お酌と会話だけのサービスに「話が違う」と騒ぎ出す客もいるという お酌と会話だけのサービスに「話が違う」と騒ぎ出す客もいるという
複雑な人間関係が絡み合った殺人事件の全貌がようやく明らかになってきた。

東京・上野の駅前で複数の飲食店を経営していたオーナー夫妻が4月、栃木県那須町の山中で遺体となって発見された事件。警視庁は5月19日、夫妻の殺害に関わったとして、死体損壊容疑で逮捕していた32歳の娘婿を殺人の疑いで再逮捕した。事件を巡っては、すでに「指示役」「実行役」などとして6人の男が逮捕されている。

凄惨な事件が全容解明に向かって動き出した一方、もうひとつ詳(つまび)らかになったのが、街の移り変わりである。

「アメ横周辺に飲食店や商店が集中する上野界隈では、中国や韓国、東南アジアからの観光客が殺到し、大変な賑わいを見せていました。被害に遭った夫妻は、ともに中国の東北部出身で、日本に帰化した後に会社を興し、上野駅前で複数の店舗を経営していました。

新型コロナの感染拡大で撤退した店舗を傘下にしていくやり方で、インバウンドにうまく対応して業容を拡大していったようです」(地元関係者)

■パンデミック後も客足は戻らず

こうした街の変化は上野に限ったことではない。都内随一のネオン街として知られる銀座も、世情の移ろいとともにその相貌を変えてきているのだという。

「銀座はここ数年で確実に変わりました。『座っただけで10万円』なんていう高級クラブはあるにはありますが、数はどんどん減ってきている。コロナもあったし、この円安でしょう? 景気が悪くってお客さんが離れたまんま、戻って来ないんですよ」

そうぼやくのは、高級クラブが軒を連ねる銀座7丁目の某店で黒服をしている男性(45)だ。

長期化する日本経済の低迷と歩調を合わせるように、これまで金を落としていた得意客も櫛の歯が抜けるように街を離れていった。接待費が絞られたことで、企業の重役連中や経営者といった社用族の姿は消え、コンプライアンス遵守が盛んに叫ばれるようになった世相の変化は、スキャンダルを恐れるスポーツ選手や芸能人の足をも遠のかせた。

街の賑わいを下支えしてきた資金が枯渇していくなか、銀座には「庶民化」と「中国化」の2つの波が急速に押し寄せているのだという。

「これまで見かけることがほとんどなかった客引きの姿が目立つようになってきたんです。最近、相次いで開店した大衆向けのキャバクラに客を呼び込んでいる。

あとは、経営難になったクラブを資産家の中国人が買い取るケースも増えてきた。彼らが狙うのは日本人客ではありません。インバウンドの中国人富裕層を当て込んでいるんです」(前出の黒服男性)

高級クラブ街として名を馳せた夜の銀座も、パンデミックを機に様変わりした 高級クラブ街として名を馳せた夜の銀座も、パンデミックを機に様変わりした
そんななか今年1月、多くの高級クラブが軒を連ねる銀座7丁目に、界隈の店舗とは趣を異にする〝クラブ〟がオープンし、老舗の店舗経営者ら古くからの銀座を知る関係者の間で話題を呼んだという。

「開店したのはクラブはクラブでも、踊るほうの『クラブ』。イベントなんかもやるようですが、水着姿の女の子のダンスショーも楽しめるようになっていて、ダンサーの女の子とも飲めるようになっている。

女の子を指名してシャンパンなんかを入れると、100万円を超えるような会計になったりもする店です。着物姿のホステスが接客するような周囲のクラブとは明らかに雰囲気が違っていて、店の周辺だけ一種独特の雰囲気を醸しているのです」(前出の黒服男性)

■中国人向け「最後まで」サービス

銀座と同じく歓楽街として知られる六本木では、2011年にオープンした「ROKUSAN ANGEL」(旧バーレスク東京)が人気を集めている。妖艶な女性ダンサーによるポールダンスなどのパフォーマンスが楽しめる点など、銀座に出現した新たなスポットとの類似点も多いが、異なっているのはその成り立ちだ。

「銀座の『クラブ』のほうは、どうやら中国系の資本が入っているようなんです。なんでも、『東京の夜は遊ぶところがない』という声が、彼らがメインターゲットに据えている中国人の富裕層のお客の間から上がったらしく、そうしたお得意さんのリクエストに応じて店をオープンさせたと聞いています。

ホステスとの会話や駆け引きを楽しむ昔ながらの銀座の遊び方は、彼らにとって退屈なものでしかない。まどろっこしいやり取りは抜きにしてゴージャスな女遊びがしたい、というのが彼らの本音だってことです」(前出の黒服男性)

銀座にやってくる中国人富裕層と接する機会も多いこの黒服いわく、彼らがしばしば口にするセリフがあるのだという。

「最初から最後まで」――。

夜の街で「最後」が意味するものとはもちろん、意中の相手と一晩を共にすることを指すわけだが、そうした新たな得意客のニーズに合わせようとする店も増えつつあるという。

「中国人客を相手にするクラブの中には、最初から売春までセットになっている店もありますよ。散々、金を遣わせてヤレないとなると、『話が違う』と騒ぎ出す客もいてトラブルになることも結構あるんです。

中国人が出資して実質的なオーナーになっている店はほぼほぼ、『最後まで』の店だと思ってもらってもいいくらい。商売が立ち行かなくなって身売りする店も増えてきていますから、そのうち銀座全体にそういうシステムが行き渡っていくかもしれませんね」(前出の黒服男性)

最近、日本人女性の韓国への「出稼ぎ売春」を斡旋していた業者が韓国当局に摘発されたというニュースが報じられたばかり。銀座の街の移ろいも、衰退する日本の現実を映し出しているのかもしれない。

安藤海南男

安藤海南男あんどう・かなお

ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中

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