芸人として活動するかたわら、清掃員として数々のごみ屋敷と格闘してきたお笑い芸人『六六三六(ろくろくさんじゅうろく)』の柴田賢佑(しばた・けんすけ)が、自身初となる書籍『ごみ屋敷ワンダーランド』を出版。普通では経験することのない、とんでもないごみ屋敷の片付け、遺品整理、生前整理などの実情を語ってもらった。

――芸人として活動しながらも、ごみ屋敷の清掃を始めたきっかけは何だったんですか?

柴田 もともと週6で、コンビニで夜勤のバイトをやってたんです。結婚するタイミングで嫁から「ずっとその仕事をやっていくのか? お金は大丈夫か?」って言われまして。それで「知り合いにごみ屋敷を清掃する仕事をやっている人がいるから、そっちでも働いて稼いでほしい」と。

――すでに週6でバイトしてたんですよね?

柴田 そう言ったんですけど、「じゃあ1日は空いてるよね」って(苦笑)。それで半ば無理やり働くことになりました。

――最初のごみ屋敷の現場は覚えていますか?

柴田 とあるマンションの一室だったんですけど、玄関を開けたらごみが積みあがってスキー場のゲレンデみたいになってたんですよ。いちばん高いところで僕の身長(180cm)くらいありました。ありとあらゆるごみが積み重なって、何がどうなってるのかわからなかったです。

初めての現場で何もできないので、先輩が袋に詰めたごみをひたすらトラックに運ぶ作業をしました。とにかく必死に夕方まで働いたら、最初に目にしたごみのゲレンデがすべて無くなってきれいになっていたんですよ。YouTubeとかで見るビフォーアフターの動画みたいな。それが目の前で行われたというインパクトがすごくて、この仕事は面白いなと。

――嫌々参加した現場で、面白さに気づいてしまったんですね。

柴田 そうです。それでこの仕事を続けてみることにしました。しばらくはごみをトラックに運ぶポジションばかりなんですが、しばらくやると、ごみを分別して袋に入れる人、僕らは「先陣」って呼ぶんですけど、その先陣をサポートするポジションになりました。

そこで先輩たちの作業をサポートしながら、ごみの分別のやり方を覚えるんですよ。そこを3年くらいやってから、やっと先陣を任せてもらえるようになりました。そこからちゃんと仕事ができるようになるまで、さらに1年ぐらいかかりましたね。

――先陣のスキルには、何が必要なんですか?

柴田 何よりも「ごみを正しく分別することができるか」です。地域によって分別方法が違うので、それも頭に入れておかなきゃダメです。あと大事なのは、リユース品の目利きですね。大量のゴミに紛れて、ネットオークションなどで高額取引されるお宝があったりするんです、それを見逃さないようにすること。この仕事で1人前と言われるには、5年はかかると思います。

――ごみ屋敷にあるものは、すべて処分するんだと思ってました。

柴田 昔はそうだったんですけど、売れるものがあるとわかってからはリユースにも力を入れていて、そのあたりを勉強するとめちゃめちゃ面白いです。

ーー売れたものは誰の利益になるんですか?

柴田 売れて儲かった金額を、作業代金から引く感じです。すごいお宝があったら、お客さんがプラスになることもありますよ。

――ごみかお宝か、その場で判断するのは大変ですよね。

柴田 やっているうちにゾーンに入ることがあるんですよ。ごみの山を見るだけで、燃えるごみ、燃えないごみ、お宝のそれぞれが光って見えるようになる(笑)。そうなると両手でバンバン分別しながら袋に放り込んじゃって、サポートの作業員も追いつかないぐらい。

――話を聞いてると楽しそうですが、大変なこともありますよね?

柴田 夏場の作業はめちゃくちゃキツイです。マスクは必須なんですけど、汗がマスクの中にジャブジャブ溜まってくるんですよ。Tシャツは6枚ぐらい着替えてますけど、熱中症になってもおかしくない感じですね。

――色んな現場があると思うのですが、大変だった現場について聞かせてください。

柴田 これは僕の仲間が行った現場なんですけど、とんでもない「ゴキブリ屋敷」がありました。近隣の住人から「隣の部屋からゴキブリが沸いている」という苦情があり、片付けることになったんです。部屋でバルサンをたけば終わりと思うかもしれませんが、近隣の方が「バルサンをたくとゴキブリがこっちに逃げてくるから使わないでくれ」と。

部屋に入ると、そこら中に大量のゴキブリがいるんです。ポテトチップスの入っている缶のふたを開けると、そこから何十匹もブワーっと出てくると。その現場で僕の仲間のポジションは、両手に殺虫スプレーを持って玄関に待機して、逃げてくるゴキブリを外に逃がさないようにすることだったんです。

奥の部屋で作業が始まると、やはり大量のゴキブリが逃げるために玄関に押し寄せてくる。そのゴキブリめがけてスプレーを噴射すると、何百匹ものゴキブリが一気に壁を登って逃げるんですよ。殺虫スプレーって、吹きかけてもゴキブリはすぐには死なないじゃないですか。1分くらい噴射していたら、壁を登って逃げたゴキブリがそこで力尽きて、天井から雨みたいにボトボト降ってきたそうです。

――気持ち悪りぃ!

