友清哲ともきよさとし
ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
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「大企業に賃上げが広がれば、自然と中小企業や自営業者にもその波が広がる」と信じられているが、それってホント? ここ数年の春闘では歴代最高水準の回答を得ているのに、実質賃金はいまだマイナス。そんな不思議なニッポンのリアルな賃金事情を全力調査!!【みんなの給与明細 2025年 春闘ど真ん中Ver. Part6】
※本特集に出てくる年収やボーナスは、額面の金額です。また、すべて個人に対する取材によるもので、職種や業界の平均値ではありません。
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●私立高校教員(男/30代前半)
<年収>710万円
<冬のボーナス額>110万円【前年比】→
<ベアは?>なし
授業そのものが占める時間は勤務時間全体の3割程度。それよりもプリントの作成など事前の準備に最も時間がかかる。これらは"自己研鑽"と見なされるので、残業には含まれない。そのほか、面談やその下準備、保護者への連絡、あるいは生徒への生活指導など、雑務は枚挙にいとまがない。
また、部活動の負担は、部によって事情に差がある。活発な部活はやはり大変。もちろん部活も給料は出ないようなものなので、活発な部活の顧問になるとかなり忙しくなる。
財源を考えると、一律のベアは厳しそう。インフレによるジリ貧感は否めない。
●大手生命保険会社 営業(女/20代後半)
<年収>550万円
<冬のボーナス額>50万円【前年比】→
<ベアは?>なし
営業担当だが、自分で直接顧客に商品を売ることはなく、代理店に商品を売ってもらうための施策を打つのが主な業務。保険商品は微々たる改定が非常に多く、毎回覚えるのが大変。
また、代理店の人材は自分よりキャリアが長く、クセのある年配者が多いのも難点。ヘコヘコしながら指導しなければならず、コミュニケーションが大きなストレスになる。これを理由に退職する人は決して少なくない。
目標を達成すると給与にしっかり反映されるのは良いところだが、少子化や若い人の保険離れから、新しい顧客をつかまえるのが大変な時代になっている。
●海外医療機器メーカー エンジニア(男/30代後半)
<年収>800万円
<冬のボーナス額>100万円【前年比】→
<ベアは?>なし
海外メーカーの日本法人で勤務。夜間の作業や長時間に及ぶ労働が多く、日曜や祝日の出勤も少なくない。さらに遠方の病院に車を飛ばしてメンテナンスに行かされるのも当たり前。休日も電話がかかってくるので、精神的にも肉体的にも疲弊する。
利点としては、エンジニアひとりを育てるのに100万円以上のコストがかかるため、解雇されにくいことか。これは医療機器を扱うために海外研修を含めたトレーニングを要するため。
業績は毎年上がっているが、基本的には現状の古い機械を確実に契約更新してもらうことで、売り上げを維持するような収益構造だ。
●調剤薬局 事務(女/20代半ば)
<年収>310万円
<冬のボーナス額>20万円【前年比】→
<ベアは?>なし
薬局内での処方箋受付と、接客業務が中心。専門知識が求められる場面は少なく、処方箋を薬剤師に渡すのが主な仕事。
患者は必然的に高齢者が中心なので、丁寧な説明と理不尽なクレームへの対応力が求められる。「おまえが出した薬を飲んでから体調が悪い」と5時間も居座って文句を言い続けるおじいさんや、毎回「おう姉ちゃん、最近セックスしとるか」と挨拶してくるおじいさんなど、カスハラは枚挙にいとまがない。給与も上がらないので転職を検討中。
もともとエリアで唯一の調剤薬局なので客は多かったが、コロナ禍以降はさらに客足が伸び続けている。
●イベント会社 事務(女/20代後半)
<年収>420万円
<冬のボーナス額>60万円【前年比】→
<ベアは?>なし
ジャンルを問わず、イベントのチケットの販売設定と管理を行なうのが仕事だが、時には会場で受付対応をすることもある。
また、チケット購入者の窓口を務める際、クレーム対応も業務のひとつ。これがとてつもないストレスで、中堅になるとたいていの社員が辞めてしまうため、会社には新卒と部長レベルしかおらず、新人育成も満足にできない状態に陥っている。そのせいで全社的に業務のあらが目立ち、会社の居心地も最悪といえる。
コロナ禍ではかなり業績が落ち込み、賞与もあまりもらえなくなったが、業界的にはもともと給与水準は低くないと思う。
●アニメーター(女/40代半ば)
<年収>500万円
<冬のボーナス額>なし【前年比】→
<ベアは?>なし
フリーランスのアニメーターとして、割り当てられた作品の作画を担当。給与水準は全体的に上がっているが、とにかく人手不足が深刻。昔と違って個人でもネットで作品を発表できるので、わざわざ過酷なアニメーターになる必要がないのかもしれない。
人手不足のせいで簡単な仕事は外注するようになってきており、新人向きの簡単な仕事が社内からなくなった。そのためいきなり難易度の高い原画を担当させられてしまい、一部の優秀な人だけ成長できてほかは脱落する構造になってしまった。人手不足をしのぐ策のせいで、より人手不足がエスカレートしている。
その上多忙ということもあり、絵を納品する際には配送を行なう専門業者に頼むこともある。最近は運転免許を持っていないアニメーターも増えてきたが、昔では考えられない。
ただ、実際問題として、仕事で疲弊した人に運転させるのは非常に危険で、ある会社では事故が起こりすぎて自動車保険を使い切ってしまったという話もあるほど。
業界構造として、60歳前後の、『宇宙戦艦ヤマト』を見てアニメーターを志した世代がボリュームゾーンで、彼らはアニメ一筋で仕事も早く、長らく業界の主戦力を務めてきたが、さすがに加齢のため体力的な衰えが激しい。近い将来、彼らがこぞって引退したら、この業界はどうなってしまうのかと暗雲が垂れ込めている。
しかし日本のアニメ産業は海外人気にも後押しされ、好調が続いている。そのため出版社やテレビ局がアニメ化のオファーをスタジオに持ち込んでも、3年後まで仕事が埋まっているような状態も珍しくない。
待遇改善も進み、最近はスタッフを社員にする動きが広がっているが、社員にはバランスの取れたスキルが求められるので、特別な技能がウリの職人的なアニメーターや、自由な働き方から生まれる新しい表現がアニメからなくなり、アニメの進化が止まってしまうのではないかと心配している。
● 住宅販売会社 営業(女/20代後半)
<年収>650万円
<冬のボーナス額>60万円【前年比】↑
<ベアは?>なし
一戸建て住宅の販売を担当。街中でのビラ配りや声かけなど、アルバイトのような業務も非常に多く、精神的にも体力的にもタフじゃないとやっていけない。
また、とにかく労働時間が長い。基本的にブラックな業界で、飲食チェーンやアパレルなど、同じく働き方改革がされていない業界からの転職組が多い。
会社の業績は好調で、結果を出せば給与も上がるが、個人的には成果が出ず困っている。やはり一戸建て販売は難しく、全然売れない。結果を出さなければ居心地も悪く、給与も下がるため、今後の身の振り方を考えているところ。
取材/井澤 梓 伊藤将史 佐藤 喬 田口ゆう 友清 哲 西田哲郎 東田俊介 室越龍之介 茂木響平
ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
Instagram【satoshi.tomokiyo】