小山田裕哉おやまだ・ゆうや
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。
著名人の画像と名前を勝手に使用した「投資詐欺」の広告がフェイスブックほかメタ社のSNSで急増中。
中でも森永卓郎氏は、がん闘病中の身の上を利用された宣伝手法などで、特にヒドい被害に遭っている。詐欺広告の問い合わせ対応で「本当に迷惑している」という息子・康平氏に、現在の心境を語ってもらった!
著名人になりすました広告で投資を呼びかける「SNS投資詐欺」の被害が広がっている。広告で興味を持った人から出資金や手数料の名目でお金を振り込ませるのが一般的な手口だ。
広告で勝手に名前を利用された実業家の前澤友作氏や堀江貴文氏は4月10日、自民党の勉強会で政府に早急な対応を求めた。また、前澤氏は詐欺広告の掲載が特に多いフェイスブックやインスタグラムの運営元・米メタ社を提訴する意向も明らかにした。
警察庁によると、こうしたSNSをきっかけとする投資詐欺の被害額は2023年だけで約277億円にも上る。今も詐欺広告が横行する現状を踏まえると、さらに被害が拡大中なのは間違いない。
この詐欺広告には、実にたくさんの著名人の名前や顔写真が無断利用されている。メタ社の広告ライブラリを調査すると、前出の前澤氏や堀江氏のほか、ひろゆき氏や池上彰氏など「経済」「投資」といったテーマと関連がありそうな人物が並ぶ。
その中でひときわ登場回数が多いのは、経済アナリストの森永卓郎氏だ。産経新聞がメタ社提供のSNSで「投資」という言葉を含む広告を約2万件調査したところ、同氏が登場した回数は3035回で著名人の中で断トツ1位。2位の堀江貴文氏(1767回)の約1.7倍もの回数となった(4月11日時点)。
もちろん、そのほとんどが肖像権を侵害した詐欺である。がん闘病を公表した森永氏の病床の様子を引用した広告まで制作されており、非常に悪質だ。
「昨年の秋頃から、『この広告は本人ですか?』という問い合わせがたびたび入るようになりました。今年になって頻度は増え、一時期は毎日、多いときは1日5件の連絡があり、対応を迫られました。
実際に被害に遭った報告も多く寄せられています。いまだに本物だと信じ込んでいる人もいて、『おまえのせいで財産を失った』『投資したカネを返せ』といきなり恫喝されることも。『森永にダマされた』とネットに悪評を書き込まれることさえあります」
そう語るのは、森永卓郎氏の息子であり、自身も経済アナリストとして活動する森永康平氏。父親と共演した番組の画像などが詐欺広告に悪用されていることから、康平氏のもとにも日々被害者からの連絡が絶えないという。
「こうした詐欺にダマされやすいのは、あまりネットリテラシーが高くない中高年であり、そういう人はテレビが主な情報源でしょう。だから、テレビ番組のコメンテーターとして認知度が高く、投資を勧誘する人としての信頼感もある父親の名前が悪用されやすかったのだと思います。
実際、私も以前からネットのなりすまし被害はありました。ただ、今回はあまりにも規模が大きい。病気のことまで犯罪に利用され、父親も『許せない』と憤っています。
弁護士や警察にも相談しました。しかし、私たちが詐欺に遭ったわけではなく、罪を問えるとしても肖像権の侵害程度。それでは警察は動いてくれません。ひたすらに迷惑です」
その怒りは詐欺グループだけでなく、広告の取り締まりをいっこうに強化しないSNSの運営会社にも向けられる。
「前澤さんが法的措置を検討していると報じられた後でさえ、SNSに詐欺広告が掲載され続けているように、運営会社が真剣に対応しているとは感じられません。
私は被害の拡大を防ぐため、自分のYouTubeチャンネルで詐欺被害の手口を公開するなどの啓蒙活動にも取り組んでいますが、私たちも名前を悪用された被害者です。
こういったことは本来、詐欺広告を掲載した企業側が果たすべき責任であるはずなのに、彼らはいまだに自主規制する気配すらありません」
こうした被害者たちの怒りの声を受け、メタ社は4月16日、「著名人になりすました詐欺広告に対する取り組みについて」という声明を公式サイトで発表した。
