1度の雷雨で落雷5000回! 車の中も完全に安全ではない! 晴れていても近くに雷雲があれば落雷する! 1度の雷雨で落雷5000回! 車の中も完全に安全ではない! 晴れていても近くに雷雲があれば落雷する!

今年もゲリラ豪雨による冠水や浸水などの被害が起きている。しかし怖いのは大雨だけではない。雷被害も増えているのだ。避雷針や高い建物があるから安心だとあなどってはいけない。どうすれば安全なのか。最新の基礎知識を教えてもらった。

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■ゲリラ雷雨のほうが落雷の危険度は高い!

今年はゲリラ豪雨が多発している。そのため道路の冠水や地下鉄駅への浸水など大雨による被害が大きく報道されているが、忘れないでほしいのは同時に発生している雷の危険性だ。

そこで『雷の疑問56』(成山堂書店)の共著がある静岡県立大学グローバル地域センター特任教授の鴨川 仁氏に雷の最新情報を聞いた。

――ゲリラ豪雨と普通の大雨の雷は同じなんですか?

鴨川 「ゲリラ豪雨」や「ゲリラ雷雨」は民間の気象情報会社が作った造語で、気象庁は前者を「局地的大雨」と呼んでいます。ゲリラ雷雨は大雨のみならず、激しい雷活動を伴うものをそう呼んでいます。

また、ゲリラ雷雨も一般的な雷も積乱雲によって発生することは同じですが、ゲリラ雷雨は面積当たりの落雷の発生数が多いものを指しています。

ゲリラ雷雨は、場合によっては1度の雷雨で5000~1万回くらい雷が落ちることもあります。ですから、一般的な雷よりもゲリラ雷雨のほうが危険度は高いといえるでしょう。

1度の雷雨で落雷5000回! 1度の雷雨で落雷5000回!

――そんなに多いんですか? ちなみに雷って、どれくらいのエネルギーがあるんですか?

鴨川 1回の雷で数十億J(ジュール)です。仮に45億Jとしたら、継続時間が0.01秒の雷放電で100Wの電球45億個分になります。これは一般的な家庭の数ヵ月分に相当します。

――温度は?

鴨川 雷放電の温度は約3万℃です。太陽の表面温度が6000℃といわれていますので、5倍になります。

――太陽の表面温度の5倍ってすごいですよね。そんなのが何千回って地上に落ちていて、なんで地球は焦げないんですか?

鴨川 それは、0.01秒程度の放熱時間で熱が移ることがないためです。例えば、私たちも一瞬だったらロウソクの火に触れるじゃないですか。でも、やけどはしませんよね。あれと同じ原理です。

――なるほど。雷が発生しやすい場所ってあるんですか?

鴨川 あります。日本で面積当たりの落雷発生回数が多い場所は、夏だと関東北部と九州から南西諸島、冬は北陸沿岸と茨城沖ですね。

――冬にも雷が起こるんですか?

鴨川 はい。雷は地上の温度が高く、上空に冷たい空気がある温度差が激しいときに発生します。例えば、冬の北陸の海面水温は低くても5℃くらいでしょう。しかし、上空にはシベリアからものすごく冷たい寒気が入ってきます。マイナス何十℃の世界です。

海から湯気みたいな水蒸気が出ているのを見たことがあるでしょうか。それくらい海面水温と気温の差があるんです。すると、その水蒸気が積乱雲をつくり、雷が発生しやすくなる。

それに海は広いので大きな積乱雲ができやすい。それで「メガフラッシュ」と呼ばれる100㎞近い放電が起こることがあります。また、季節の変わり目にも温度差ができるため雷は発生しやすくなります。

――いまさらですが、雷ってどうやって起こるのですか?

鴨川 積乱雲の中の上下の大気の温度差によって対流が起こります。この対流で雲の中の粒子が氷晶(小さな氷の粒)やひょう、あられなどサイズの違う氷ができます。

重力の関係で粒が大きなひょうやあられは下のほうに集まってマイナスの電気を帯び、粒の小さな氷晶は上のほうに集まってプラスの電気を帯びます。そして強い静電気をつくり、それが大量にたまって我慢できなくなって放電されるんです。

■晴れていても落雷の危険はある!

――雷が起こったら、どうすればいいんですか?

