「実業団トップ選手の出場していない市民マラソンだし、当然、川内選手が1位で帰ってくるだろうと待ち構えていたら、見たことのない選手がぶっちぎりでゴール。会場中が『あれは誰?』とキョトンとしていました(笑)」(たまたま観戦していた本誌記者)

日本マラソン界にまたひとり、異色のホープが出現した。

1月12日に行なわれた谷川真理ハーフマラソン(東京・荒川河川敷、21・0975km)で、優勝間違いなしと見られていた“最速公務員”川内優輝(26歳・埼玉県庁)に1分8秒もの大差をつけて優勝したのは、無名の国立大学生、京都教育大学2年の池上秀志(ひでゆき・20歳)だった。

「9km過ぎの上り坂でスパートを仕掛けて川内を振り切り、残りを1km3分ペースの単独走で押し切った。“強い”勝ち方です」(スポーツライターの折山淑美[としみ]氏)

2大会連続世界選手権代表の川内をして、レース後、「完敗です」「新年早々、がつんと頭を殴られた」と言わしめた彼は、いったいナニモノ?

池上は京都の洛南高校出身。昨年、“世界最速高校生”として話題を呼んだ桐生祥秀(きりゅうよしひで・18歳)の2年先輩に当たる。

「全国高校駅伝に3度出場していますが、特に目立った成績は残していません」(折山氏)

近年の陸上界では、絶大な人気を誇る箱根駅伝の影響で、有望な高校生のほとんどが関東の一部私大に進学している。だが、池上は「マラソンを目指すから箱根駅伝に興味がない」と地元の国立大学に進学。そして、昨年10月には陸上競技部を退部し、“帰宅部ランナー”として独立独歩で練習に励んでいたのだ。

京都教育大学陸上競技部の指導に当たる京都陸上競技協会の谷口博副専務理事が語る。

「とにかく非常にまじめで練習熱心な選手。練習メニューは各自で考えるのですが、彼は高校時代から練習のしすぎで故障することが多かったので、そこだけは注意するよう言っていました。

また、部に所属すると、部員として出なければいけないレースがあり、自分の目標とするレースとの兼ね合いに悩んでいたのですが、最後は自分でやっていきたいと結論を出しました。ただ、部を辞めた今でも、時々部員たちと一緒に練習していますよ」

同部3年の上野雄介主将もこう語る。

「練習から自分を限界まで追い込める、強く熱い気持ちの持ち主です。普段の生活もすべて陸上を優先し、夜9時頃には寝て体調管理に努めているようです。浮ついた話は聞いたことがありません」

実は昨年末、池上はロンドン五輪代表の“プロランナー”藤原新(あらた・32歳)が行なう育成プロジェクト「チームアラタ」のセレクションに合格している。今後は“藤原門下生”として、念願のフルマラソン挑戦を始めるのだろうか。本人を直撃した。

「(セレクションは)ちょうど自分の力を試したいと思っていたので参加しました。藤原選手と合同で練習ができるという特典も応募のきっかけのひとつです。今後も練習拠点は関西で考えていますが、関東で行なわれるチームアラタの合同練習会には参加して、レベルの高い選手たちと切磋琢磨していきたいです。

目標はフルマラソンで日本のトップランナーになること。今までは5000m、1万mをメインに練習に取り組んできたので、まずはフルマラソンに対応できる体をつくることを目標に練習に励んでいます」

現時点でマラソン初挑戦の時期は未定というが、異色のホープの走りから目が離せない。

(取材協力/ボールルーム)