安藤海南男あんどう・かなお
ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中
「事故は左側のギアボックスの破滅的な故障と、複数の警告灯が表示された後も不必要に飛行を延長した操縦士の判断によって引き起こされた」
昨年11月、鹿児島県屋久島沖で発生した米空軍の輸送機「CV22オスプレイ」の墜落事故。米軍は8月2日(日本時間)に公表した報告書の中で、訓練中の乗員8人が死亡するという惨事を引き起こした原因をこう結論づけた。
報告書が指摘した事故原因は2点。ひとつが「部品の破損」であり、もうひとつが「操縦士の判断ミス」だったというわけだ。
そもそもオスプレイは今回の墜落事故を起こす前から事故を頻発させており、安全性への疑念がつきまとってきたいわくつきの機体だ。
「開発初期の2000年4月には、米国アリゾナ州で夜間訓練中に墜落し19人が死亡。その後も2012年4月にモロッコ、17年8月にはオーストラリアで墜落事故を起こし、いずれも死者を出している。
『飛行機モード』と『ヘリモード』に可変する垂直離着陸機という独特の機体構造の欠陥も指摘されている。こうした経緯から『ウィドーメーカー(未亡人製造機)』という異名まで付けられるほど」(大手紙防衛担当記者)
日本国内でも、2016年12月に沖縄県名護市沖に「不時着」する事故を起こしており、米軍基地や自衛隊基地など、域内でオスプレイが運用されている自治体には不安が広がったままだ。
ただ、こうした米軍発の〝脅威〟は「空の事故」にとどまらない。米軍基地周辺には、より身近な事故の危険が潜んでいる。その一端が垣間見えたのが、7月中旬、米空軍が駐留する「三沢基地」を抱える青森県三沢市で発生した事故である。
7月14日午前4時ごろ、三沢市栄町1丁目で、乗用車が県道わきの小屋に突っ込んで炎上。乗っていた2人が死亡し、1人が大けがをした。青森県警が亡くなった2人の身元を確認したところ、車両を運転していたのが三沢基地に所属する米空軍の19歳の兵士だったことが判明。事故車はこの兵士が所有するもので、いわゆる「Yナンバー」による事故だったのだ。
「Yナンバー」というのは、在日米軍基地に所属する米国人が車両登録した車であることを示すナンバーだ。このナンバーを取得できるのは、米兵のみならず、基地で雇用されている軍人以外の「軍属」と呼ばれる米国人も含まれる。
三沢市で車両炎上事故を起こしたYナンバー車のハンドルを握っていた19歳の米軍兵の遺体からは、呼気検査で基準値を超えるアルコールが検出された。飲酒運転の末に起きた悲劇だった疑いが強いわけだが、こうした米兵による無謀な運転が引き起こす事件・事故のニュースが絶えないのが、在日米軍専用施設の約70%が集中する沖縄である。
今年5月には、2023年9月、制限速度を78km/hオーバーして事故を起こし、現場から逃走した24歳の海兵隊員に懲役2年2月、執行猶予5年の有罪判決が下されている。
「沖縄では米兵絡みの飲酒運転やひき逃げ事故は日常茶飯事。特に20歳代そこそこの若者が多い海兵隊の兵士は無謀な運転をしがち。海兵隊の基地である普天間飛行場がある宜野湾市、同じく海兵隊の拠点であるキャンプ・ハンセンが近い金武町、うるま市ではYナンバー車両への警戒心が特に強い」(地元紙社会部記者)
地元住民にとって、「Yナンバー」との事故が鬼門になっているのは、米軍絡みのトラブルに巻き込まれると大変な目に遭うことを身をもって知っているからでもある。
在日米軍の軍人、軍属とその家族らの権利義務などを定めた「日米地位協定」では、米兵が「公務中」に起こした事故については、「日本国政府が賠償する」と規定している。
ただし、「損害賠償請求を行うことができるのは、損害の発生及び加害者を知ったときから3年間(人の生命又は身体に対する損害については5年間)又は不法行為の時から20年間のいずれか早い方」(防衛省ホームページより)とも規定されており、申告の煩雑さを含めて被害者側に一定の負担がかかる仕組みでもある。しかし、より問題なのは、米軍関係者が、「公務外」で起こした事故に遭遇したケースだ。
「この場合、賠償責任は事故の『加害者』にのみ生じるため、『公務内』での事故の時のように政府が補償してくれないのです。加害者に賠償金を支払い能力がなかったり、加害者の保険で解決できないなどの時には『日米地位協定に基づき、米国政府が補償金を支払う』との規定があるのですが、これはあくまで『慰謝料』の扱い。そのため、金額は賠償金の相場よりもかなり低い。しかも賠償額を確定させるためには、裁判を起こして判決を得なければいけない」(地元紙社会部記者)
一方で、米国政府の支払う「慰謝料」の額が、裁判所での確定判決で決められた賠償額を下回る事例も少なくないという。こうした問題を受け、1996年からは、日米地位協定の運用改善措置として、米国政府の「慰謝料」と被害者が求める賠償金の差額を、「SACO見舞金」として日本国政府が肩代わりする制度も始まった。97年度から2017年度までに支払われたSACO見舞金の総額は約4億6700万円に及ぶという。
「救済策があるとしても、米兵を相手に裁判を起こして判決を得るまでには相当な時間と労力がかかる。賠償金の請求にも日本政府や米国政府、それぞれに複雑な手続きを踏まなければいけず、被害者側に強いられる負担は並大抵のものではありません」(前出の地元紙記者)
夏本番を迎え、沖縄には多くの観光客がリゾート気分を求めてやってくる。旅先でのサプライズは付き物ではあるが、「Yナンバー」とのアクシデントだけは避けておいたほうがよさそうだ。
ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中