今年4月に社会人となった新入社員の中には、すでに各部署へ配属された人もいれば、まだ集団研修の真っただ中という人もいるだろう 今年4月に社会人となった新入社員の中には、すでに各部署へ配属された人もいれば、まだ集団研修の真っただ中という人もいるだろう
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「令和7年の新入社員に贈る言葉とアドバイス」について。

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「退職したい社員を引き止めるのは人権侵害ではないか」。

もう行き着くところまで行き着いた感がある。ある外資系企業での議論を聞いたときのことだ。すべての労働者は自発的な意思で仕事に就いていなければならない。だから辞めたいと申し出た社員を説得するのは人権侵害ではないか、というのだ。もう現場ではここまで議論が進んでいるのだ。

4月にはたくさんの新社会人が職場に入ってきた。信じられないだろうが、たった20年前の社長からの入社式訓示がいまでは使えない。以下は実例を会社員らと精査した内容だ。

〈君たち、入社おめでとう【注意①:社員と社長は平等であるから「みなさま」「おめでとうございます」がふさわしい】。先輩たちは経験があるのだから、配属された職場での指示は絶対だと思ってほしい【注意②:指示命令系統の絶対化】。一人前になるまでは率先していくらでも仕事に取り組んでほしい【注意③:長時間労働の推奨】

また、教えてもらうだけじゃなく、就業前に周囲の机を拭いて、率先して先輩らの準備も手伝ってほしい【注意④:無償労働の強要】。社会ではやる気を見せる姿勢が評価されるから【注意⑤:ジョブディスクリプションの無視】、雑用でも笑顔でやれる人が伸びる【注意⑥:精神論と価値観の押し付け】

それに私たちは家族の一員なのだから【注意⑦:個々の価値観の無視】、積極的に会合等にも参加してほしい【注意⑧:アルコールハラスメント】

ぜひ、君たちには仕事上の責任は自分にあると思って【注意⑨:心理的安全性の欠如】、言い訳などせず頑張ってほしいものだ【注意⑩:言論の自由の侵害】。ぜひ、弊社を舞台にどんどん暴れてもらいたい【注意⑪:DV経験者への配慮不足】

つまり20年前の訓示は一つの文章すら使えない時代にわれわれは生きているが、新入社員の方へ普遍的な二つのアドバイスを贈りたい。

【A】速く歩き、早く返事をし、締切を守ること。

なんでもいいから早くして、70点でもいいから締切どおりに出す。【A】がいいのは、能力やスキルに関係がない点だ。私はこの連載で締切に遅れたことは一度もないと記憶するが、「私ごときが熟考しても仕方がないから、せめて期日を守ろう」と思っているからだ。

そう、社会人人生は自分の凡庸さを認め、他者へ優しくする過程でもある。

【B】「会社のためを思ってやりました」と言えること。

精神論ではない。会社員は勤務する企業の付加価値向上のためにのみ雇われている。すべての活動は企業価値最大化に寄与せねばならない。

だから失敗したときヘラヘラするか、上司にガチで「会社のためにやったのに悔しいです」と言えるかでまったく違う。失敗しても責められないようになろうね。

そして仕事の肝要とは、相手が述べたことを解釈し、咀嚼(そしゃく)し、適切な返事・返信をすることだ。もっといえば「デキる人」「頭が良い人」とは、相手が言った内容を理解し、論理的に返す人だ。専門性は二の次だ。

『論理トレーニング101題』(野矢[のや]茂樹著、産業図書)などなんでもいいから、論理の学習を勧めたい。高学歴者がどの分野でも出世するのは論理的思考ゆえだろう。......わっ! 「高学歴」だって。私は【注意⑫:学歴差別者】といわれるかも。

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