猛暑対策として路上にドライミストを設置する自治体も増えてきた 猛暑対策として路上にドライミストを設置する自治体も増えてきた

■偏西風と海流の影響で今年は異次元の暑さに!

昨年の夏は、東京都心で30℃を超える真夏日が64日間も続いた。また、群馬県では35℃以上の猛暑日が46日もあった。さらに、東北の福島県や北陸の石川県では40℃以上の酷暑日を記録した。観測史上最高に暑い夏だったのだ。

では、今年の夏はどうなるのか? 三重大学「気象・気候ダイナミクス研究室」の立花義裕教授に聞いた。

「今年の夏は、昨年を超える暑さになると思います。40℃超えの地域も多く出てくるでしょうし、その暑さが10月まで続く長い夏になるでしょう。

さらに、昨年は東北地方などでも豪雨被害が出ましたが、今年も日本全国のどこで豪雨被害が出てもおかしくない状況です。

ですから、今年の夏は『晴れれば40℃に迫る灼熱地獄、雨が降れば警報級のゲリラ豪雨』という両極端な夏になると予想しています」

――その理由は?

「ひとつは"偏西風のスーパー大蛇行"です。

偏西風は通常、西から東に真っすぐ、あるいは少し蛇行しながら吹いています。そして、偏西風の北側は寒く、南側は暖かい。日本はこの偏西風の通り道にあるので、ちょっとしたブレによって暑くなったり寒くなったりします。

そして、ここ数年は偏西風が日本を避けるように北に大きく蛇行しているのです。そのため、日本列島は北からの涼しい空気が入らず、南からの熱い空気に覆われています。

なぜ、そんなスーパー大蛇行が起きているかというと地球温暖化の影響が一因です。最近は北極の氷が溶けてシロクマが困るほど北極の気温が上がっていますよね。

北極の気温が上がると、赤道との気温差が小さくなります。偏西風は気温差が大きければ大きいほど強く真っすぐ吹きますが、小さいと遅くフラフラと蛇行します。

温暖化によって北極と赤道の気温差が小さくなったことが偏西風のスーパー大蛇行の一因です。さらに日本は西にユーラシア大陸があって、東には太平洋がある。こういう地形は偏西風が北に迂回しやすいんです」

それだけではない。

「ふたつ目は、日本近海の海面水温が異常に高いことです。場所によっては平年よりも6~7℃高く、昨年と比べても2~3℃上がっています。これは異常な状態です。

日本は海に囲まれていますから、当然、海で暖められたジメジメした空気が陸地に入ってきます。ですから、暑くなって当然です。

そして、その海面水温の上昇が起こる理由は"黒潮のジャイアント蛇行"です。

黒潮はフィリピン周辺から北上し、屋久島にぶつかって日本列島を離れて東に流れ、房総半島から太平洋に出ていく暖かい海流です。

しかし、最近は房総半島から北上し、東北を通って北海道沖まで流れているんです。九州並みの暖かい海水が、日本の太平洋側全体を覆っています。すると、例年なら海風が吹けば涼しくなる東北地方も暑くなるわけです。

では、なぜ黒潮がジャイアント蛇行しているかというと、流れる速度が遅いからです。速ければ偏西風と同じようにある程度、真っすぐに流れます。しかし遅いと蛇行してしまう。

じゃあ、なぜ遅いかというと、普通は偏西風が黒潮の流れを速くさせているのですが、最近は偏西風が遅くフラフラしているので、黒潮を引っ張る力が弱くなっているんです。

さらに、黒潮がジャイアント蛇行している理由はもうひとつあります。

日本の北にはオホーツク海から流れてくる冷たい海流の親潮があります。例年はこの親潮が北上する黒潮をブロックしているのですが、最近は親潮の流れも弱まっているので、黒潮が簡単に北上してしまうんです」

日本近海の水温が高い理由はまだある。

「昨年の猛暑によって陸地も温まりましたけど、海もむちゃくちゃ温まりました。その余韻がまだ続いているんです。というのも、普通は冬になると海水も冷えるのですが、この冬は暖冬でした。そのため海が冷え切らなかったんです。

ですから、昨年の夏の熱が海にまだ残っている。だから、海面水温が平年よりも6~7℃高くなっているんだと思います。これはもう異次元の状態です。アナザーワールドですよ」

■灼熱地獄で生活にも大きな影響が出る!

海面水温が高くなると雨も多くなるという。

「暖かい海のほうが海水の蒸発が盛んで、水蒸気がたくさん発生します。そして、その水蒸気が大気で冷やされると雨が降ります。現在は日本の周りの海面水温が異常に高く、その湿った空気が陸地にも流れ込んできているので、低気圧がやって来ると全国各地で豪雨になりやすいんです。

夏の豪雨に慣れていない関東や東北地方、日本海側の人たちは、しっかりと豪雨に対する警戒をしてもらいたいと思います」

さらに、もうひとつ心配な現象が起こりそうだという。

「昨年はエルニーニョという現象が起きていました(エルニーニョは太平洋赤道域から南米沿岸にかけて海面水温が高くなる現象。エルニーニョになると日本の夏の気温は低くなるといわれている)。これは温暖化と関係ない自然現象で、エルニーニョのときは日本は冷夏になるといわれています。

しかし、昨年は冷夏ではなく猛暑でした。ですから、エルニーニョも敵わないくらいの偏西風のスーパー大蛇行があって、水温が高い状態だったわけです。

そして、今年はエルニーニョが終わって、夏頃からラニーニャという現象が起こりそうです(ラニーニャはエルニーニョの逆で太平洋赤道域から南米沿岸にかけて海面水温が低くなる現象)。

ラニーニャの年、日本は猛暑になりやすいということがわかっています。すると、今年は昨年よりもさらに暑くなると予想できます。もう断トツの暑さになるのではないでしょうか」

この暑さによって、われわれの生活にも大きな影響が出るという。

「海水温が高くなると、獲れる魚も変わってきます。昨年もそうでしたが、北海道や岩手県、宮城県などの海が黒潮に入れ替わってしまったためにサンマが記録的な不漁でした。その結果、価格も上がってしまって、もう庶民の魚ではなく、高級魚になってしまいました。

また、昨年は猛暑のため暑さに弱いコシヒカリなどは品質が低下し、新潟県などの米どころは大打撃を受けました。今年も同じような暑さになれば、当然、品質が下がりますし、不作になるかもしれません。米不足が懸念されます。野菜も同じです。不作になれば価格も上がります。この夏は食生活が大きく変わるかもしれません」

食生活だけではない。仕事などにも影響しそうだ。

「35℃以上の猛暑日になったら、会社も学校も休みにしたほうがいいと思います。特に屋外で仕事をされている人は命に関わります。

熱中症で亡くなる人は、毎年1000人くらいはいるのですが(厚生労働省「人口動態統計」)、暑くなればさらにこの数字は増えるでしょう。暑さを我慢しないで、命を守る行動をしてほしいと思います」

今年から、「熱中症特別警戒アラート」が新設され、アラートが出たときに暑さをしのぐ「クーリングシェルター」を市町村が指定できる法律が施行された。

エアコンなどが効いた涼しい室内で休むことができるクーリングシェルターとして、市役所や図書館などの公共施設のほかに、ショッピングセンターや薬局などが指定アラート発令時に一般開放されるという。

40℃を超える灼熱地獄を乗り越えるためには、こうした施設を利用するべきだろう。