ここひと月ほどで、鹿児島、北海道、宮城とメガソーラー(大規模太陽光発電施設)の火災が相次いでいる。
感電の恐れがあるため放水がしづらく、太陽光パネルの破損によって有害物質が漏出するリスクもあるため、通常の火災と比べて対応が難しいという。
そんな危険な火災は、どうして起きてしまったのか? そこには、意外な原因があった!
■メガソーラー火災特有の危険性とは?
メガソーラー発電所の火災が鹿児島、北海道、宮城と相次いで発生した。太陽光発電設備の設置が全国各地で進む中、一歩間違えれば重大な災害にもなりかねない。いったい何が起きているのか。
鹿児島県の火災は3月27日、伊佐(いさ)市にある「ハヤシソーラーシステム高柳発電所」で起きた。消火活動に当たった伊佐湧水(ゆうすい)消防組合の隊員が説明する。
「夜間、メガソーラー設備にある蓄電設備が入る建物(広さ129.88㎡)から白煙が上がっているとの通報で消防隊が駆けつけました。扉を開けて内部を確認中に爆発が起き、火が燃え広がったのです。
消火まで20時間かかり、爆発の衝撃で消防隊員4人がケガをしました。あまりないタイプの火災なので、国も原因を調査中です」
4月13日には北海道根室市のメガソーラーでコネクターの漏電が原因とみられる火災が発生してパネルの下草1200㎡が焼失した。その2日後には宮城県仙台市の「西仙台ゴルフ場メガソーラー発電所」から火の手が上がる。
「火災が発生したのは午後1時40分頃。太陽光パネルの下に生えている草と太陽電池モジュールが約3万7500㎡にわたって燃えました。
鎮火は約22時間後の翌日午前11時半頃です。消火に時間がかかったのは、ソーラー設備から感電する危険があったため、水をホースから霧状にして放水しなければならなかったからです。出火原因を調査中です」(仙台市消防局)
これらだけでなく、過去にもメガソーラー火災は起きている。2019年9月に千葉県市原市の「千葉・山倉水上メガソーラー発電所」で、台風15号の強風で水上にあった太陽光パネルが損壊し、複数箇所から炎が立ち上がった。
20年12月には山梨県北杜(ほくと)市のメガソーラーで2万5800㎡の森林が焼ける火災が起きている。千葉の火災は直流ケーブルのショートが出火原因と断定されたが、山梨のケースは原因不明だ。
太陽光発電設備で火災が起きた場合、感電リスクを避けながら消火活動をするため、鎮火までに時間がかかり、被害が拡大しやすい。総務省消防庁によると、夜間帯でもパネルが炎の光を受けて発電してしまうため、状況は変わらない。
また、太陽光パネルによっては鉛やカドミウムなどの有害物質が使われている場合もあり、火災で漏出する危険性もある。
独立行政法人製品評価技術基盤機構によると、2008~2022年に家庭用を含めた太陽光発電設備で起きた火災は151件。これらを調べたところ、部品や配線回路などに不具合が生じていた例は多いとしながら、原因の特定に至らないケースがほとんどだった。そこで、火災の原因に迫ってみた。
■意外すぎる!? 3つの外部要因
メガソーラーの盛んな山梨県北杜市や関東一円で、長年にわたって太陽光発電事業を行なうGreenT(グリーンティ)の吉田愛一郎氏が解説する。
「太陽光発電は、発電用パネル、発電した直流電気を交流に変換するパワーコンディショナー、機器間をつなぐケーブルなどで構成されますが、基本的に燃えやすいものはなく、火災は起きにくい構造になっています。しかし、実際に火災が起きていることを踏まえると、原因として次の3つが考えられます」
ひとつ目の可能性が、野生動物の仕業だ。
「ケーブルを小動物がかじることで漏電する可能性があります。むき出しになったケーブルから火花が飛ぶなどし、パネルの下草が燃えれば火災になります。
メガソーラーの多くは山間部にあり、ネズミ、ハクビシン、アライグマ、イタチなどがたくさんいます。ただし、エサの多い自然の中で、なぜあえてケーブルをかじるのか疑問はありますが」
太陽光発電設備ではないが、東京消防庁管内では小動物が関連した火災が年間20件程度起きている。ネズミが配線をかじったり、ゴキブリの死骸やふんが回路や基板に詰まったりしたことでショートして出火したケースだ。それを考えると、動物が原因になることもありえなくはないだろう。
ふたつ目に挙げられるのが、ペットボトルだ。
