安田峰俊やすだ・みねとし
1982年生まれ、滋賀県出身。ルポライター。中国の闇から日本の外国人問題、恐竜まで幅広く取材・執筆。第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』、第5回及川眠子賞を受賞した『「低度」外国人材移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)など著書多数。新著『中国ぎらいのための中国史』(PHP新書)が好評発売中
金策に困った果てに、頼ったのは中国の業者。そこで示された貸し出しの条件、それは裸の写真を撮ることだった――。
通称「ヌードローン」という中国発の融資スタイルが日本でもひそかに行なわれ始めている。今回、そのターゲットとなった日本人風俗嬢とのコンタクトに成功。壮絶な体験談を聞いた!
「数年前、ハマっていたホストの売掛金(ツケ)が返せず困っていたんです。そうしたら、同じ"ホス好きのコ"から、簡単にお金を借りられる方法があると聞いて......」
新宿のカラオケボックスでそう話したのは、風俗嬢のヒヨリさん(25歳。仮名、以下同)だ。
北日本出身の彼女は、未成年の頃からホストにドハマり。お気に入りの「担当」をしばしば変えつつ、これまで数千万円をつぎ込んできた。
彼女の収入は多いが、ホス好き女子の例に漏れず、手元にほとんどお金は残らない。時には、売掛金が自分の月収を上回ることもあった。
「クレジットカードはとっくにブラックリスト入りで、一般の消費者金融からは借りられない。大手以外の街金(小規模消費者金融)も、何回か支払いをバックレたから、頼れなかったんです」
となると、あとは非合法的な業者しかない。そこで、ツイッター(当時。現X)で知り合った友人経由でヤミ金の仲介者を紹介してもらった。
すると、その人物は融資の代償として、彼女に不思議な要求をした。
「胸やおなかなどの素肌に油性ペンで本名、住所、電話番号などを書いて、マンションの廊下に全裸で立っている写真をLINEで送れ、と言われました。それが担保になるからと」
その写真を送ると、約束どおり12万円を借りることに成功した。
そんな奇妙なヤミ金を教えてくれた"ホス好きのコ"は、ほかにもお金に困っている女性たちに、この仲介者を紹介していたもようだ。
やがて仲介者の言葉から、ヒヨリさんは彼の背後にいる金主が中国人であることを知る――。
こうした若い女性向けのエゲツナい融資の方法は、中国では「ヌードローン」(裸体貸款)と呼ばれている。
ヌードローンはもともと、2010年代中盤に中国で流行した、個人間のカネの貸し借りやヤミ金の手法である。
現地での一般的な方法はこうだった。まず、困っている女性がスマホの前で裸になり、自身の身分証と共に自撮りした写真やオナニー動画、さらに学生だと在籍校の情報や本人と両親の個人情報を貸主に送信。それらのデータを担保としてカネを借りる。
女性がカネを返せなければ、貸主は"恥ずかしいデータ"を彼女の両親や教師のみならず、校内のSNSグループにバラまくと脅す。こうすれば貸し倒れせずに債権を回収できるというわけだ。
16年11月30日には、お金を貸したい人と借りたい人のマッチングプラットフォーム「借貸宝」のサーバー上から、ヌードローン撮影者の画像データが流出し、中国人女性167人分のハダカがネット上にさらされる事件も起きている。
中国メディアによると、被害者の多くは18~23歳で、地方出身の大学生や専門学校生が多かった。
彼女らが借りた金額は1000~2万3000元(約2万2000~50万円)と比較的少額で、利息は高い人で週に1.5割ほど。ただし、返済が滞った場合は1日延滞で元金の2割、3日延滞で3割が追加で課せられたという。
そしてこの手法は、近年になり本国以上にレベルアップした形で日本に上陸しているようなのだ。
中国の場合、ヌードローンの被害者は新しいスマホを買いたい学生などの「借金初心者」が多い。そのため、両親や友達にデータをさらすと脅すだけで、十分にローンの担保になる。
だが日本の場合、ここまでヤバい方法でお金を借りる女性は、過度のホスト好きなどで借金がかさみ、ヤミ金以外では借りられない人たちになりがちだ。
家族関係が希薄な人や、稼ぐためにハダカの仕事を選ぶ人も多い。腹をくくった女性に対しては「写真を親に見せるぞ」という脅し文句は効果が薄い場合がある。