そこでは「オンライン詐欺は、インターネットを通じて世界中の人々を標的とする社会全体の脅威」であり、「詐欺広告をプラットフォーム上からなくすことは、メタのビジネスにとって必要不可欠なことです」と宣言した。
しかし続けて、「世界中の膨大な数の広告を審査することには課題も伴います」「オンライン上の詐欺が今後も存在し続けるなかで、詐欺対策の進展には、産業界そして専門家や関連機関との連携による、社会全体でのアプローチが重要だと考えます」とも付け加えた。
莫大な被害が出ているのに、自社の責任については言及せず、社会全体の問題にすり替えるようなコメントを掲載したのだ。
このあまりに無責任な声明に、前出の前澤氏はX上で「日本なめんなよマジで」とマジ切れ。さらに自民党の平井卓也デジタル社会推進本部長は、詐欺広告の対策を協議する会合の中で、「当事者としての責任を感じる文章ではまったくない」とメタ社を非難し、同社に「しばらくの間、広告を停止することも検討」するよう求めた。
森永康平氏も「ふざけるな、と思いました」と話す。
「彼らも掲載料として詐欺広告から利益を得ているのだから、ちゃんと対応しなければならないのに、この声明はありえない。このまま態度が変わらないのであれば、運営会社が厳しい対策を取らざるをえない法改正などが必要になると思います」
なぜメタ社は責任を認めようとしないのか。ITジャーナリストの三上洋氏は、その理由を次のように指摘する。
「SNSは広告収益が生命線ということもありますが、メタ社のようにグローバルに展開するアメリカのIT企業にとって、これはアジアの辺境で起こった事件に過ぎず、そもそも関心が薄い。だから、日本で報じられているほど深刻にはとらえていないのです」
三上氏が続ける。
「AIの発達で、精巧なフェイク画像や動画を作ることが容易になり、詐欺広告の急増に対策が追いつかない、という現実はあります。ただ、SNSが実際に数百億円もの詐欺被害の入り口になっており、運営会社も詐欺広告から利益を得てしまっている以上、これは明らかに詐欺幇助です」
そもそも、なぜ投資詐欺はSNSで急増しているのか?
「実はSNSを経由した投資詐欺事件は今に始まったことではありません。恋愛感情を詐欺の手段として利用する『ロマンス詐欺』が原点です。
SNSを通じてつながった外国人が、『日本に会いに行きたいから旅費を送ってほしい』『移住の手続きに費用がかかる』などと偽り、相手の日本人からおカネをダマし取るというのが手口で、海外の詐欺グループが主犯でした。
しかし、この手口は2020年の春前頃から使えなくなりました。コロナ禍で世界的に旅行ができなくなってしまったからです。そこで詐欺グループは、『ふたりの将来のために』とニセの投資サービスに勧誘する手口を編み出しました。ここからより幅広い層にアピールできる手段として発展したのが、SNS投資詐欺です」
バブル以降の最高額を更新する空前の株高や新NISAの開始による投資人気の過熱も、詐欺被害を拡大させた。
「最初から投資を募る名目になったことで、この手口は従来のロマンス詐欺に比べ、短い期間で高額なおカネをダマし取ることに成功しました。
さらに、その手口も進化し続けています。AIを活用した広告からLINEグループに勧誘し、直接のやりとりに持ち込みます。最初は少額の投資で儲けさせて信用を得て、それから大きな金額の投資を持ちかける。
そして、お金が振り込まれたら連絡を断つのです。そのため、今回の詐欺では1件当たりの被害額が大きく、数千万円から億単位の被害に遭った人もいます」
しかも、失ったカネを取り戻そうと弁護士に依頼した先で、2次被害に遭うことも増えているという。
「投資詐欺の被害金を取り戻すからと、法外な手数料をダマし取る弁護士や司法書士をかたる詐欺が増えています。そこに登場する弁護士らの多くは悪徳業者への名義貸しをしていて、中には弁護士会から懲戒処分を受けたものの、いまだ広告を掲載している人もいる。決して安易に飛びつかないようにしてください」
詐欺被害の救済を求めた先で、さらなる被害に遭う地獄。フェイスブックやインスタがその悲惨な被害の入り口となっている以上、メタ社は一日も早く抜本的な対策をすべきだ。
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。