写真/真野慎也/JMPA

ソチ五輪、女子スキージャンプ ノーマルヒルで7位に入賞した伊藤有希(19歳)。彼女は「ジャンプの町」北海道下川町の出身だ。

下川町は人口3533人(2014年)の小さな町。ここにスキーのジャンプ台がなんと4台もある。五輪7大会連続出場、今や世界の“レジェンド”葛西紀明、そしてリレハンメルで銀、長野で金と2大会連続でメダルを獲得した岡部孝信。このスキージャンプ2大巨頭を生んだのが、下川町なのだ。

彼女もまた、スキー一家に生まれ、4歳でジャンプの世界へ飛び込んだ。小学6年生時には、史上最年少で大倉山のジャンプ台も飛んだ。

地元で彼女の評判を聞くと、競技者としても、人間としても、「超一流」という声ばかりを耳にする。

「有希さん、マジ、最高っすよ! あれだけキレイなフォームで飛ぶのに、成績だってイイんすから! おまけに性格もイイ! オレら後輩にも偉ぶることないっす!」(伊藤の母校・下川商業高校3年生の近田隼人君)

「有希ちゃんと初めて会ったとき、緊張したけど、気さくに話しかけてくれた。私たちの憧れの人です」(下川ジャンプ少年団の後輩で中学2年生の五十嵐彩佳ちゃん)

地元民が絶賛する下川手延べうどんの名店「味よし食堂」は、普段は至って普通の飲食店だが、ジャンプの国際大会のテレビ中継が深夜にあるときなどは、下川屈指のスポーツバーと化し、地元民が夜な夜な集まってくるという。そんなステキな店の主、太田優さんは「有希ちゃんの性格の良さはK点を越えている」と証言する。

「去年、世界選手権のジャンプ混合団体で金メダルを獲得したとき、海外から下川に戻ってきて、自宅に寄る前に、真っ先にウチの店に来てくれて『応援、ありがとうございました』って言いに来てくれました。感動しましたよ! ウチは夜になるとスナック営業なんだけど、有希ちゃんも、20歳を超えたらぜひ遊びに来てほしいですね」(太田さん)

伊藤が高校時代に通い詰め、今も下川帰省時には必ず顔を出すというパン屋「やない菓子舗」では、伊藤ら下川出身選手の必勝を願って、V字形のフランスパンやV字形のあんパンを販売した。店主の矢内眞一さんは、こんなエピソードを教えてくれた。

「高校時代の有希ちゃんは、よ~くパンを買ってくれましたよ。運動しているから、おなかがすいてたんでしょう。そうそう、有希ちゃんには、うちの小学4年生の孫娘がお世話になってるんです。彼女が子供のときに使っていたウエアやヘルメットをいただいていて。それらには彼女の名前が刻まれてある。孫はそれを励みに頑張ってます」

また、農家の佐藤導謙さんも、こう話す。

「有希ちゃんはウチのトマトが大好きなので、伊藤家にはいっぱいトマトを届けてます。なんでもおいしいって食べてくれるし、礼儀正しいし、みんなから愛されてますよ」

競技後のインタビューでは、悔しさからか涙を流しながらも、気丈に応援への感謝を口にした伊藤選手。彼女が誰からも愛される理由が、そこに垣間見えた。

(取材/コバタカヒト[Neutral])

写真/真野慎也/JMPA