万博会場中央に位置する8つのシグネチャーパビリオン(プロデューサーによるパビリオン)のひとつが、落合陽一さんの「null2」 万博会場中央に位置する8つのシグネチャーパビリオン(プロデューサーによるパビリオン)のひとつが、落合陽一さんの「null2」
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「大阪万博」について。

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「俺って、何ができるんだろう?」。死ぬまで働く現代では、しばしば転職やキャリアの棚卸しの機会がある。転職面接時に「あなたは何ができますか」と問われる。よくわからない。自分にしかできない特殊技能はない。世界一と自慢できるものもない。能力に価値があるか不明だ。

おなじく「日本って何ができますか?」と問われたらどうだろう。

話が変わるようだが、欧州では『ドラえもん』はあまり人気がなく、『ドラゴンボール』は人気がある。前者はロボットに頼るか弱い人物が主人公だが、後者は悟空本人がすごい。個人主義の欧州では、のび太は受け入れられない。

私が思うに、のび太はポストモダンの超人類だ。詰め込み教育を否定し、他者=ドラえもんからの支援を前提に生きる異常者。まるで、文化と防衛を米国に依存している日本ではないか。中身が「無」「空っぽ」で、他者への依存を積極的に進めた日本。

そこで大阪万博のミャクミャクだ。「脈々」を意味するという。とにかく次々に移り変わる存在。

日本には、確固たる価値観がなく、固定した実体もなく、すべては流動的で変化し続ける。文明開化も、戦後の転向も、アイデンティティなど犬(欧米)にでも食わせて、まさに脈々と生き延びる国家戦略だった。自国での万博の開催を単純に祝えないのも、資源も防衛も他国に依存しているゆえかも。

なあんて面倒くさい話をしておきながら、大阪万博に行ってきた。4月下旬の平日。早朝に落合陽一さんの「null2」(ヌルヌル)に入れそうだとわかった。

どうする? 東京からすぐさま新幹線に飛び乗った。新大阪から夢洲(ゆめしま)駅までは約40分。メディアの報道とは違い、スムーズに入れた。木造建築物「大屋根リング」を歩くだけでも楽しい。

各国のパビリオンに入れなくても、複数の国が出展するコモンズ館には入れる。アフリカや中東など知らない国ばかりで、実際に行ってみたくなった。すぐさま家族での再訪を決めた。未知の国の学習は将来にプラスになるはずだ。

ガンダム館に行き、アトムも見て、動いているiPS心臓に感動した。ロボットのたこ焼き調理に笑い、吉本興業のお笑いライブに苦笑した。私のクライアントの日本企業が出展する未来生活を予想する展示を堪能した。

会場では外国人訪問者が目立ち、土産物を買い漁(あさ)っていた。レストランでも次々に注文する。万博以外でもお金を使ってくれるはずだ。万博の予算は建造費が2000億円強。その相当部分は企業が負担している。いっぽうで万博の経済効果は3兆円。しかも外国要人との対話も可能だ。

また、われらが落合陽一さんの「null2」、河森正治さんの「いのちめぐる冒険」は圧巻だ。意味不明で、何も無くて(=null)、ハイコンテキストすぎた。感動して動けなかった。日本のソフトパワーを伝えるにじゅうぶんだ。

無意味さの徹底が日本の根源だったのだ。日本自身は空っぽだが、世界の文脈をつなぎ価値を紡ぐ。null2とミャクミャクとは無と脈。「俺って、何ができるんだろう?」の答えは「無思想だから世界をつなげられます」だろう。

みな大阪万博へ行け。日本はもっとも進んだ無の国だからこそ、あらゆる意味を受け入れられる平和国家だ。

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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