黄孟志こう・たけし
編集会社かくしごと代表。多様性時代の10代メディア『Steenz』元チーフエディター。表参道&原宿のローカルメディア『OMOHARAREAL』元編集長。経済メディア『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニスト。
1988年生まれ。早稲田大学理工学部建築学科中退。
https://www.kakushigoto.com/
https://twitter.com/KOH_TAKESHI
JR東日本が埼玉の大宮駅でエスカレーターの歩行をAI技術で抑制する実験を実施中。ただ、歩いている人も多いし、突然立ち止まるのも......。というわけで、アンケートや規制する側の声を聞き、この問題について考えてみた!
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JR東日本が10月28日から12月4日まで、埼玉のJR大宮駅でエスカレーター安全利用促進に向けた実証実験を施行中。カメラやAI技術を利用しエスカレーターを歩行する人への注意喚起を行ない、片側をあけて利用する慣習から「非歩行2列乗車」へと変えていくのが狙いとのこと。
だけど、まだ歩いている人多くない? みんなはこの「エスカレーターの歩行問題」をどう考えている? アンケートや規制する側の声を聞いてあらためて考えてみた。
まずは、エスカレーターの歩行の危険性から。日本エレベーター協会に聞いた。
「最新のデータは2018年1月から2019年12月までの調査によるもので、この2年間では1550件のエスカレーターでの利用者災害発生が報告されています。
主な災害は『転倒』『挟まれ』『転落』の3種類に分類できますが、そのうち『転倒』が62%を占め最多。原因のほとんどが『乗り方不良』であり、その中には『歩行』も含まれています。
なお、エスカレーターでの利用者災害が発生しやすいのは『交通機関』で、『ショッピングセンター』や『屋外環境』などを上回っています」
でも、階段状になっているから、つい歩いてもいいような気がしてしまうけど......。
「そもそもエスカレーターは歩くことを前提に造られておらず、その構造は建築基準法で規定された『階段』の基準を満たしていません。つまり安全に歩行できる場所ではないため、転倒の危険があることはもちろん、周辺同乗者を巻き込んだ場合は賠償責任が発生する可能性も考えられます」
まずは「エスカレーターはそもそも歩く場所ではない」と認識するのがこの問題を考える始まりのようだ。
だが、全国の20代から50代の男性100名にアンケート調査を行なったところ、「エスカレーターの歩行が規制されていることを知っている」と回答したのは57%とおよそ半数。
さらに「エスカレーターを歩くことがある?」に対し「いつも歩く」が16%、「たまに歩く」が56%、「歩かない」は28%にとどまった。急いでいるときなどは歩いてしまう人がやはり多い。
そして、「エスカレーターの両側がふさがれていてイラッとした経験がある」と答えた人は54%と半数以上存在。両側に立ち止まって乗ることは本来正しいのに、周囲からの圧力が発生することが慣習を変える難しさにつながっていることもうかがえた。
ただ、この慣習を少しずつ変えることに成功している自治体も存在する。
2021年10月から「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を施行している埼玉県に、その効果を聞いてみると。
「県政世論調査の結果を見ると、駅でエスカレーターを『歩いて利用した』と回答した人は、条例施行前の2021年7月時点で35.1%であったのに対し、2023年度は21.6%と13.5ポイント減少。埼玉県では条例制定のほか、映画とコラボレーションしたポスターや啓発グッズなども展開し、さまざまな形でエスカレーターの安全利用を呼びかけています」
そして、日本で2例目、2023年10月にエスカレーター歩行禁止条例を施行した愛知県名古屋市からもこのような回答があった。
「エスカレーターを歩行する方の割合は、条例制定前が21.3%であったのに対し、直近の調査では6.7%と14.6ポイント減少しました」
このように、取り組み方次第で利用者の慣習も変えていけることもわかった。
そんな取り組みの一環が冒頭で紹介した埼玉のJR大宮駅で行なわれているエスカレーターでのAI実証実験。JR東日本に、実験の場として大宮駅を選んだ理由を聞いてみた。
「大宮駅は弊社において乗車数7位(2023年度)の規模の駅であること、また、埼玉県ではエスカレーター上の歩行を禁止する条例が定められていることから、駅をご利用されるお客さまにもエスカレーター上の歩行防止に向けた取り組みについてご理解が得られやすいと考え、実証実験の実施駅として選定しました」
AI技術による注意喚起に期待することは?
「常に音声を流すのではなく、エスカレーター上を歩いているお客さまに直接メッセージを伝えたいと考え、AI技術を用いることにしました。メッセージに気づいて、お客さまに立ち止まっていただけることを期待しています」
というわけで、実際に弊誌記者が大宮駅に行ってその効果のほどを確認してみた。まずは通勤通学ラッシュ時をチェック。
記者「通勤通学で急ぎたい時間帯のせいか、みんな右側を歩いちゃってますね。AIシステムで注意アナウンスをしているけど、人数が多すぎるから常に流れ続けている状態で、効果がなさそうです」
「エスカレーターは歩かないでください」というアナウンスが延々と響く中......ついに右側に止まって利用する男性(30代)を発見!
記者「なぜ止まりました?」
男性「埼玉では歩かないルールだからですよ」
記者「みんな歩いている中で勇気がいりませんでした?」
男性「多少はいるけど、危ないから、みんな止まったほうがいいですよ。高齢者や子供、体の不自由な方もいらっしゃるので」
後ろからのプレッシャーに負けず、正しい行動をとる人も少なからず存在した。
そしてラッシュ時を過ぎると......アナウンスにより歩くのをやめる人が続出。
記者「アナウンスで注意されてどう思いましたか?」
男性「無意識だったんで、歩いちゃってた......と気づきました。怖い声でなくかわいい声だったので、嫌な感じはしなかったです」
記者「今後は2列で乗りますか?」
男性「できればそうしたいですね。自分も右手で持っていたカバンにぶつかられて、イラついたこともあるんで」
混雑していない時間からコツコツと。AIシステムも、少しずつ効果を発揮しそうな予感だ。
最後に、世界中を飛び回るエスカレーターマニア・田村美葉氏にも、エスカレーターマナーについての見解を聞いてみた。
「これまで、イギリスのロンドンで右側あけを推奨するポスターや、中国・上海でステップの中央に線を引き片側あけを促すエスカレーターなどを見たことがあり、片側あけの慣習は日本だけのものではありませんでした。
しかし、最近は世界的に2列で歩かず乗ることを推奨する流れになってきています。だからこそ今、高齢者の多い日本が率先してエスカレーターでの歩行を止めていくのはとてもいいこと。日本の技術力によって、画期的に問題を解決する最新エスカレーターが出てきたらと願っています」
今はまだあまり浸透していないけど、日本のマナー意識と技術力でエスカレーター事故が減ることを願いたい。
編集会社かくしごと代表。多様性時代の10代メディア『Steenz』元チーフエディター。表参道&原宿のローカルメディア『OMOHARAREAL』元編集長。経済メディア『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニスト。
1988年生まれ。早稲田大学理工学部建築学科中退。
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