大食漢から「いろいろなものを少しずつ食べたい」という人までを惹きつけてきた「食べ放題」というビジネスモデルが今、世界中で曲がり角に差し掛かっている。

米レストランチェーンを運営するレッドロブスターが5月19日、日本の民事再生法に相当する連邦破産法第11条の適用を南部フロリダ州の連邦破産裁判所に申請したと発表した。

パンデミックを通して負債が膨らんでいた同社は昨年、「ロブスター&エビ食べ放題」という起死回生のメニューを導入していた。この施策が自らの首を絞めることとなり、2023年第3四半期には1100万ドル(17億円)超の営業損失を計上していた。

米レッドロブスターのエビ食べ放題キャンペーン「アルティメイト・エンドレス・シュリンプ」のネット広告 米レッドロブスターのエビ食べ放題キャンペーン「アルティメイト・エンドレス・シュリンプ」のネット広告
物価高のアメリカでの20ドル(約3100円)という格安のエビ食べ放題は、客足の確保という面では一定の効果を得たが、原材料費や人件費が高騰するなかでの大盤振る舞いは、「諸刃の剣」だったようだ。

ちなみに、日本で展開しているレッドロブスターは運営会社が異なるため、この件とは影響はないが、国内でも食べ放題業界には荒波が押し寄せている。

2019年1月末の段階では全国に142店舗を展開し、日本最大の食べ放題レストランチェーンだった「すたみな太郎」もその一例だ。新型コロナ流行の影響で、2020年には全国で51店舗の大量閉店を余儀なくされた。2021年に入るとその波は一旦緩やかになるも、物価上昇のなかで2022年に2度の値上げを敢行。同年7月まで2310円だった「大人ディナー」の料金は年末には3278円へと大幅改定された。その影響か、閉店ラッシュが再び加速。6月26日現在、 全国63店舗まで数を減らしている。

また、コロナ禍直前まで全国に24店舗を展開していた、デザート食べ放題の「スイーツパラダイス」は、現在までに店舗数を約2割ほど減らしている。さらに、寿司の食べ放題メニューを展開する複数の飲食チェーンでは、水産物価格の上昇を受け、「うに・中トロは2貫まで」といった条件を課す動きが広がっている。

一方で、「焼肉きんぐ」のように食べ放題メインのビジネスモデルでありながら店舗数を着実に増やしている店舗もあるのも事実だが、業界が「修羅の道」と化していることは間違いない。ただ、食べ放題メニューを提供する飲食店を悩ませているのは食材の高騰だけではないようだ。某食べ放題専業チェーンで働く女性従業員のSさんが明かす。

「最近うちのチェーンでは、一部のお客さんによるチート行為に悩まされています。通常食べ放題は、簡単に赤字にならないよう原価が計算されていますが、そうしたお客さんが集中した日は赤字になることもあります」

飲食店の食べ放題での不正といえば、食べられない量の料理を皿に盛ったり、密かに容器に入れて持ち帰ったりという行為が思いつく。しかし、Sさんによると店を悩ませているのはまた別のチートだという。

「うちのディナービュッフェの時間制限は120分ですが、食事中に4回も5回もトイレに行くお客様が1日に3、4人は必ずいます。体調が悪い可能性もあるのでスタッフとしては目を配りますが、トイレの個室から聞こえてくるのは、嘔吐している様子です。

しかし、その後は何事もなかったように再び料理を取って、食べはじめる。そして満腹になるとまたトイレに行って吐き出す。時間の限りこれを繰り返すのです。うちの店ではそういうお客さんを『本職の方』という隠語で呼んでいました」(Sさん)

Sさんによれば、こうしたチート行為は以前にも散見されたというが、コロナ禍以降には目に見えて増えてきているという。店では、「本職の方」には退店時にやんわりと出禁を伝えていたというが、「ほとんどの方がお構いなしに再来店するし、名前や顔写真をブラックリストにすることもできないので効果はない」とSさん。

また、チート行為に手を染める顧客は、トイレにとある共通の忘れ物をしていくことがしばしばあるという。

「ペットボトルの飲み口くらいの口径の、長さ1メートルくらいのホースのようなものが忘れられていることが何度もありました。先輩スタッフによると、意図的に嘔吐をする際に口から食道に突っ込んで使うものなのだそうです」(Sさん)

消費した量ではなく、満足感に対価を支払うのが食べ放題だが、良識のうえに成り立っているビジネスモデルであることを忘れてはならない。

吉井透

吉井透

フリーライター。中国で10年、米国で3年活動したのちに帰国。テキストメディア以外にも、テレビやYoutubeチャンネルなど、映像分野のコーディネーターとしても活動中

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