東京・池袋に拠点を置く、中国人向けの某風俗店のホームページ。女性はほとんどが「日本人」をうたっている 東京・池袋に拠点を置く、中国人向けの某風俗店のホームページ。女性はほとんどが「日本人」をうたっている

日本の女性たちに影を落とす中国の〝エロ産業〟ネットワーク。その実態を追う短期連載、ラストとなる第3回は、日本を舞台に中国人が中国人向けに展開する風俗店の話だ。

どうやら日本人風俗嬢が多く在籍しているようで、彼女たちの中には自ら進んで〝中国人店〟に勤める者もいるとのこと。そこには中国人の民族性(?)に関係する理由があった!【日本に侵食する中国「エロ産業ネットワーク」の闇 第3回】

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■中国人向け裏風俗で働く日本人女性たち

昨今、世界各国の中国人経営の風俗店に日本人女性が出稼ぎする現象が起きている。中国国民の海外渡航のハードルが下がり、彼らのエロへの需要が国際的に拡大したことと、コロナ禍と円安を境に日本の経済力が弱まったことがその背景にある。

一方、中国人の欲望ネットワークは、海外のみならず日本国内でも拡大している。そこで働く日本人女性も増え始めた。実態を伝える。

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「私が働いたお店は、女のコは中国人がふたりで、日本人が2、3人。ほかの日本人は若いコが多かったですね。お客さんは中国人男性だけで、仮に日本人が来ても追い返しちゃう感じでした」

そう証言するのは風俗嬢のヒトミさん(仮名、36歳)だ。彼女は本連載の【日本に侵食する中国「エロ産業ネットワーク」の闇 第1回】に登場した人物で、中国語が話せる。

ヒトミさんはもともと、アメリカ各地の中国・福建系グループの風俗店への海外出稼ぎを〝本業〟にしてきたが、コロナ禍の初期に海外渡航ができなくなった。そこで、東京・池袋駅の北口付近にある中国人向け裏風俗で働くことにしたのである。

この界隈には、中国人が極めて多く住んでおり、日本人風俗嬢を海外出稼ぎに送り出す関係者たちの拠点でもある。彼女に話を持ってきたのもそんな人物だった。

「都内でいろんな通訳をやりながら、日本人の女のコの斡旋もやっている中国と日本のハーフの男性がいるんです。彼の紹介でした」(ヒトミさん)

彼女の〝職場〟は雑居ビル内にあり、バーかスナックの居抜き物件に見えたという。

ただ、店内では誰もお酒は飲まない。来客があると、女のコが目の前にズラッと並んで〝顔見せ〟し、客に気に入られるとふたりで個室に行く形だった。中国国内や、海外各地の中国系風俗店によくあるシステムである。

「女のコによって値段が違うんですが、私の取り分は1本(ひとりを接客するごとに)1万円。お客さんがお店に払うのは2万円くらいなのかな」(ヒトミさん)

ちなみに、こうした中国人向けの裏風俗は、少なくともゼロ年代後半から池袋に存在してきた。

ただ、当時は働く女性はすべて中国人。日本人女性の人数が、中国人女性を上回る状況になったのはここ数年である。

中国のSNSにアップされていた、都内の中国人向けクラブでのライブの様子。巨大な中国国旗がたびたび登場した 中国のSNSにアップされていた、都内の中国人向けクラブでのライブの様子。巨大な中国国旗がたびたび登場した

店舗の数も増えた。中国語の夜遊びサイトを確認すると、中国人向けの裏風俗らしき店は、池袋だけでなんと26軒もあった。

ほかにも首都圏の中国人タウンである新大久保・新宿界隈や上野界隈、埼玉県の蕨・西川口界隈にもそれぞれ6~8店舗があり、首都圏全体では50軒以上。大阪や名古屋にも存在している。

店名は「日本JK」や「大和撫子」(いずれも仮名)といったような、日本を前面に打ち出したものも多い。この手の店舗のサイトの名簿を確認すると、30人ほどの在籍者のうち9割が日本人女性というケースも見つかった。

「私が行った店は、普通の2LDKのマンションで、もちろん看板や表札は出ていなかった。事前にWeChat(中国のコミュニケーションアプリ)で予約していないと、店内に入れてもらえない仕組みです」

新宿の中国人向け風俗を利用したことがある50代の在日中国人男性・張氏(仮名)はそう話す。

「あの店は女のコが5、6人。中国人はひとりだけで、残りは日本人でした。彼女らのルックスのレベルは高かったと思います」(張氏)

以前は中国人留学生や技能実習生の女性がヤミ店舗で不法就労するケースも多かった。だが、近年の留学生はたっぷり仕送りをもらっていて生活に困っておらず、比較的貧しい技能実習生も高齢化が進んでいる。ゆえに、裏風俗で働く中国人の女性自体が減少傾向だ。

「中国国内から若い女性を観光ビザで呼んで、働かせている店もあります。でも、日本人のほうが人集めの手間がかからず、ビザの問題もない。客側も日本人と遊びたがります。在籍が日本人のコばかりなのも納得ですよ」(張氏)

