「倶知安町」の驚くべき現状について。

同町にある牛丼チェーン「すき家5号倶知安店」では、バイト募集の時給がなんと1500円、深夜帯だと1900円。東京の一等地にある「東京駅京橋店」(1350円~、深夜1688円)より高い(時給額は「すき家」公式サイトより、4月15日時点)。

また、近隣にある「ラーメン山岡家・倶知安店」の募集も時給1300円、深夜1625円と高かった。

同町の求人動向について、ハローワーク岩内の担当者がこう話す。

「倶知安町とニセコ町にまたがる人気スキー場・ニセコリゾートには、冬場は海外から月3万人のスキー客が訪れます。このエリアに近年、外資系企業が続々と進出し、宿泊施設では時給2000円前後の高額求人が出るようになりました。それに釣り上げられる形で、外食チェーンを中心に時給が高騰しています」

同エリアは夏場も月10万人が訪れる観光地で、飲食店にとって人手の確保は死活問題だ。しかし、山岡家倶知安店に勤める社員はこう話す。

「町内に大学や専門学校はなく、近隣の高校にはバイト禁止の校則があると聞く。若者が少なく、高齢化が進んでいる町なので、高時給を用意しても働き手が見つかりません」

バイト不足はすぐには解決できない構造問題。店に入って多少気になることがあっても、「しょうがないよね」と寛大な心を持つべきかも?