日本もイタリアも予想以上のフィーバーだ。

本田圭佑がついにACミランでのデビューを果たした。先立って本拠地サン・シーロで行なわれた入団会見には約200人の報道陣が詰めかけ、本田のプロモーション映像まで流され、日本でも生中継された。

現地の報道によると、「(かつてミランに在籍した)ベッカムやロナウジーニョの入団会見に匹敵する」というから、ミランの力の入れ具合がわかるよね。移籍金ゼロの選手をこれだけ厚遇するというのは、僕もちょっと記憶にない。

でも、それもそのはず。ミランにとって、本田はそれだけの価値がある選手ということなんだ。すでに背番号10のユニフォームは飛ぶように売れ、日本からの放映権料、スポンサー収入など、多くのお金が動いている。

一説によると、本田の加入によってミランは年間約20億円もの増収を見込んでいるという。ビジネス的にいえば、この移籍はもう今の時点で大成功。メディアもファンも煽るミランのプレゼンは実に巧みだ。

ただ、本田の今後を考えると、この異常ともいえる周囲の過熱ぶりはちょっと心配。求められるプレーのレベルが一気に高くなってしまったからだ。本田本人も少し困惑しているんじゃないかな。入団会見ではいつものビッグマウスは鳴りを潜め、「夢が叶った」「子供の頃からの憧れだったミランに入団できてうれしい」と殊勝なコメントを繰り返していた。

結果を残せなければ、イタリアのメディアはすぐに倍返しの批判をする。もちろん、本田はそれを覚悟の上で挑戦しているわけだけど、彼がこれまでプレーした日本、オランダ、ロシアにはそうした厳しい環境はなかった。それに、どこまで耐えられるか。

そして、もうひとつの心配事が、かつてヒデ(中田英寿)がASローマに移籍した際に起きたこと。まだチームに溶け込めていないヒデを日本のメディアが大挙して追いかけ回し、監督やチームメイト、地元サポーターまでうんざりさせ、結果としてチーム内におけるヒデの立場にマイナスの影響を与えてしまったんだ。

例えば、日本の記者が毎日ヒデのことばかり質問するので、監督が「うちにはほかにもいい選手がたくさんいる」とブチ切れたり、日本のカメラがヒデしか撮影しないので、地元サポーターが「うちのエースはあっちだぞ」とトッティを撮るよう野次を飛ばしたり、そんなことが連日のように起きていた。ヒデもかなり神経を使わされただろう。あれから10年以上、日本のメディアが同じ過ちを繰り返さなければいいのだけど。

ただ、そうした心配はあるものの、本田がビッグチャンスを迎えているのは間違いない。ヒデにとってのトッティのような、ポジションを争う強烈なライバルは不在、試合出場は約束されているも同然だ。しかも、チームは低迷中。ここで結果を出せば、勝てなくてイライラしているサポーターも「救世主だ」と認めてくれる。

一番いいのは本田が得点を取った上で勝利することだけど、チームが置かれている状況を考えると、チームを勝たせられるかどうかのほうがより重要。ユベントス、ローマ、ナポリ、インテルなどライバルはどこも手ごわいけど、ぜひミランを復活させ、チャンピオンズリーグ出場圏内(3位以上)に導くような活躍を期待したい。

(構成/渡辺達也)