小山田裕哉おやまだ・ゆうや
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。
来年4月から横浜市が管理する約2700ヵ所の公園すべてが禁煙化される。だが、ポイ捨て増加など懸念される問題は多い。そもそも「喫煙所を増やす」という策が軽視されている感もある。市民の声を拾った!
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元町・中華街や山下公園、赤レンガ倉庫など、国内だけでなく、海外からの訪日客にも人気の観光スポットを多く抱える神奈川県横浜市。
そんな同市では、来年4月1日から市が管理する約2700ヵ所の公園すべてが「禁煙」となる。市によると、「子育てしやすい街づくり」を推進するのが目的で、違反者には5万円以下の過料が科せられるという。
昨今の健康増進政策の後押しもあり、横浜市では以前から、公園の禁煙化について市民を対象とした意見聴取を行なってきた。今年4月から5月にかけてもパブリックコメント(以下、パブコメ)を募集。645件の意見が寄せられ、そのうちの約6割が「全面禁煙を望む」と回答した。
この結果を受けて横浜市は、「(市の公園を禁煙にすることについて)全面禁煙を望むご意見が多く寄せられました。今後、いただいたご意見等を踏まえ、引き続き公園における受動喫煙対策を進めていきます」とコメント。
そして、実際に市の公園を全面禁煙とする「改正公園条例案」を市議会本会議に提出し、これが可決されたことで、来年4月から公園内の禁止行為に「喫煙」が追加されることになった。
つまり、「市民の意向を反映した結果の決定」という流れだが、パブコメを具体的に見ていくと、全面禁煙化に対して慎重な意見も少なくなかったことがわかる。
例えば、パブコメの内訳では約3割の市民が「分煙環境の整備を望む」や「禁煙化に否定的」とも回答しており、必ずしも全面禁煙を強く望む意見が大多数ではないことが見て取れる。パブコメの中の慎重派の意見はこうだ。
「(禁煙化しても)公園近くのポイ捨てが増えるだけ」
「公園のような広いところで受動喫煙の可能性はよほど近くにいない限り低い」
「公園の適切な位置に喫煙所を設けることを望む」
「市民が平等に使用する公園として、禁止の前にまずは『共存』できる方法を提案してはどうなのか」
「喫煙者も市民だ」
基本的には「禁煙化には賛成」と答えた市民からも、ポイ捨て増加の懸念や喫煙者の権利を擁護する観点から、まず「喫煙所の増設」を求める声が多く上がっていた。
そもそも今の日本の健康増進政策は、一方的な「禁煙化」ではなく、「分煙化」の推進に向かっている。
総務省も各自治体に向けた「地方たばこ税の安定的な確保と望まない受動喫煙対策の推進のための分煙施設の整備促進について」(今年4月1日付)という通知の中で、「駅前・商店街・公園などの場所において、地方団体だけでなく民間事業者等によるものも含めて分煙施設の整備を進めていくことが有効である」としている。横浜市の「公園の全面禁煙化」は、総務省の指摘と逆行しているように見える。
実際、大阪・関西万博の開幕を間近に控え、「喫煙所不足」が指摘されている大阪市では、むしろ公園に喫煙所を新設しているように、分煙施設の増設は全国的な課題となっており、横浜市でも「喫煙所が足りない」と嘆く市民は多い。
横浜駅西口付近の喫煙所にいた40代男性がこう話す。
「この喫煙所はいつも人が多すぎます。駅の周辺に喫煙所が少ないから人が殺到するんですよ。これで公園まで禁煙になるなら、もっと喫煙所を増やしてほしいですね」
また、観光客で連日にぎわう元町・中華街では、ある店舗の喫煙ブースにいた30代男性が、こう語ってくれた。
「以前はいろんな店の前に灰皿がありましたが、最近は軒並み撤去されました。今の中華街は喫煙所がないに等しい。喫煙可能な喫茶店はいつも混んでいるし、路上喫煙も前より増えた気がします」
こうした指摘について、横浜市はどう対応していくつもりなのか。市の公園緑地管理課の担当者はこう話す。
「今回の条例は子供が安心安全に過ごせるように、望まない受動喫煙をなくしていくのを目的としたものです。そのため、喫煙所不足のご指摘は真摯に受け止めますが、誰もが利用可能な公園内に関しては、今後も喫煙所の設置は予定しておりません」
条例が施行されると、公園内の喫煙に5万円以下の過料も科せられる。それはどのように取り締まるのか。
「喫煙者が多く目撃される公園を重点的に見回っていく予定です。ただ、喫煙を発見したら即過料処分というわけではありません。まずは口頭で注意を促して、公園が禁煙となったことの周知に努めていきます」
横浜市内の公園では大勢の人が訪れる大規模イベントが行なわれることも多いが、これだけ厳しく禁煙化を進めているにもかかわらず、その際には「仮設の喫煙所を設けることも検討する」そうだ。
それならば、いきなり禁煙化を進める前に、喫煙所の増設が先では......という声が出るのも当然だろう。来年4月の条例施行に向け、今後の横浜市の対応に注目だ。
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。