近年、国内のドラッグ市場は、大麻やコカイン、エクスタシーといった比較的カジュアルな薬物が流行中だ。とりわけ顕著なのが「ケタミン」と呼ばれる動物用の医療薬で、強烈な酩酊作用を持つと言われている。
「若者の間で蔓延しており、5月には台東区内のクラブを警視庁が"急襲"。一晩で14人もの逮捕者を出しました。このとき捜査員は200名以上、麻薬探知犬まで現場に投入したと聞きます。当局の危機感がうかがえます」(全国紙社会部記者)
■海外SNSを匿名利用
麻薬が蔓延(はびこ)る背景には、流通インフラが激変した、という側面が大きい。
「かつて薬物を入手するには、暴力団やそれに準ずる"ちょっと危ない人"とのコネクションが必要でした。もしくは街頭に立つイラン人に声をかけ、リスキーな取引をするか。それがこの10年間で激変し、ユーザー目線でみれば安全かつ即座に手に入れられる環境が整ったのです」
そう語るのは、とある警察関係者。飛ばしの携帯など持たずとも、ほぼ匿名で密売組織とやりとりできる現状を嘆いているのだ。
「テレグラムやシグナルといった匿名性の高いチャットツールを使えば、証拠となる履歴を追うことは困難になる。こうしたアプリを、海外の電話番号で取得するサービスがネットでは500円くらいで利用できるのですが、これをやられるともうお手上げ。
売人を捕まえて端末を押収したとて、入手できる番号はアメリカやフィリピンのまったく無関係のもの。以前のようなに芋づる式の検挙ができなくなっているのです」(警察関係者)
こうしたインフラによって安全な通信環境を手に入れたユーザーと売人をつなぐのが、SNSだ。麻薬の密売人を指すスラングに"プッシャー"なる言葉があるが、主要なSNSには「手押し」、つまり対面して麻薬を売りさばく密売人グループが跋扈(ばっこ)しているのだ。
「X(旧Twitter)をはじめとするSNSで、『手押し 場所名』で検索するとわんさか出てきます。覚せい剤はアイス、大麻は緑や野菜、LSDは虹のアイコンなどで表現され、Xで集客したユーザーを密売人が運営するテレグラムのグループに誘導し、そこでは商品の写真や値段を公開。購買意欲に火を点けたところで1対1のチャットでやりとりするというのが昨今のトレンド。
当然、Xも密売人が集客できないようアカウントをみつけたらバンしていくのですが、やつらは何度消しても復活する。イタチごっこです」(同前)
ある広域指定暴力団関係者もこう語る。
「昨今は女性を前面に立てるマーケティングが流行ってるね。これなら女性客も安心して頼めるっていうのと、男のスケベ心を刺激するという観点からも有効。さらにえげつないのは、チャンネルでは覚醒剤を打ち込む動画や、ジョイント(大麻を煙草状に巻いたもの)に火を点けて吸う様を堂々と公開している。
覗きにきたら最後、何年も我慢していたのにその動画を見てスリップ(薬物中毒者が再び手を出してしまうこと)しちゃうなんて話は腐るほど聞いてきたし、それがやつらの狙いだから」(暴力団関係者)
■高校生も覚醒剤で逮捕
テレグラム上の薬物売買系のグループには、密売人と思しき投稿者から、大量の覚せい剤の写真や氷のような結晶が詰まった注射器など、生々しい画像や動画が数多くアップされている。一際目を引いたのが、女性が自らの首に注射器を打ち込む動画だ。針先を下に向け、細い首筋にその先端を当てると「ビュッ」と鮮血が注射器のシリンジ内に逆流するのだ。
「こうした動画をアップすると、直後に注文が殺到するらしい。今の40~50代ってちょうど若かった頃に第3次覚醒剤ブームがあった年頃で、その時の経験者が動画に触発されてごそっと来るんだと」(暴力団関係者)
この暴力団関係者が言う通り、覚醒剤には大まかに乱用期がこれまで3回あったと言われ、
第一次 1954年頃(年間検挙者数55664人)
第二次 1984年頃(年間検挙者数24022人)
第三次 1997年頃(年間検挙者数19722人)
とされている。最近だと、覚醒剤取締法違反容疑での検挙は2016年に11200人を記録して以来減少傾向にあるが、密売組織は今後増加するとみている。
「SNSやテレグラムの普及で捕まりにくくなってるから、検挙数が減ったのでは。繁華街で強引な職務質問やるくらいしか有効な手立てがないからね。ドラッグのマーケットは確実にこの数年拡大していて、シャブもまた流行り始めている。6月には高校生が逮捕された事例もあったほどで、これが弱まる気配はない」(同前)
日本を蝕むドラッグ汚染は広まるばかり。人生を棒に振る人が1人でも減ることを祈るばかりだ。