"最強クラス"と呼ばれた台風10号は日本各地に被害を与えた。九州に上陸後、ノロノロと超低速で進み関東にも大雨を降らせた。なぜ、このような動きになったのか? 今後、同じような台風は発生するのか? この秋、日本を襲う台風の特徴と最新情報をお伝えします!
■今年は10月頃まで最強クラス台風が来る!?
8月29日に鹿児島県に上陸した台風10号は、強い勢力のまま時速約10キロ(自転車でゆっくり進むくらい)という超低速で四国へと進み、迷走しながら9月1日に東海道沖で熱帯低気圧に変わった。
この台風10号は、日本各地で観測史上最多の雨量を更新し、線状降水帯を8回発生させ、台風から離れた関東でも豪雨被害を出している。
この"ノロノロ迷走台風"は、なぜ発生したのか。
気象予報士の原田雅成氏(ウェザーマップ所属)が解説する。
「台風は基本的に海面水温が26~27℃以上ある海域で発生するといわれています。台風10号は日本のはるか南のマリアナ諸島で発生しました。現在、フィリピン周辺の海面水温は例年より1~2℃高い30℃程度です。一方で、日本近海の海面水温も同じように30℃くらいあるんです。
台風は海面から水蒸気の補給を受けて、成長しながら北上します。そして、例年ならば日本付近の海面水温は熱帯域に比べて低いので、だんだん水蒸気の補給を受けられなくなり、衰弱しながら日本に近づいてきます。
しかし、現在は日本付近の海面水温が熱帯域と同じくらい高いので、台風10号は発生したときからどんどん成長しながら日本に近づいてきました。しかも、ゆっくりと進んだことで、非常に強い勢力を維持していたのです」
なぜ、ゆっくりと進んだのか?
「台風には自分で進む力はほとんどありません。何かほかの力に押されて進みます。台風が南の海域で発生したときは、東から西に吹く貿易風に流されてゆっくりと西に進みながら北上します。
その後、太平洋高気圧の縁を吹く風に流されて日本に近づきます。そして、日本付近では西から東に吹く偏西風によって、東に流されるんです。
しかし、最近は太平洋高気圧が西に強く張り出しすぎていて、今回もほとんど風が吹いていない場所を通ってしまいました。また、偏西風は今、大きく日本の北に蛇行しています。そのため東に流されず、九州あたりでウロウロと迷走してしまったのです」
台風10号は、九州や四国から離れた東海、関東地域でも大雨を降らせました。それはなぜなのか?
「台風は反時計回りの回転をしています。ですから、台風の右側は南からの風が入ってきます。台風が九州にいるときは、東海や関東地方は台風の右側にあたるので、南にある太平洋から雨の原料となる暖かく湿った空気がどんどん流れ込んできます。
一方で、日本の東には高気圧がありました。高気圧は時計回りの回転をするので、同じように太平洋から湿った空気が流れ込みやすい状況でした。さらに、台風10号の速度が遅かったことで、南から湿った空気が流れ込む状況がずっと続いてしまいました。そのために東海や関東で大雨が降り続いたのです」
こうした気象状況や気圧配置は、いつ頃まで続くのか?
「太平洋高気圧の張り出しが例年より強いのは、10月頃までと予想されています。実は台風は9月、10月だけでなく、11月や12月にも発生しています。しかし、この頃は太平洋高気圧の張り出しが弱まっているので、秋の台風は日本列島の東側を通ることが多いんです。
ところが10月になっても太平洋高気圧の張り出しが強ければ、例えば台風が九州や四国に向かってくることも考えられます。すると、10月くらいまでは日本に大きな被害を与える台風がやって来るかもしれません」
今年は10月まで、台風10号と同じような最強クラスの超低速台風が日本に来る可能性が十分にあるのだ。
■ラニーニャ現象が台風接近を増やす!
一方で「今後、台風10号クラスが普通になる」というのは、三重大学気象・気候ダイナミクス研究室の立花義裕教授だ。
「まず『日本近海の海面水温の異常な上昇』。そして、偏西風が日本を避けるように北に流れる『偏西風のスーパー大蛇行』。さらに、本来なら房総半島から太平洋に抜けていく暖かい黒潮が、房総半島から北上して東北を通り北海道沖まで流れる『黒潮のジャイアント蛇行』という"猛暑3点セット"が現在でも継続していることがポイントです。
猛暑で日本近海の海面水温が高いため、日本に近づく台風の勢力は弱まらないばかりか、強まることすらある。そして、偏西風が北にあるため、台風は進む方向が定まらずノロノロ・ウロウロする。猛暑であればあるほど、台風の動きは遅くなるんです。猛暑が台風の強化や低速化につながっているんです。
また、今回は九州に上陸しましたが、これが関東に近づいた場合、黒潮の影響を受けてさらに勢力が強まる可能性もあります。
そして、今後ラニーニャ現象(太平洋赤道域から南米沿岸にかけて海面水温が低くなる現象)が発生しそうです。ラニーニャが発生すると、一般的には日本の近くで台風ができやすくなります。
ラニーニャではないときは、日本からはるか東方の太平洋中部で台風は発生するんですが、ラニーニャになるとそこから西のほうに移動して、日本の真南あたりで発生します。台風の発生が日本に近ければ、それだけ日本に近づく台風も多くなるでしょう。
また、猛暑で残暑が厳しく、海面水温の高い状況が続けば、それだけ長い期間、日本の近くまで強い台風が接近する可能性が高まります。
例年は11月になると台風はかなり少なくなるのですが、今年はそう言い切れません。もしかしたら11月になっても強い台風が日本を襲うかもしれません。
このように、今年は例年とはかなり違った状況です。しかし、猛暑3点セットやラニーニャが続いていれば、こうした状況が普通になるわけです。そして、台風10号クラスの発生が普通になるということは、それよりも強力な台風が日本にやって来る可能性もあります。
台風10号は熱海市や静岡市など各地で観測史上最大の雨を降らせましたが、この記録を超えるような超低速メガ台風が日本に上陸するかもしれません」
原田予報士も台風10号を超える強力な台風が来るかもしれないと危惧する。
「過去の統計では、日本の太平洋側に接近する台風が増加しており、これらの台風の強度が強くなっていることがわかっています。また、今後は日本の南海上では猛烈な台風の存在頻度が増加すると予想されています。
ですから、今後は台風によってこれまで経験したことのないような雨や風が吹いたり、これまで起こらなかった地域で大雨になったり、普段は発生しないような場所で高波が発生するなどということが十分に考えられます。
台風10号では、重大な災害が起きる恐れが著しく高まっているときに出される『特別警報』が発表されました。今後は、これまでよりも気を引き締めて台風対策をしたほうがいいのではないでしょうか」
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現在、日本の南海上では、台風の卵が続々と発生しているが、台風10号以上の大きな被害が起こらないことを祈りたい。