結果、在日中国人系のヌードローンのやり口は、本国より過激になる。前出の風俗嬢、ヒヨリさんは言う。
「2回目に仲介者に連絡したら、例の"ハダカ油性ペン"姿で、床に置いたヨーグルトを手を使わず犬食いする動画を撮って送れと言われました。中国の文化だと、そういう姿に興奮する人がいるって言ってましたね」
冷蔵庫にヨーグルトがないと話すと、「妥協案」としてチャーハンでもいいと言われた。そこで実際にやってみると、再びお金を貸してもらえた。
その後も何度か借りるたびハダカ油性ペン姿にコート1枚だけを羽織り、スーパーの店内で前を開いて露出する姿や、浴室で放尿する姿の動画を担保として要求されたという。
ただ、ヒヨリさんは推しのホストのためなら平気だとばかりに要求を笑いながらこなしていたようだ。
「利子は10日で2~5割くらい。私はけっこうすぐに返済していたので、借金で首が回らなくはなりませんでした」
そう話すヒヨリさんだが、返済が間に合わないときは、利息分を返す代わりに新しい"ハダカ担保"を撮影したこともあったという。
ヒヨリさんを悩ませたホストクラブの売掛金問題は、近年数多く報じられている。普通の女性が来店ごとに数十万~数百万円を使うことは不可能に近いため、性風俗などでまとまったカネをつくろうとする人が多い。
そして最近は、こうしたホストと風俗嬢の関係の各所で、ヌードローン以外にも中国の影が見え隠れする。
例えば、日本人女性が海外の風俗店に働きに行く「風俗出稼ぎ」の世界だ。
「オーストラリアの中国人経営の店で2週間働いて200万円。そのお金を全額使って、担当のシャンパンを入れました(笑)」
そう話すのは元OLのサトミさん(38歳)だ。彼女は数年前、担当のホストに入れ込み、金策のため海外に出稼ぎに行った。現在は関西地方のソープランドで働いている。
「Xでエージェントを探せば、アメリカやEU、ドバイ、オセアニア諸国などの中国系の職場を紹介してもらえます。現地のオーナーとは、『微信』(中国のチャットアプリ)でやりとりするのが定番です」
日本人女性の出稼ぎは、2020年前後から活発化した。国内にいるスカウトなどが、複数の仲介者を介して海外の中国系性風俗店と組織的につながるようになったからだ。
今や、ホストにハマった女子を海外に紹介する仕組みは、かなり大規模かつシステマティックだ。ベテラン出稼ぎ嬢のエリカさん(48歳)が現状を話す。
「オーストラリアの某店は、約20人の在籍嬢の全員が日本人で、8割くらいはホス好きのコ。日本で風俗経験がゼロのまま『担当に海外で稼げと言われた』とやって来るコもいます」
結果、近年は日本人の若い女のコがひとりでアメリカやオセアニア諸国に観光に行くと、セックスワーカーと勘違いされて入国拒否に遭う事例が続発している。エリカさんは続ける。
「出稼ぎ先の中国人経営の性風俗店は、微信のグループを通じて、日本を含めた世界中で横のつながりがあるんです」
つながりは関連産業にも及ぶ。例えば、女のコが海外で稼いだカネを、税関をスルーして国内に持ち込むための送金システムだ。
「ニュージーランドの店で、中国人オーナーに地下送金を相談したら、紹介された微信のアカウントが、私の知り合いの都内に住む在日中国人だったんですよ」(エリカさん)
地下送金は、世界各国からいったん中国国内に送られ、人民元を経由して日本円に再両替される。それが、池袋や新大久保など都内のニューチャイナタウンに拠点を置く業者に送られる仕組みになっている。
エロ産業と深い接点を持ちつつ、地下金融に携わる在日中国人の数は限られている。こうした業者がキャッシュを増やすことを目的に、ホス好き女子向けのヌードローンにも関わっている可能性は高い。
ホストの売掛金や女性の海外売春は、どれも最近の日本の社会問題だ。だが、実はこれらはすべて、華人の世界的な黒いネットワークと密接につながっているのである。
1982年生まれ、滋賀県出身。ルポライター。中国の闇から日本の外国人問題、恐竜まで幅広く取材・執筆。第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』、第5回及川眠子賞を受賞した『「低度」外国人材移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)など著書多数。新著『中国ぎらいのための中国史』(PHP新書)が好評発売中