■中国人は「出したら帰る」

では、店内ではどんな光景が繰り広げられているのか。実際に働いたヒトミさんは言う。

「シャワーを浴びてから普通にベッドプレイをやって本番です。ただ、時間が1時間あっても『出したら帰る』人が圧倒的に多い。日本の風俗で〝時短〟(サービスが規定時間よりも短くなる)はお店から怒られますが、中国人は店舗側もサクッと終わる習慣に慣れているみたいです。回転率も上がりますしね」

彼女によると、「出したら帰る」のは海外の出稼ぎ先で出会った中国人客も同様らしい。意外と淡泊なのだ。

「中国人はなぜか、キスが好きじゃないお客さんも多く、働く側はラクです。お金の対価としてサービスを受ける感覚が強いので、女のコに〝ガチ恋〟してストーカーになるお客さんも少ないですし」

接客1回当たりでもらえる金額は日本国内のデリヘルとあまり変わらず、しかも店舗は違法経営だ。だが、こうしたメリットからあえて中国人が通う店を選ぶ日本人風俗嬢もいるという。

対して、客側が選ぶ理由も気になる。

別の中国人向け風俗店のホームページで公開されていた価格表。日本の一般的な風俗店とあまり値段は変わらないようだ 別の中国人向け風俗店のホームページで公開されていた価格表。日本の一般的な風俗店とあまり値段は変わらないようだ

在日中国人向けの夜遊びサイトには、外国人対応可を打ち出す日系の風俗店も何軒かは紹介されている。ただ、前出の張氏によると、一部のプレミア感のある店(高級ソープやAV女優と遊べる店など)を除けば、中国系裏風俗のほうが、人気が高いという。

「日本の風俗は写真指名なので、顔やスタイルが本当に自分の好みかわからないのが弱点です。中国人は顔見せで実物を見ないと信用できないんですよ。あとは言葉の問題に加えて、本番重視という理由もあります。日本は最後までできない店が多いですからね」(張氏)

ただ、舞台裏には独特の緩い世界も広がっている。ヒトミさんは当時の経験をこう話す。

「お店の台所が広かったので、夕方になると中国人スタッフが中華鍋で『ガチ中華』(本格的な中華料理)をガンガン調理して振る舞ってくれます。脂質たっぷりで、風俗店のまかない飯とは思えない(笑)。日本人の中には、箸を全然つけないコもいましたね」

ディープな体験はほかにもあった。

「店舗のオーナーが誰かは不明でしたが、たまに謎の老人が、奥さんを連れて店を見に来る。ほかの中国人スタッフの恭しい態度を見ると、どうやら池袋の中国人界隈ではすごく偉い人みたいで......」

完全に、映画『不夜城』の世界である。

■歓楽街の夜を支える新しい移民たち

中国人向けの夜の世界が活発化した背景にあるのは、近年の日本で静かに進行している、新しいタイプの移民たちの登場だ。

中国の政治・経済に行き詰まりの兆候が見えた2020年頃から、資産を丸ごと日本に持ち込んで移住する中、上流層の中国人が増加している。昨年1年だけで、在日中国人人口は約6万人も増えて過去最多となった。

彼らは比較的カネがあり、年齢も30代から50代がメイン。日本語ができない人が多いため、中国人同士で固まりがちだ。

渋谷にある中国人向けのバー(健全)。在日中国人の夜遊びの場はどんどん増えている。店内には中国人が好きなサイコロ遊び用の玩具が各席に置かれていた 渋谷にある中国人向けのバー(健全)。在日中国人の夜遊びの場はどんどん増えている。店内には中国人が好きなサイコロ遊び用の玩具が各席に置かれていた

最近、そんな新移民たちのもうひとつの夜遊びの場になっているのが、日本人女性が中国人客に接客するスナックやガールズバーである。

「お店では普段、言葉がわからないのでニコニコしているだけ。今日は久しぶりに日本語で接客しましたよ(笑)」

私が訪ねた、六本木の中国人向けスナックで働くハルヒさん(仮名、21歳)は話す。彼女は昨年まで保育士だったが、職場のパワハラと薄給を理由に転職。新たな職場は景気がいいようである。

「昨日も朝8時まで、中国人のお客さんが集団で盛り上がっていました。20万円のシャンパンがしょっちゅう開くんですよ」

当然、これらの中には〝不健全〟な店もある。元中国人のジャーナリストである李小牧氏は語る。

「会所(会員制クラブ)の形態で、日本人女性の連れ出しOKの中国人向けバーが、赤坂・六本木・新宿・渋谷・上野と各地にあります。中国人向けの高級デートクラブは以前から多少はあったものの、近年は店が急増、価格も下がっています」

中国から染み出た欲望が、日本の風俗業界の女性を引き寄せる。東京の地下では、今日もそんな事態が進行中だ。

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本短期連載は、ここでいったん締めくくる。ただ、今回明らかになった中国人の欲望のネットワークは、まだまだ底が見えない。今後も新たな事実が判明次第、続報を伝えていきたい。

安田峰俊

安田峰俊やすだ・みねとし

1982年生まれ、滋賀県出身。ルポライター。中国の闇から日本の外国人問題、恐竜まで幅広く取材・執筆。第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』、第5回及川眠子賞を受賞した『「低度」外国人材移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)など著書多数。新著は『戦狼中国の対日工作』(文春新書)。

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