今年4月から適用されたトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示により、輸送能力の低下が危惧されている「物流2024年問題」。現場では、企業の壁を超えた共同配送の導入や置き配の普及などにより、問題を乗り越えようという動きが活発化しているが、一部では配送の遅延などの弊害も起きている。
一方で、物流の特定分野ではドライバー不足よりも深刻な、別の問題が深刻しているという。都内の運送会社で冷凍トラックのドライバーとして働く下村啓一氏(仮名・39歳)が明かす。
「コロナ禍が明けて以降、食肉や水産、果物といった冷凍・冷蔵の食品を流通過程で一時保存する営業冷蔵倉庫がどこも混雑しています。首都圏では、コロナ以前は1時間未満だった貨物の入出庫時の待ち時間が、最近では平均して2、3時間、タイミングによっては4時間以上待たされ、1日の業務時間の半分以上が待ち時間に費やされるということも珍しくない。ただでさえドライバーが不足するなか、営業冷蔵倉庫はコールドチェーン(低温物流)のボトルネックとなっています」(下村氏)
営業冷蔵倉庫の混雑の原因については、都内の営業冷蔵倉庫に勤務する秋田義夫氏(仮名・56歳)はこう明かす。
「まず、ここ10年以上続いている傾向ですが、飲食業界などでは在庫リスクを嫌い、『多頻度小口取引』が好まれるようになっている。その結果、営業冷蔵倉庫では入出庫の総件数が増え、冷蔵倉庫の慢性的な混雑の一因となっています。
また、コロナ禍以降の現象としては、飲食店の人手不足を補うため食品の加工度が高まっていることも、冷蔵倉庫のスペース不足の一員となっている。たとえばバーベキュー用の牛肉も、海外ですでに串打ちされた状態で輸入されるものが増え、同じ可食部量でも嵩張るようになっていることから、冷蔵倉庫を出入りする貨物の総量もふえているのです。
また、物価が高騰するなかで、牛肉をはじめ贅沢品と見なされる食材は売れ行きが停滞し、営業冷蔵倉庫に在庫として長期間居座るケースも増えている」(秋田氏)
こうした事情もあり、日本冷蔵倉庫協会が公表した今年7月時点の営業冷蔵庫の庫腹占有率(キャパシティに対する貨物の埋まり具合)は、全国主要12都市計で95.7%と逼迫、東京都では107.3%とオーバーキャパシティになっている。ちなみにコロナ直前の2019年7月時点では、全国主要12都市計33.5%、東京都では40.5%であったことを考えると、現在の状況がいかに異常事態であるかわかるだろう。
ではなぜ営業冷蔵倉庫は、キャパシティの増設が行われないのか。前出の秋田氏はこう話す。
「国内の営業冷蔵倉庫の8割以上は、中小企業が運営しており、資金力に乏しいところがほとんど。特にこのところは電力料金の高騰が収支を圧迫しているなか、倉庫の増設や新設は簡単ではない。加えて、減価償却済みの既存の倉庫のみで営業するほうが、商売として確実性が高いという事情もある」(秋田氏)
増設どころか、近い将来、全国で営業冷蔵倉庫の閉鎖が相次ぐ可能性もある。
野村総合研究所による昨年8月のレポートによると、全国の34%に相当する営業冷蔵倉庫が築40年を超えており、老朽化が指摘されているのだ。これらの老朽倉庫の30%が2032年までに廃業した場合、全国の36の都道府県で倉庫不足が懸念されるという。さらに老朽倉庫の80%が廃業すると仮定すると、群馬県以外のすべての都道府県が倉庫不足に陥ると予想されているのだ。
冷凍食品やコンビニ弁当はおろか肉や魚まで、食品流通をまるごと支えているといっても過言ではないコールドチェーン。その要たる営業冷蔵倉庫が慢性的なキャパオーバーに陥れば、現代人の食生活は立ち行かなくなってしまう。