親や自身の老後など、介護には誰しも関わることになる。しかも、今年は団塊の世代の全員が後期高齢者になり、国として注力せざるをえない領域だ。しかし、現場で働く人にその実態を語ってもらったところ、驚愕の実情が明らかに......!
■業界にやって来る"困った"人たち
「2025年問題」とは、団塊の世代(1947~49年生まれ、約800万人)が75歳以上の後期高齢者となり、日本が本格的な超高齢化社会に突入することで発生する社会問題の総称だ。
そこには当然介護の問題も含まれるが、介護業界は今、深刻な人手不足に悩んでいる。さらに、介護従事者からは"量"だけではなく"質"にも大いに問題があるという声が聞こえてくる。
超高齢化社会を迎えるにあたって無視できない介護業界の実態を、都内の訪問看護・介護併設の居宅支援事業所に勤める主任ケアマネジャーKさん(40代男性)と、同じく都内の訪問介護事業所のサービス提供責任者Sさん(40代女性)に語ってもらった。
* * *
――Kさんは採用面接の機会も多いそうですが、どんな人が応募してきますか?
Kさん 昔は「履歴書の証明写真がプリクラだった」なんて話を聞きましたが、今は加工写真を貼ってくる人がよくいます。加工しすぎていて、写真と実物が一致しないレベルです。
介護の世界は、入り口が広いし人手不足なので、「ほかの業界では採用されないから、仕方なく介護職に」という人が多く、その中には履歴書に加工写真を貼ってしまうような非常識な人も多いんです。
――介護業界の「入り口が広い」というのは、どういうことですか?
Kさん 介護業界は、ハローワークに介護職だけの求職コーナーがあるくらい人手不足です。また、無料で介護職員初任者研修の資格が取れる支援制度もあります。
だから、どんな人でも採用されます。かくいう僕ももともとは接客業をしていて、当時勤めていた会社が倒産しそうになったので、26歳のときに介護業界に入って、今に至ります。
さすがに介護を10~15年やっていて、ケアマネジャーや管理職になっている人は常識人が多いですが、短期間のうちに8~9社の転職を繰り返しているような人たちには、ちょっと"困った"人が多いですね。
――確かに、介護職の有効求人倍率の推移(グラフ)を見ても、誰でも採用してしまうくらい人手不足と言われても驚かないレベルですね......。何か採用した人にまつわるトラブルはありましたか?
Sさん ハローワーク経由で入社してきた、ニート歴20年の50代男性の教育係になったことがあります。その人は、朝に初任者研修の資格を取る専門学校に通いながら働いていました。
ある日の朝、学校に行っているはずの彼から電話があったんです。「電車の中で、おもらししてしまったんですけど、どうしたらいいですか?」って。一瞬、なんて答えていいかわからなくて固まりました。
取りあえず冷静に「まずは学校に連絡しましょう。服屋さんが開店したら、パンツとズボンを買いましょう」と伝えました。
採用を決める会社の上の人たちにはいくら人材不足とはいえ、最低限、人を選んで採用してほしいとは思います。ハローワークも、20年間ニートだった人をいきなり送り込んできて、現場に教育を押しつけないでほしい。
せめて就労支援をしてからであれば、まだどうにかなるかもしれません。ちなみにその人は2週間で辞めてしまいました。
Kさん そういうケースは「トライアル雇用」で採用されているんですよね。ハローワークが企業への助成金という形で実質の給料を支払っているんです。
また、通常の採用は本採用が前提になっていますが、トライアル雇用には本採用義務がありません。だから、気軽に採用してしまうんでしょうね。
■性に奔放? セクハラ、窃盗も
――よく介護職の男性に「職場で彼女ができたけど、ほかの男と"穴兄弟"じゃないか不安だ」という相談を受けるのですが、そんなに介護業界は性に奔放なんですか?
Sさん 訪問介護ではあまり聞きませんが、介護施設はすごいらしいですね。
Kさん はい。僕は今の会社の前は特別養護老人ホームなどにいました。当時、夜勤シフトは人が足りないから大変なのに、よく男女ふたりがセックスのためにどこかに消えていくので迷惑でした。
僕自身も20代のギャルから誘われたことがあります。既婚だったので断りましたが。ベッドは利用者さんが寝ているので、仮眠室や浴室で"する"んですよ。乱交もありましたね。
――勤務中にセックスしに行くなんて、すごいですね。
Kさん 勤務後に"する"場合は、食事に誘うのが合図なんですよ。夜勤からそのまま昼間のシフトに入ると、16時間勤務になって、寝る時間がありません。
食欲・性欲・睡眠欲は人間の三大欲求ですが、そのうち睡眠欲が満たされないと、食欲と性欲を代わりに満たそうとするんじゃないでしょうか。危機に瀕して種を残そうとするというか(笑)。
食欲も性欲も満たせるので、食事のついでにホテルに行っちゃうんでしょうね。
――介護職は利用者からのセクハラによく遭うといいますが、実際はどうですか?
