JR天王寺駅近くにある屋外の喫煙所。通天閣(右側奥)を眺めながらの喫煙は風情あり JR天王寺駅近くにある屋外の喫煙所。通天閣(右側奥)を眺めながらの喫煙は風情あり
2025年の万博開催を前に、大阪市は路上喫煙の全面禁止に向けた取り組みに邁進中。そのひとつが市内喫煙所の新設で、120ヵ所を目標に急ピッチで設置が進んでいる。だが、ある調査によると、その数でもかなり足りないそうで......。大阪の喫煙所事情を探った!

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■「全然足りてへん」大阪の喫煙所事情

2025年4月に開催が迫る大阪・関西万国博覧会。国内外から観光客の大幅な増加が見込まれている中、会場となる大阪市の喫煙所不足が問題になっている。

JR新大阪駅の改札内で唯一の喫煙所(新幹線コンコース)を利用していた50代男性が、次のように語ってくれた。

「今年の春に新幹線の喫煙ルームが廃止されてから、この喫煙所は常に満員。以前は新大阪駅の外にも灰皿の置いてあるスペースがけっこうあったんやけど、それらも撤去されて、今はここに殺到するしかない。

大阪市は万博までに喫煙所を増やすと言うとったけど、それがどこにあるかわからへん。少なくとも大阪にいて『喫煙所が増えた』っていう感覚はないわ」

天王寺の屋外喫煙所にいた30代男性も、「大阪の喫煙所は正直少ない。初めて行く場所だと、まず喫煙所を探し回らないといけないですから」と語ってくれたように、市内の喫煙所不足は大阪の愛煙家たちの実感であるようだ。

大阪市では20年4月に改正健康増進法が施行され、屋内は原則禁煙となった。さらに万博で大阪は「健康」をテーマのひとつに掲げていることもあり、25年1月からは市内での路上喫煙も全面禁止が決定。コンビニや飲食店前の灰皿撤去も徐々に始まっている。

そうした市内全域の禁煙化に合わせ、大阪市は「喫煙者と非喫煙者が共存できる分煙環境を整備するため」として、「市内に120ヵ所の喫煙所を新設、さらに既存の20ヵ所を改修することで対応する」と打ち出してきた。

大阪駅前第4ビルの地下2階にある喫煙所。隣接する自動販売機で飲み物を購入した人のみが利用できる、と注意書きされているが、守らない人が少なくないもよう 大阪駅前第4ビルの地下2階にある喫煙所。隣接する自動販売機で飲み物を購入した人のみが利用できる、と注意書きされているが、守らない人が少なくないもよう
しかし、街の声を聞けばわかるように、喫煙所の数に満足している大阪市の喫煙者は、ほぼいない様子だ。むしろ喫煙所が少ないことで、「市の監視が行き届かないところで路上喫煙やポイ捨てが増えるのでは?」(30代男性、非喫煙者)との意見もあった。

では、大阪市の喫煙所の整備状況は現在(8月6日時点)、どうなっているのだろうか。大阪市環境局事業部事業管理課の担当者は、こう答える。

「現時点で大阪市に指定された喫煙所は、33ヵ所が運営中です。ほかに41ヵ所の喫煙所が設営工事を発注済みであり、すでに計74ヵ所の喫煙所を確保しております」

こうした新設の喫煙所の多くは、民間事業者の協力によるものだという。

「市だけでは設置場所の確保が困難であることから、大阪市では民間事業者が喫煙所を整備する際の費用を補助する『大阪市指定喫煙所設置経費等補助金制度』を設けています。昨年度は約200件の問い合わせがありました。

今年度は9月30日までの募集期間ですが、すでに昨年度と同程度の問い合わせがあり、来年1月の路上喫煙全面禁止までに、当初からの目標である120ヵ所の新設は達成できる見通しです」

■地元商店会の試算と市の計画に大きな差

このように大阪市は急ピッチで喫煙所を設置しつつあるものの、そもそも喫煙所の数が「市内全域で120ヵ所の新設ではとても足りない」という指摘も根強い。

大阪市商店会総連盟は調査会社のリサーチをもとに、市内に必要な喫煙所の数を「367ヵ所」と試算。

分煙環境が整備されたエリアと、それが間に合っていないエリアで客離れが予測されることから、喫煙所の設置不足によって市内の商店街に及ぼすビジネス上の悪影響が「年間252億円」にも達すると提言している。

また、昨年11月には大阪府飲食業生活衛生同業組合と全国飲食業生活衛生同業組合連合会も、連名で喫煙所計画数の上方修正を求める陳情書を市に提出するなど、地元から喫煙所の設置計画に疑問を呈する声は後を絶たない。

こうした指摘は大阪市も承知しているようだ。前出の担当者がこう話す。

「かねて地元の商店会さんなどから、『もっと喫煙所を増やしてほしい』という要望はいただいております。

それに関しては来年1月の路上禁煙の条例施行後になりますが、喫煙所を新設したことによって路上喫煙者の数がどう変わったのか、路上喫煙は増えたのか減ったのか、そういった実態を調査してから検討を進めていく予定です」

公共喫煙所の設置はあくまで路上喫煙の防止という名目である以上、計画の有効性を見極めてからでなければ、さらなる増設は難しいとの回答である。

また、大阪市内の愛煙家から、「喫煙所が見つけにくい」との声が聞こえたように、喫煙所の利用そのものに不便さがあるようだ。

「喫煙所にたどり着けなければ対策として意味がないことはわれわれも理解しております。今後は市のホームページでの案内だけでなく、グーグルマップなどオンラインの地図に喫煙所の場所をわかりやすくアイコンで表示するなどの方法を検討しておりますが、そこはまだ模索中です」

ちなみに、万博会場の喫煙所設置については、場外に1ヵ所だけしか予定されておらず、喫煙所に人があふれてしまうことが懸念されている。

22年の国民生活基礎調査(厚生労働省)によると、大阪市民の喫煙率は17.7%で全国平均16.1%を上回っている。さらに、世界保健機関(WHO)の調査によれば世界人口の約2割が喫煙者だ。万博に訪れる外国人の中にも喫煙者は少なくない。

大阪市は喫煙所のさらなる増設について〝様子見〟をしているようだが、そんな悠長に構えていて大丈夫?