銀行やサラ金では借金ができなくなった多重債務者に、法定利率をはるかに超える利息で金を貸し付け、全国に延べ1000店舗を構える組織的な闇金融として2000年代に社会問題となり警察に摘発された、旧五菱会の闇金グループ。20年近い歳月を経て、再興の兆しをみせている。
■「羽振りのいい生活に戻りたかった」
警視庁は5月22日、昨年10月から今年2月にかけて国に無登録で貸金業を営み、男女9人に計約180万円を貸し付け、法定金利の3・4~17・9倍の利息約68万円を得たとして、男女4人を出資法違反などの容疑で逮捕したことを発表した。
この4人のうち東京都大田区の無職の男(44)は、旧五菱会の闇金グループのOBで、「当時の羽振りのいい生活に戻りたかった」などと容疑を認めているという。全国紙社会部デスクが語る。
「男は、旧五菱会の闇金の店舗で、集客や貸し付けを行っていたといいます。摘発後は足を洗ったようですが、2018年ごろに再開し、1万5000件の貸し付けを行って6億円もの利息を得たとみられています」(社会部デスク)
■1000店舗以上展開。東京ドームで野球大会も
旧五菱会は、静岡を本拠とする山口組の直系団体。当時の五代目山口組の渡辺芳則組長が、代紋である菱型にちなんで命名したとされる。そして、旧五菱会の実質ナンバー2で通称「闇金の帝王」こと梶山進元被告が、「カジック」と呼ばれるグループを率いて全国規模で闇金融を行い、2000年代前半には1000店舗以上を構え、6万人近くに高金利で貸し付け、1000億円以上を荒稼ぎしたとされている。東京ドームを貸し切って店舗対抗の野球大会を開いたとまで伝えられている。
一方、取り立ても苛烈で、「今から家に行くから待ってろ」「親兄弟に泣きつけ!」といった暴言で債務者を苦しませた。結局、梶山元被告は2003年に逮捕され、懲役6年6ヶ月、罰金3000万円、追徴金約51億円を言い渡されて「カジック」は瓦解した。カジックの組織構図について、捜査関係者が解説する。
「カジックは、トップの梶山の下に七人衆という幹部が置かれ、全国の店舗を取り仕切りました。客の返済が滞るようになると、グループ内の別の店舗がより高い利率で貸し付けるといった具合にしてがんじがらめにして搾り取る。
また、センターと呼ばれる顧客名簿を収集・管理する部門を置いたのが特長で、システマチックに多重債務者を囲い込むのが当時としては斬新な手口でした。今回逮捕されたグループにもセンターが置かれていたようで、当時の手口を踏襲したのでしょう。また、数万円単位の小口の貸借に力を入れていたのも当時と通じるところがあります」(捜査関係者)
■振り込め詐欺流に出し子を活用
時流に沿った改変も行われていた。
今回逮捕されたグループは店舗を持たず、ホームページで客を募り、電話を通じて客の口座に入金する。返済時には入金させた金を別の口座に移し替え、出し子が金を引き出してコインロッカーに収める。そして、運び屋が別のロッカーに移し替えるなどして捜査をかく乱させるという、振り込め詐欺のような入金方法が行われていた。
「今回逮捕された者の中には、自らも多重債務者で返済に詰まって出し子に加担したケースもあります。派手なリクルートをせずにグループの人員を拡大させていくという手慣れた手口でした」(前出デスク)
■カジック再興の動きも
残党たちによるカジック再興の懸念が残る一方、司法では画期的判決がなされた。
都内のコンサル会社代表が訴えを起こした、闇金を営んでいた神戸山口組系組員による融資がらみの民事訴訟で、京都地裁は5月21日、暴力団対策法に基づく代表者責任を認め、井上邦雄組長ら4人に約2億7400万円の支払いを命じた。組員が、組織の存在を示してコンサル会社代表と交渉したことなどが、井上組長の責任と認定されたかたちだった。裏社会に詳しいA氏は次のように語る。
「ヤクザ丸出しで闇金を行えば、いまの時代はトップにまで責任が追及される。とはいえ、多重債務者はいつの時代も存在し、裏社会の人間には手堅く稼げるシノギだから、消えることはなく、手法を変えて残っていく。
カジック摘発後も、残党は警察の目をかいくぐりながら当時の顧客名簿を頼りに闇金を続けている。彼らの中には、振り込め詐欺に移行した者もいるが、取り締まりの強化で闇金に戻ってきているとも聞く」(A氏)
カジックの脅威は、年号を違えても日本社会に厳然と残っている。