鴨川 とにかく、屋外にいないことです。夏の雷だと落雷の前に雲放電(初期のゴロゴロ)がありますから、音が聞こえたらすぐに鉄筋コンクリートの建物の中に避難してください。鉄筋コンクリートの建物がなければ、木造の家屋でも構いませんが、危険度は少し増します。

たまに木造住宅に落雷することがありますが、テレビのアンテナ線や電力の配線を通ってコンセントなどが爆発することがあります。ですから、コンセントの近くにいるのは避けましょう。また、コンセントが爆発して火事になる場合もあるので、気をつけてください。

コンセントの近くは危険 コンセントの近くは危険

――屋外にいた場合、雷は高い木に落ちやすいので、木から4m以上離れたほうがいいという話を聞いたことがありますが本当でしょうか。

鴨川 学術的な観点から言うと、実験をすれば確かに木に落ちます。ただし、実際の雷はもっと複雑で、必ず木に落ちるとは限りません。確率として木に落ちることが多いというだけです。

直撃雷を誘導する避雷針についても同じことがいえます。ビルに設置された避雷針にすべての雷が落ちているわけではなくて、よく見るとビルの角に落ちていたりするんです。

ですから、確率論ではなく安全の話をするのであれば、雷は高い木に必ず落ちるわけではないので、4m離れたからといって絶対に安全だとはいえません。

同じようにネットなどには「電線の下は電線が避雷針の役割をするので安全」といった記事もありますが、電線ではなく人間に落雷する可能性もあります。

今年も学校のグラウンドに落雷して生徒が病院に搬送されたというニュースがありましたが、グラウンドには金属でできたゴールポストや金網の柵などもあり、そっちのほうに落ちると思うじゃないですか。でも、実際には平坦なグラウンドに落ちています。ですから、雷はどこにでも落ちると思っていたほうがいいでしょう。

避雷針があるのに! 避雷針があるのに!

――じゃあ、よく車の中は安全だと聞きますが、それは本当でしょうか。

鴨川 車の中も完全に安全だとはいえません。基本的に雷は車の金属の部分に落雷しますが、まれに窓ガラスの部分にも落ちることもあるんです。すると窓に顔や手をつけていると感電する危険があります。ですから、雷が鳴っている間は窓を触らないようにしましょう。

ちなみに、車はタイヤがあるため金属の部分が地面に触れていません。そのため、地面と近い金属の部分からタイヤの脇などを通って地面に放電を起こします。ですから、車のそばにいると危険です。

車の窓には触らないほうがいい 車の窓には触らないほうがいい

――ということは、人間はかなり電気を通しやすいということですか。

鴨川 通しやすいです。雷の立場からすると、空気は絶縁体で金属や人間は導体です。だから、体に金属があると危険だからといって、雷が鳴ると外す人がいますが、そもそも人間の体も雷を通しやすいので、外しても大して安全になるわけではありません。気休め程度です。

――よく、稲光が見えてから、ゴロゴロという音がするまでの時間が長いと、まだ雷は遠くにいるから安全だと聞きますが本当ですか。

鴨川 思いがけないことが起こったという意味で使う「青天の霹靂」という言葉がありますよね。あれは「晴れた空で突然起こる落雷」のことです。ですから、空が晴れていても雷雲が近くにあれば雷は落ちます。

雷は7、8㎞くらい放電するので、雷雲の端から外に放電すれば、雷雲のない所に落雷する可能性があります。自分のいる場所の上空に雲がなくても、ゴロゴロという雷鳴が聞こえたら鉄筋コンクリートの建物に避難することをオススメします。

――雷って思っていたよりも怖いですね。でも、外にいて鉄筋コンクリートの建物がないようなときはどうすればいいのでしょうか。

鴨川 この質問は難しいですね(笑)。登山とか海水浴とかがそうだと思うんですが、登山ならどこに山小屋があるかなどを最初から確認しておくことでしょう。そして、少しでも早く山小屋に入ることです。

それから、この時期は常に気象に注意しておくことでしょう。気象庁は「雷ナウキャスト」という雷のリアルタイム予測を出していて、これは降水確率と同じくらいのレベルで雷の予測ができます。

屋外にいるならばそれを見て、ゲリラ豪雨などが近くで発生しているかどうか。発生していたら、どのくらいの時間で自分のいる場所に来るのかなどを確認してください。とにかく情報を得ることが重要です。

最初にも言いましたが、1度の雷雨で5000~1万回くらい雷が落ちることもあります。そのうちの1回でも自分に当たれば大ケガをします。

ゲリラ豪雨などが発生した場合、安全論でいえば軒先などで雨宿りをするよりも、鉄筋コンクリートでできた建物の中に入って、雷雲が過ぎ去るまで待つことが命を救うことにつながります。

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ゲリラ豪雨による大雨も怖いが、雷もあなどってはいけない。