晩婚化が進み、30歳を超えての第1子出産も多くなっている。母親の健康を守る支援策も求められる 晩婚化が進み、30歳を超えての第1子出産も多くなっている。母親の健康を守る支援策も求められる

「子供が欲しくない」若者が増えている理由はいったいなんなのか? 金銭的な問題以外に、どのような問題を若者は抱えているのか? 600人にアンケートした結果を、教育行政学が専門で若者世代の実態に詳しい末冨芳(すえとみ・かおり)氏に解説してもらった。

■「子供は欲しくない」と5割超が回答!

今年2月に日本大学の研究グループが主体となって行なった15~39歳の若者世代の貧困・困難の実態を調査する全国アンケートで、52%が「子供はおらず、子供は育てたくない」と回答したことが各種メディアで話題になった。

合計特殊出生率が下がり続ける中、子供を持ちたいと思う若者もどんどん減っている実態が明らかになり、少子化のさらなる加速が懸念されている。

子供を持つことに関する若者世代の意識をさまざまな観点から深掘りするべく、週プレが20~34歳の男女600人に緊急独自アンケート。日大研究グループ代表で、日本大学文理学部教授の末冨芳氏に解説してもらった。

まず、日大の研究結果からは何が言えるのか?

「今回、若者世代では相対的に高いと言える年収500万円以上の男女グループのうち、約4割が子供を持ちたくないと回答しました。本研究の新たな発見としては、ある程度の収入がある若者世代の間にも子供を持ちたくない意識が浸透していることが挙げられます」

週プレ独自のアンケート結果でも、将来的に子供が欲しいかという質問に対して、約54%が「欲しくない」「どちらかと言えば欲しくない」と回答(Q1)。その人たちに子供が欲しいと思わない理由を聞くと、「お金の問題」があると答えた人が約8割に上り(Q2)、中でも現在の収入が低いことが問題だと答えた人が最多となった(Q3)。

なぜ、今の若者の多くがお金の問題で子供を持つことを躊躇しているのか? 末冨氏はこう分析する。

「若者世代の間で、子育てに金銭的に大きな負担がかかるという認識が強いことが理由のひとつです。若者の親世代である今の40~50代は『子育て氷河期世代』といえる。

当時の民主党政権によって子供の数だけ減税される仕組みが廃止されたり、さまざまな支援に所得制限が導入されたり、待機児童問題で悩まされたりと、十分に公的支援がされていない中で子育てを経験しました。

家庭でも、いろいろな場面でお金がかかったという話を子供にしている親もいると思います。

そんな親の背中を見て育った若い世代が、自分たちも同じように苦労しながら子育てする自信がないと思ってしまい、金銭的に子供を持つのが難しいと考えているのではないでしょうか」

■「時間貧困」で恋愛・結婚離れが加速

次に、お金の問題以外で子供が欲しくない理由を聞いたところ、「子供が好きではない・興味がない」「自分が人間的に子供を育てられる自信がない」という回答が多くなった(Q4)。この結果を末冨氏は次のように解説する。

「日本の若者は慎重でリスクを回避しようとする傾向が他国と比べても顕著なので、自分が本当に子供を幸せに育てられるのだろうかと不安に感じているのだと思います。

また、子供が苦手な若者が増えている一因には、子供の思いを受け止めながら信頼関係を築く『アタッチメント』(愛着形成)の方法を学ぶ機会が日本の教育に不足していることがあります。

これは子供との関わり方に関する科学的にも根拠がある理論で、イギリスなどでは教育課程にも積極的に取り入れられているのですが、日本ではこのような子供との接し方に関する学びがほとんどないのが現状です。

実際には子供を育ててみると楽しいことも多くあるのに、子育ての正しい方法が共有されておらず、つらい面ばかりが目立って見えるので、子供を持つことに踏み切れない人が多いと言えます」

また、Q4では結婚や恋愛に興味がないと回答した人も多数。そして、将来的に結婚したいかという質問にも、全体の約46%が「あまり思わない」「まったく思わない」と回答している(Q5)。

なお、今までの交際人数を聞いたところ、全体の3分の1以上が「0人」と回答(Q6)。この「交際0人」グループの実に75%が、Q1では「子供が欲しくない/どちらかと言えば欲しくない」と回答していた。

若者の恋愛・結婚離れも、子供を持つ意思と関係しているように見えるが、実態はどうなのか。末冨氏が続けて語る。

「日本の若者が時間的に困窮する『時間貧困』に陥りがちなのが影響しています。若い間はキャリアアップを目指すこともあって労働時間が長くなりがちで、それによって自分に使える時間が少なくなります。

そのため異性との出会いの時間や、交際して結婚したい・子供を持ちたいと思える余裕がなくなっているのだと思います。

今は子供を持ちたくないと答える若者でも、長時間労働の緩和や産休・育休の推進で働き方改革が進んだら子供を持ちたいと考える人は少なくないでしょう。

また、正規職でも子供を持ったら収入が下がるのではないか、職場での昇進に影響するのではないかという不安を抱える若者が多い。経済的支援だけでなく、働き方改革の推進も求められています」

■実は経済的支援は充実している?

次に、日本の未来は明るいと感じるかという質問には、「あまり感じない」「まったく感じない」と答えた人が約7割となった(Q7)。この人たちも多くが、Q1で子供が「欲しくない」「どちらかと言えば欲しくない」と回答していた。

さらに、今の日本は子供を育てづらいと感じる若者も約7割となった(Q8)が、なぜ若者の間に日本に対する絶望感・不信感が広がっているのか? 末冨氏はこう指摘する。

「自民党の長期政権下で育ってきて、高齢者にお金が使われすぎているという不満感が強いんだと思います。実際、今は高齢者向けの施策に年間90兆円ほど政府資金が使われていますが、一方で子育て支援には10兆円ほどしか使われていません。

この世代間の格差を再調整する方向に政治が動けば、若者世代の感覚も変化していくでしょう。そのためには若者自身が、自分たちの支援を重点的にしてくれる政党に投票するしかありません」

次に、日本が子供を育てやすくないと感じる理由としては経済的支援が少ないことが多く挙げられ(Q9)、最も必要な子育て支援は子供を持つ世帯への経済的支援との回答が出た(Q10)。

しかし、アンケート結果とは裏腹に、実は経済的支援の充足は急速に進んでいると末冨氏は語る。

「今現在、政府や自治体からのさまざまな子育て支援が増え、保育や高校授業料の無償化も次々と拡充されています。低所得層には積み増しもありますし、ひと昔前よりもずっと子育てがしやすい環境が整っているんです。

経済的支援が充実してきていることを若者世代に伝えたいのですが、若者と最も身近な子育て経験者である親世代は子育てが一段落していて、新しい情報が入ってきづらい。そのため、両世代とも子育てに関する認識が昔のままで変わっていないのが実情です。

この『情報不足』を解消するため、私は今、各世帯が子供を持ったらどのくらいの支援がもらえるのかが簡単にわかるウェブサイトを開設するよう、こども家庭庁に提言しています。経済的支援が拡充していることの認知が広がれば、子供を持つことのハードルは低くなるでしょう」

「子供が欲しくない」若者が増えている背景には、お金の問題以外に「時間貧困」と「情報不足」の問題があった。政府や企業の早急な対策が求められる。