3年余りにわたって逃亡しながらも犯行を重ねていた「悲しきヒットマン」金澤容疑者。裏社会には彼を英雄視する向きもある 3年余りにわたって逃亡しながらも犯行を重ねていた「悲しきヒットマン」金澤容疑者。裏社会には彼を英雄視する向きもある
山口組の分裂抗争に絡み、組織のナンバー2・金澤成樹若頭が2件の殺人事件で逮捕され、瀬戸際に立たされている絆會(きずなかい)。今度は、事務所の不正登記に関与したとしてトップの織田絆誠会長が逮捕される事態に発展した。

織田会長は、連続ヒットマンとして知られる金澤若頭が実行したとされるラーメン店主射殺事件への関与の有無も取り沙汰されており、今回の逮捕が、本命の事件での立件への入り口となる可能性に、関係者の注目が集まっている。

■逮捕容疑は"微罪"

織田会長は7月9日、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで、岡山に拠点を置き、実質的な同盟関係を組む池田組の池田孝志組長とともに大阪府警に逮捕された。事件の概要を全国紙社会部デスクが解説する。

「織田会長は2020年2月、自らが債務者となって、大阪市中央区島之内にある絆會の本部事務所などの土地と建物を担保として抵当に入れて、本来は池田組長から1億円を借りたのに、池田組長の姪から借りたように装う虚偽の登記を行ったとして逮捕されました。

事件当時は、織田会長は既に神戸山口組から離反して絆會を立ち上げていました。一方、池田組は同年7月に神戸側を離脱して独立組織となりましたが、当時はまだ神戸側の陣営にいました。

池田組長は、織田会長が神戸から離脱しても物心両面で面倒を見ていたとされ、当時在籍していた神戸側への配慮から池田組長の氏名を登記に記載させないため、姪との取引という体裁を取ったとみられています。ただ、23年8月に根抵当権が抹消されており、登記上はすでに金銭貸借は解決している格好となっている。大物ヤクザを狙い撃ちにした微罪逮捕という側面は否めません」

■射殺事件後に根抵当権抹消

ここで注目したいのが、根抵当権が抹消されたのが23年8月である点だ。この4か月前の同年4月22日、神戸市長田区のラーメン店において、店主で山口組弘道会の余嶋学組長が射殺された。発生当初から金澤若頭が実行役だとの情報が流れ、追跡捜査が注目された。

そして、今年2月に金澤若頭が潜伏先の仙台市内のアパートで逮捕。金澤若頭が起こした長野・水戸での事件の起訴が済んだのちに、6月に本命のラーメン店主射殺事件で兵庫県警が金澤若頭を含む絆會関係者を逮捕。同月28日に金澤若頭や絆會幹部計3人が組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人)と銃刀法違反の罪で起訴された。

ラーメン組長が射殺された直後、防犯カメラが捉えた店から出てくる男。事件直後から金澤に酷似していると関係者の間で話題となっていた ラーメン組長が射殺された直後、防犯カメラが捉えた店から出てくる男。事件直後から金澤に酷似していると関係者の間で話題となっていた
「余嶋組長の頭部に残っていた銃弾の線条痕が、金澤若頭が逮捕時に所持していた拳銃のものと一致しており、他の幹部も嫌疑が掛けられていることから絆會の組織的犯行だったことは固い。そして、射殺事件後に1億円の借金が清算されています。

こうした点から警察当局は、織田会長が借金返済のために、過去に池田組幹部を射殺するなど因縁深い弘道会の組長の射殺を指示したとして立件できないかと模索しています。組織犯罪処罰法は、複数犯の事件での突き上げ捜査で、上位者の関与を立証しやすく、そのうえで刑法よりも重い刑罰を課せられるので、当局にとって使い勝手のいい打ち出の小槌のような法律だとされています。

過去の暴力団事件でも立件例はありますし、最近では頂き女子りりちゃんを名乗る女から金銭を受け取っていたホストの男にも適用されています」(前出デスク)

■スタンドプレーか鎮圧の前兆か

織田会長にとって不利な状況証拠が積み重なる中、本丸での立件へと賽(さい)は投げられるのか。暴力団事情に詳しいA氏は次のように突き放す。

「今回、2人の組長を逮捕したのは大阪府警で、ラーメン店主の事件を捜査する兵庫県警とはライバル関係にある。本命への着手のための入り口の事件であれば、兵庫がやっただろう。ヤクザ捜査の先鋭を自負する大阪府警として、存在感を示すために知名度のある大物組長を検挙したというだけのことでは」(A氏)

一方で、別の見方も存在する。

「山口組の分裂抗争はこの夏で10年目に突入しますが、反六代目団体はしぶとく林立して収拾には至っていません。警察は、特定抗争指定で事務所を使用禁止にするなどの包囲作戦を展開しているが効果が上がらず、トップクラスを逮捕せねば抗争に終止符を打てないと腹をくくっています。

六代目側と絆會の抗争は、警察庁長官が会見で『早期鎮圧を目指す』と明言するほどの全国警察においての重要マターなので、大阪府警の単なる功名心目当てのスタンドプレーとは考えにくい。また、織田会長はメディアに露出して『脱反社』をうたうなど、警察には煙たい存在です。

工藤会事件で駆使した"推認攻撃"で織田会長を社会不在にして、絆會の芽を摘もうと目論んでいるのではないでしょうか。また、ここのところ絆會の別の幹部も傷害事件で逮捕されるなど、包囲網は強まっています」(前出デスク)

「脱反社」を掲げて業界の一新を訴え、一躍脚光を浴びた織田会長。しかし、対立組織の組長に対する射殺事件という、相手の生命を顧みないヤクザむき出しの行動原理で、配下の組員たちが逮捕されている。「脱反社」は夢物語だったのか。