柴田 僕も行きたかったなーって(笑)。そんな経験、ないじゃないですか。

――そういうのを面白いって思っちゃうんですね。

柴田 はい。そんな僕でもどうしてもダメな現場があって。ごみ屋敷とは違うんですが「腐乱現場」といって、家で亡くなった方の部屋を片付ける仕事なんですが、これは精神的にまいっちゃうんですよね。まず消毒業者が入った後に僕らが入るんですけど、それでもまだ臭いがすごいんです。肉体が細胞レベルで拒否しちゃうような臭いで。

そんな部屋を片付けていると、その人の想いとかが自分の中に入って来ちゃうんですよ。たとえば、テーブルに酒とつまみが置きっぱなしだったりすると「これから一杯やろうとしてたのかな」とか考えてしまったり。

あと、アイドルと一緒に撮ったチェキがあったりして、そのアイドルに「あなたのファンが亡くなりました」って、伝えてあげたほうがいいかなとか思っちゃったり。

――感情移入しちゃうんですね。ごみ屋敷には住人のキャラクターが出ると思うんですが、ごみ屋敷になりやすい人っているんですか?

柴田 僕の独断と偏見ですけど、リュックの肩ヒモがねじれたまま背負ってる人は怪しいですね。あと、スニーカーのヒモがほどけているのに普通に歩いてる人とか。

女性だと、アイプチのシールが取れてまつげの上に乗ってるとか。実際にそのコの家に行ったら、めっちゃ汚くて(笑)。アイプチシールとかカラコンとかつけまつげが床にたくさん落ちていて、「やっぱり!」と思いましたね。

――年齢や男女比は?

柴田 これはもうバラバラですね。

――今、ごみ屋敷っていうのは、世の中にどれぐらいあるんですか?

柴田 あくまで僕の体感ですけど、20軒に1軒ぐらいはあると思います。パッと見ただけでは気づかないけど、実はごみ屋敷ってたくさんあると思うんですよ。

――ごみ屋敷って、どれぐらいの期間をかけて完成するんですか?

柴田 早い人は1年もかからずに膝上ぐらいまでごみが積もっちゃいますね。逆に僕が見た中でいちばん古かったのは、約60年かけて作られたごみ屋敷です。いちばん下に埋もれている雑誌や新聞を見るとわかるんですけど、昭和30年代のものは見たことがあります。でも明治とか大正時代からのごみ屋敷はないんですよ。

――それはなぜなんですか?

柴田 いろいろ自分で調べたんですけど、高度経済成長と関係あるのかなって。人口が増えて大量消費の時代になって、コンビニもできて、ごみがどんどん増えていくんですよ。そしてサラリーマンも残業が増えて家に帰れず、どんどんごみが積み重なっていくのかなと。

――確かに物がない時代では、ごみ屋敷になりようがないですよね。

柴田 昔の人でも、小説家で本や原稿用紙が部屋中に散乱してる、みたいな話は聞くんですけどね。昔になればなるほどコンビニ弁当とかペットボトルはないので。

――陶器のお皿やコップだったら何度も使うから、ごみにならないですもんね。

柴田 あと、昔はごみを適当に捨てられたじゃないですか、ルールが緩かったというか。でも今は、ごみ出しの曜日が決まっているし分別もちゃんとしないといけないので、ごみを捨てられない人が出てきたのかなって考えもあります。

――ごみ屋敷には一人暮らしが多いイメージがありますが。

柴田 確かに僕が行ったことがあるのはほぼひとり暮らしの家ですけど、先輩から「ごみの上を子供が走り回っていたところがあった」って聞いたことあります。

――最近では、生前整理が大変だと聞いたことがあります。

柴田 何度か経験がありますが、子どもと親がいっしょに生前整理に関わると、整理がつくまでにすごく時間がかかります。親が「これはあなたが赤ちゃんのときに使ってたの」とか思い入れがあるので、処分が全然進まないんですよ。亡くなったお父さんが使っていたスナックのライターが大量に出てきて、どうする?って話になっちゃったり。

そういうときは「故人を思い出してあげただけで、十分ではないでしょうか?」って話して、処分してもらったり。捨てるのは嫌でも売れそうなものは「誰かが大切に使ってくれますよ」ってお話すると、引き取らせてもらえることが多いですね。

――カウンセラーに近い作業ですね。いろいろ大変かと思いますが、今のお仕事を続けている理由って何でしょうか?

柴田 この仕事はすごくやりがいがあると思っています。給料も悪くないし、色んな人の生活を垣間見られるので楽しいというか。時にはとんでもない現場もあって刺激にもなりますし。マンネリ化して刺激のない生活に飽きている人には特におすすめです。確かにきつい現場もありますけど、やってよかったなって思います。この仕事を勧めてくれた嫁には感謝ですね。

柴田賢佑(しばた・けんすけ)
1985年12月17日生まれ、北海道出身
お笑いコンビ『六六三六』として活動するかたわら、ごみ屋敷清掃の仕事をこなす。先日、『ぐりんぴーす』落合隆治とともにお笑い芸人による、ごみ屋敷片づけ団体「お片付けブラザーズ」を設立
公式X【@ATAMADAINAMIC】