関東ヤクザ界の親睦団体である「関東親睦会」が7月、横浜市内の稲川会の関連施設で執り行われた。山口組系列団体を含めた構成8団体の親分衆らが顔をそろえて平和と友好を確かめあう裏社会の「サミット」だが、そこは魑魅魍魎(ちみもうりょう)の任侠界。足元は、盤石とも言い難い現状がある。
■10周年でトップ勢ぞろい
7月18日、横浜市の稲川会館には、住吉会や極東会、山口組国粋会など関東親睦会の親分衆が続々と詰めかけた。約1時間の会合では、会食をしながら話を弾ませたとみられる。実話誌記者が語る。
「関東親睦会は、関東会・関東二十日会といった団体を前身として、団体間の抗争においては輪番制で割り当てられた当番の組織が仲裁に入って激化を防ぐといった趣旨で集まっています。関東二十日会の頃は、関東進出を強める山口組をけん制する狙いもあったとされますが、2014年に立ち上がった関東親睦会では、山口組入りした国粋会も参加し、業界の安定化が図られているようです。今回の会合は、関東親睦会の立ち上げ10年を記念して各団体のトップクラスが一同に会したようで、終始穏やかなムードでつつがなく終わったようです」
西日本では2015年から続く山口組の分裂抗争や、工藤会トップクラスに対する警察当局の壊滅作戦など不穏な雰囲気が漂うが、関東は表立っては安定したムードを醸し出している。しかし、そんな状況に一石が投じられた。
■4年前の抗争事件捜査に進展
神奈川、群馬の両県警の合同捜査本部は6月、住吉会系組員(当時26)を2020年12月に車で連れまわし監禁したとして、加害目的略取などの疑いで稲川会系組長の男(46)ら男7人を逮捕した。住吉会系組員はその後に遺体で発見されており、死亡の経緯についても捜査が進められるとみられる。一連の事件について、全国紙社会部デスクが解説する。
「神奈川県平塚市での暴力団の面倒見を巡って両組織がトラブルとなり、死亡した住吉会系組員は金属バットで頭を殴られて車でさらわれ、その後に横浜市の病院駐車場において、全身に切り傷を負った遺体が発見されました。その反応は早く、翌日には稲川会系の組員が群馬県の病院前で、顔から血を流した遺体として発見されました。警察は、平塚での事件の報復とみています」
■両主流派の危険性を孕(はら)んだ対立
注目されるのは、死亡したのが住吉会幸平一家系の聡仁組の組員と、稲川会山川一家琉星興業の組員である点だ。幸平一家は住吉会の最大組織で、山川一家は稲川会の内堀和也会長の出身組織で、いわば関東二大組織の主流派同士の抗争とも言える状況だった。
「直後に九州の道仁会が仲裁に入り、お互いに痛み分けとなった。もともと聡仁組の組長は湘南・藤沢の出身で、稲川会に属していた。だが、仲たがいを起こして住吉会に移籍して湘南周辺の不良を糾合して勢力を伸ばしているため、縄張りを主張する稲川会とトラブルを繰り返してきました。
2016年には稲川会系組長が殴られて死亡し、遺体を神奈川県内の病院に放置するという今回と同様の事件が起きていますし、稲川会の息がかかっているというリフォーム詐欺グループのリーダーを銃撃するなど、数々の襲撃事件を繰り返しています。
2020年6月に新宿・歌舞伎町で起きた『スカウト狩り』でも先陣を切っていました。最近では、住吉会の中でもイケイケ組織として通っていますが、組長は普段は物腰の柔らかい人物で、そのギャップが桁違いだと評判になっています」(暴力団事情に詳しいA氏)
■湘南は火薬庫!?
神奈川を不抜の拠点とする稲川会も看過しているわけではない。
「聡仁組をシマ荒らしだとして、住吉会に一時的ではあるけれど処分させています。また、組織を離反したといういきさつから感情的なこじれがあるので、今後も聡仁組と何かあれば一歩も引かない構えです」(前出実話誌記者)
関東を中心に長年にわたって数々の死闘を演じてきた住吉会と稲川会。現在は湘南が火薬庫と言える状況だ。トップクラスが平和外交を繰り広げても、火種は隠し切れないのが実情かもしれない。