1月28日に亡くなった経済アナリストの森永卓郎さん 1月28日に亡くなった経済アナリストの森永卓郎さん

1月28日に亡くなった経済アナリストの森永卓郎(もりなが・たくろう)さん。週刊プレイボーイではニュースや趣味や女のコのことをニコニコしながら鋭く、大胆に、面白く話していました。今回はモリタクさんの訃報に接し、過去の記事の中からちょっとだけその内容をご紹介させていただきます。

■人にもニュースにも弱者の視点を持っていた

経済アナリストの森永卓郎さん(67歳)が、1月28日に亡くなりました。

森永さんは2000年頃から週刊プレイボーイにご登場いただき、03年には『不況に負けるな! 森永卓郎のデフレ人生相談』を短期集中連載。06年から07年にかけて『経済効果で見るワイドショー講座』の連載などで大変お世話になりました。
 
森永さんは当時から、モテない男性や経済的に苦しい人たちの味方でした。今回は、これまでの連載や取材コメントの中から一部を抜粋し、森永さんが週プレ読者に伝えたかった思いを改めて紹介したいと思います。

まずは『森永卓郎のデフレ人生相談』より。

相談:付き合っている彼女の前に収入が僕の倍以上ある男が現れました。彼のプレゼント攻撃によってブランド好きな彼女は僕を振り、その男と付き合い始めてしまいました。こんなのあまりにも悔しいです。

森永さんの回答:今の恋愛関係というのは規制のない自由競争の市場原理に従って生まれるものなのです。それでは、そういう市場原理になったときどういうことが起きるのかというと、強者のひとり勝ち。

これは経済もまったく一緒です。だから、まだ童貞の男がいる一方で、一部の金持ちなど恵まれた男が100人、200人とエッチできちゃうわけです。

では、弱者は全員が恋人のできない負け組になるかというと、そうではありません。この点が経済と恋愛関係でまったく違うところです。

経済の場合は金持ちがお金を独占しちゃうと弱者のところにはほとんど行かなくなってしまいます。しかし、恋愛の場合、モテる男でも同時に付き合えるのはせいぜい5人とか10人が精一杯でしょう。

で、モテる人間が取った後にはそれほどモテない男女が残る。だから原則は『モテない同士で付き合う』なんです。これが幸せになるコツだと私は思います。

ダメになった彼女をいつまでもズルズル引きずるんじゃなく、ほどほどの相手にアタックする。自分が月収20万円なら、その20万円に満足してくれる女性と付き合うべきです。

じゃないと、もし無理して高級ブランドに目がくらむ女と付き合って結婚したら大変ですよ。金がかかってしょうがない。無理してブランド品をあげなきゃならない人より、身の丈に合った相手が重要なんです」

森永さんは経済学をベースに、ユーモアを交えてモテない男の恋愛について教えてくれました。また別の質問では、

相談:僕は昆虫マニアです。標本を集めるのにお金がかかってしまうのですが、もうお金がありません。でも、虫以外のことはしたくありません。どうすればいいのでしょうか。

森永さんの回答:コレクターの分野というのは1位と2位の差が激しくて、1位になると金も情報も物も全部、自然に集まってくる。私の友人の北原照久さん(横浜ブリキのおもちゃ博物館館長)に聞いたのですが、彼が博物館をやっていると、いろんな人が見に来ておもちゃを置いていくんですって。

『昔、ブリキのおもちゃを作ってたんです。そのときのものをとってありますから、ここに飾ってください』って。だから、その分野の1位になることを目指して初期投資する。1位になってからが本当の勝負だと思ってください。

私は基本的には、これからはオタクマーケットが日本の経済を回していくと考えています。衣食住というのは、しょせん飽和してしまうんです。だって、ごはんを食べるのは一日3食で十分でしょ。でも、コレクターの世界は100個手に入れると必ず101個目が欲しくなる。制限がない。無限なんです」

時にはまじめに人生で成功するコツや日本の未来についても語っていらっしゃいました。約20年前、オタク文化がまだ今ほど市民権を得ていない時代から、現在の盛り上がりを見通していたのです。

『経済効果で見るワイドショー講座』では、ニュースを切り口にして、若い人たちに知っておいてほしい大事なことを話していました。高校で必修科目の履修不足問題が発覚したとき(06年)のことです。

「未履修科目の中心となっているのは世界史や日本史といった歴史です。私は歴史を学ぶことはとても重要だと思います。歴史の知識はビジネスに直接役立つわけではありませんが、歴史を知らないと大変なことが起こってしまうのです。

例えばバブルです。この200年間に世界で大きなバブルが70回以上起きました。同じ国でも60年以上たつと繰り返されます。それは歴史を学ばないからです。前回の日本のバブルは、その後に失われた15年をもたらし、その間にGDPを累積で1000兆円以上減らしました。

もうひとつの問題は戦争です。戦争の悲惨さは誰もが知っているはずなのに、戦争の記憶が消えると再び戦争が起こります。太平洋戦争で日本は300万人以上の人命と国富の4分の1を失いました。今の日本の国富は3500兆円ですから、その4分の1は875兆円となります。

つまり、バブルを知らないことで1000兆円、戦争を知らないことで875兆円ものマイナスの経済効果が生じてしまうのです」

バブルや戦争は日本にとって大きな損失になるから、起こさないように注意しなければいけないというメッセージをきちんと伝えていたのです。連載担当者は、森永さんの印象を次のように語っています。

「取り上げるテーマをメールでお送りするといつも『〇〇さん、こんにちは。』という親しみのある書き出しでお返事をいただいたのを今でも覚えています。また、オナニーの話などちょっと下ネタな内容にもまじめにお答えいただきました。

どんな人にも分け隔てなく、どんなテーマにも真剣に、そしていつも弱者の視点に立って語っていたことに優しさとカッコ良さを感じていました」

亡くなる前日までラジオでメッセージを発信していた森永さん。週刊プレイボーイでもたくさんのことをお話しいただきありがとうございました。心よりご冥福をお祈りいたします。

●森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト。2000年『ニュースステーション』のコメンテーターとして大人気に。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(集英社インターナショナル)などがある