渡辺雅史わたなべ・まさし
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。
連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第83回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
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最近話題となっている「103万円の壁」。給与収入が103万円を超えると所得税課税の対象となること、学生のアルバイトの場合、親などの扶養者の所得税や住民税が増えるため、このラインの手前で働き控えをする人が多いことから「まるで越えてはいけない壁のようだ」という意味合いでこのような名前が付けられているようです。
このような「壁」はウーバーイーツ配達員にも存在します。配達員の場合は「越えてはいけない壁」ではなく「どうしても越えられない壁」の方が多いのですが。今回は、そんな配達員にとっての「壁」を紹介します。
絶対的な壁として立ちはだかるのは「12時間の壁」。
ウーバーイーツの配達は自転車、バイク、自動車などを運転して行なっている人がほとんど。長時間連続で稼働すると交通事故の原因となるため「6時間以上の休憩を挟まずに12時間以上稼働することはできない」仕様になっています。
この「12時間以上稼働」というのは、12時間ぶっ通しで働くという意味ではありません。例えば1時間配達して1時間休憩、再び1時間働いた場合は2時間稼働となります。また、稼働時間は配達依頼を受けてから配達完了するまでの時間になっています。そのため、年末年始の注文の多い季節にひっきりなしに働いた場合でも、限界稼働時間に達するまでは13時間ほどかかります。
先ほど書いたように、交通事故防止の観点から長時間の休憩は絶対必要なことなので、この仕様は素晴らしいものだと思います。ただ、配達する地域や季節などによって注文の多い時間帯、少ない時間帯は異なるので、12時間の壁を意識しつつ6時間の休憩をどこに入れるかが稼ぐためのポイントとなります。
さらに自転車配達員にとっては、稼働時間が配達依頼を受けてから配達完了するまでの時間なのも大きなポイント。高額の配達料が提示されても、配達依頼を受けた場所から商品受け取り先の店、そこから配達先までの距離が遠すぎる案件の場合、稼働時間をたくさん削られてしまい、収入が大きく減ってしまう要因となります。
都内で自転車配達員をする私が感じているは「5kmの壁」。
東京都内は他のエリアよりも配達員が多いのか、自転車に舞い込んでくる配達依頼は依頼を受けた場所〜商品を受け取る店〜配達先のトータル距離が短めのものが多いです。ほとんどが3km以内、早朝や深夜など配達員の少ない時間帯でも5km以内です。
配達で得られる収入は配達依頼の件数、稼働している配達員の数、運ぶ料理の量、配達する距離など、さまざまな要素から算出されるらしいので詳しいことは分かりませんが、これまでの経験から短い距離の配達は金額が少ないものが多い傾向があります。そのため5kmの壁がある都内の自転車配達員は雨が降っている時や気温が35度以上、もしくは5度以下の日、年末年始など、配達員の数が減るタイミングぐらいしかガッポリ稼ぐことは厳しい状況です。
1番目の壁と2番目の壁の要因が重なって私のような都内の自転車配達員に現れる3つ目の壁が「1万2000円の壁」。
配達を始めた当初は12時間の壁の制限時間いっぱい稼働した場合、1日1万8000円、多いときは2万2000円ほど稼げましたが、最近は1万2000円を超えればラッキー、1万円でも「よかったな」と感じるほど稼ぎが減りました。
注文から商品到着までの時間が意外とかかることが注文者の間で周知されたのか、昼休みにオフィスへ料理を運ぶ仕事が激減。注文が減ったことで昼休みの時間帯に得られる収入も激減と、ひと昔前は稼げる時間帯だった昼休みの時間は負のループによって稼げない時間となり収入が減少。
さらに早朝や深夜などの時間帯に注文が増え、ここに6時間休憩を入れれば効率よく稼げる、というタイミングがなくなりました。そのため、クエストと呼ばれる一定回数を運ぶともらえるボーナスやチップの収入を除いた純粋な稼ぎは、いい時で1万2000円となりました。
ほかにも、一度に運べる商品の量の壁や現金配達の壁など、さまざまな壁がありますが、103万円の壁ほど生活に大きな支障が出るものではないので「ま、仕方ないな」と割り切りつつ配達を続けています。
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。