Sさん 私は訪問介護事業所に勤務しているので、よく遭います。目が見えない利用者さんに、「君は僕の太陽だ」と言われ、ベッドに押し倒されたことがあります。どうにか突き放して逃げられましたが、怖かったですね。
認知症の利用者さんに亡くなった奥さんと間違われたり、仕事で介護しているのに、自分のことが好きだから介護していると勘違いされることは何度もありました。
Kさん 高齢女性は「女性からの介助じゃないと嫌だ」と言う人も多いですが、高齢男性はスケベ心から「女性じゃなきゃ嫌だ」と言う人もいますね。でも、2021年4月から、介護事業所にハラスメント対策が義務づけられたので、セクハラが多い利用者は拒否できるようになりました。
そういう人は、どこの事業所からもサービスが受けられなくなり、"介護難民"になっていますね。ちなみに僕は女性からのセクハラには遭わないですが、男性からのセクハラには遭います。そのうちのひとりは事業所の所長だったから、利用者さんではないのですが......。
男性の利用者さんに股間を触られたり、尻を触られたりすることは4回ほどありました。なぜ男性利用者からばかりなのかは、自分ではわかりません......。
――介護職員による窃盗もあると聞きますが......。
Kさん 窃盗はありますね。認知症の高齢者の「物盗られ妄想」と思われているケースの中にも、実際に介護職員に盗まれている人が一定数いると思います。「病気のせいになるからバレないだろう」と思うんじゃないですか。
Sさん 職員間でもありますよ。昔、ロッカーのカギを壊されて物を盗まれた同僚がいました。カギをかけてもダメなら防ぎようがないですよね。
■離職率は高く、資格は取りやすい
――介護業界は離職率が高いということですが、最近はやりの退職代行サービスを使う人もいるんですか?
Kさん 退職代行を使う人を、僕は見たことがないですね。介護業界は、入り口も広いけど、出口も広いので、辞める人は割と簡単に辞めます。
応募者の履歴書を見ていると、同じ事業所で1年も働かず転職を繰り返している人も多いです。すぐに辞めても、次の受け入れ先があるんですよね。だから、お昼休みに失踪したり、ある日いきなり来なくなったりする人もいます。
退職代行サービスは、「しっかり手順を踏んで辞めたい」とか「職歴を汚したくない」とか、真面目な人が使うんじゃないですかね。失うものがない人は使いませんよ。
――最近は外国人労働者の受け入れにも国は積極的ですが、介護業界はどうでしょう?
Kさん 東京23区は特に、フィリピン人やベトナム人を積極的に受け入れています。
フィリピン人は結婚してから勤める人が多く、ベトナム人は独身で、特定技能外国人(人手不足が深刻な産業分野で就労できる在留資格「特定技能」を取得した外国人)として来日している人が多いです。
特定技能2号取得の外国人なら、永住権が得られるので、ベトナム人には真面目な人が多いと個人的には感じます。
Sさん でも、訪問介護は家にヘルパーが入るので、「外国人は嫌だ」と言う高齢者が多いんです。中には沖縄出身の人に対して苦手意識を持つ人もいます。
でも、沖縄出身の人は時間にルーズな人もいますが、訪問介護のルールを無視してまでも手厚いサービスするくらい親切な人も多いです。管理側としては困ることもありますが、人間としては優しいですよね。
Kさん 外国人職員が多いのは、介護施設ですね。常に人手不足の業界なので、外国人も資格を取れるよう、介護福祉士の国家試験がどんどん簡単になっています。僕が受験した頃は実技試験もありましたが、今はありません。
あと、これまでは1回で全科目に合格しなければいけませんでしたが、25年度の試験からは全体を3パートに分けて、1回目にすべて合格できなくても、再受験の際には不合格だったパートのみ受け直せばよくなるんです。
今ですら合格率が83%くらいなのに、さらに受かりやすくなるんです。そんなに簡単だと、国家資格の意味がありませんよね。
昔は、試験に合格している人はまともな人が多いと思っていましたが、これからちょっと"困った"人はさらに増えるかもしれませんね。
■AIやロボットは介護業界を救えるか
――AIやロボットの導入などはどう思いますか?
Kさん 「移乗(利用者をベッドから車いすなどに乗り移らせること)や食事介助などをロボットにやらせるのは非人道的だ」とよく言われますが、どうなんだろうと思いますね。人間が介護して、虐待するくらいなら、ロボット介護のほうがいいと思うこともあります。
あと、認知症の人の中には、何度も同じことを聞く人もいます。例えば、「今日は何曜日ですか?」と一日に何度も聞かれるわけです。家族であろうと、介護職であろうと、人間だったら誰でもイライラしますよね。
もちろん私は初めて聞いたみたいな顔をして、答えますけど。それがAI音声チャットボットなら、イライラせずに何度でも同じことを答えてくれるでしょうし、いいと思いますけどね。
Sさん 私が介護を受ける頃には、介護現場にもAIやロボットが導入されているんじゃないかと同僚たちと話しています。果たして今よりマシになっているかどうかは、そのときになってみないとわからないですね。
* * *
さまざまなエピソードが出てきたが、あくまで業界の一部の話である。言うまでもないことだが、ほとんどの介護職員は真面目に働いている。
一方で、話の端々から深刻な人材不足が伝わってきた。今や2000万人以上になった後期高齢者を介護するためには、介護人材が245万人必要といわれている。それに対して現在の介護人材は212万人。30万人もの人材が足りていない状況だ。
さらに、介護職員の質の低下も見逃せないだろう。介護職の待遇改善や、継続的な教育、採用人事制度の見直しなどが急務であることは間違いない。