「普段は人けのないメガソーラーですが、メンテナンスのために作業員らが立ち入ることがあります。自分が飲むために持ってきた水の入ったペットボトルを置きっぱなしにしてしまった場合、ボトルに太陽光が当たってレンズの役割を果たし、その先にある可燃物が発火してしまうのです」
この現象は「収斂(しゅうれん)火災」と呼ばれ、実際に火災が起きた事例もある。昨年11月、長野県軽井沢町の住宅でドアなどを焼失した火災の原因は、玄関先に置かれていた水の入ったペットボトルだった。メガソーラーのある場所でペットボトルの先に枯れ草などの燃えやすいものがあれば、そこから火災になる可能性もある。
そして、最も可能性が高いと吉田氏が言うのが、たばこのポイ捨てだ。
「誰かが火のついたたばこをメガソーラー施設の中に投げ捨てれば、多くの草が生えているだけに簡単に火災を引き起こします。山火事で多い原因の4番目に入るのもたばこの不始末です。人間の不注意から火が出ている可能性は大いにあります」
しかし、ペットボトル説にも通じる疑問だが、メガソーラーがあるような山間部に人はそうそういないのではないだろうか。その疑問に対し、吉田氏はある集団が関係しているのではないかと指摘する。
「実はメガソーラーを狙った窃盗団が急増しているんです。電線に含まれる銅が高く売れるため、ケーブルを切断して盗み出すのです。検挙された窃盗団の8割近くは外国人でカンボジア人やベトナム人などが中心ですが、彼らは男性の喫煙率が高い。窃盗団は犯行の1週間ほど前から下見に来るため、その際に投げ捨てたたばこが火元ではないかと推測しています」
実際に、今年4月に数百mの銅線ケーブルを盗まれた山梨県北杜市にあるメガソーラーの管理者も、一連の火災はたばこの吸い殻が原因ではないかとみているそうだ。
「太陽光パネルの周辺にたばこの吸い殻が落ちているのはしょっちゅうです。普段、人が頻繁に通る場所でもないので、捨てたのは現場で作業をした人か窃盗団のどちらかでしょう。
火をもみ消さずに投げ入れた吸い殻から下草に火がつけば、いつ火事になってもおかしくない。北杜市で2020年にメガソーラーの火災が起きた時期は、市内のソーラー施設でケーブル盗難が増え始めた時期とも重なります」
警察庁によると、銅線を含む金属類の盗難認知件数は統計を取り始めた2020年に5508件だったのに対し、22年には1万403件に増えた。窃盗場所の狙いを定めるためにメガソーラーを巡回する窃盗団がたばこの吸い殻を投げ捨て、それが火災につながっていても不思議ではない。
■全国各地の施設は安全か?
一方、元東京消防庁麻布消防署長で市民防災研究所理事の坂口隆夫氏は、発電設備の部品の経年劣化も出火原因として見逃せないと話す。
「設置から年数がたった設備の場合、電子部品、配線、端子などが古くなり、なんらかの原因でショートして電線被覆に着火することがある。発電モジュール裏の隙間に鳥の巣ができていて、燃えやすい枯れ葉や枯れ枝がたくさんあったケースもあります。
太陽光発電設備に使われる部品には防水処理がされていますが、部品が劣化すれば雨水が入り込んで熱を持ち、出火するリスクがあります」
新しい設備であっても、安心はできないという。
「部品の初期不良や取りつけが十分ではないなど施工不良があれば、出火の原因となります。野外での使用を前提とするメガソーラーは雨水に強く、火災が起きにくい構造です。しかし、電気が流れる部品を多く使ってシステムが成り立っている以上、常に適切な点検をしなければ、火災のリスクは捨てきれません。
それに、なんらかの原因で発火した際、下草があれば燃え拡がるリスクが高まります。地面をコンクリートにするなどの対策が必要です」
こうした盗難や火災などの災害が増えたことで、太陽光発電施設向けの火災保険の保険料の大幅な値上げや更新拒否などのケースが相次いでいる。保険の引き受け手がなくなればメガソーラーの普及も滞るため、前出の吉田氏は独自に保険商品を扱う共済組合の設置を検討するなど、対応に苦慮しているという。
固定価格買取制度やFIP制度といった助成制度を背景に、メガソーラーの設置は各地で進む。それと同時に、環境破壊や災害の問題もクローズアップされるようになってきた。
北海道釧路市では、ラムサール条約登録地にメガソーラーが乱立して希少生物への影響が深刻化。奈良県では、防災拠点に知事がメガソーラーを設置すると表明したところ、災害リスクを懸念する住民から猛反発を受けている。
メガソーラーが急増中の現在、新たな問題の「火種」を生まないためにも、早急な火災の原因究明と対策が必要だ。