カムイがF1に帰ってくる! 1月21日、ケータハムF1チームが今季のドライバーに小林可夢偉とスウェーデン出身の新人、マーカス・エリクソンを起用することを発表。3月16日の開幕戦、オーストラリアGPのスターティンググリッドで1年ぶりに彼の雄姿が見られることになった。

2012年は地元、日本GPで3位表彰台をゲット! 通算入賞9回、60ポイントを獲得する活躍を見せながら「スポンサー資金の不足」を理由にザウバーのシートを失った可夢偉。その後、「カムイサポート」としてファンからの募金、約1億8000万円を集めたものの、結局、他チームとの契約は実現せず、フェラーリのスポーツカーレースに出場しながら、1年間の浪人生活を強いられた。

参戦コストの高騰によって、ごく一部のトップチームを除けばドライバーの実力より、ドライバーの「持ち込み資金の額」がモノをいうケースも少なくない最近のF1界で、一度失ったシートを取り戻すのは簡単なことではない。

最下位争いの常連である弱小チームのケータハムでも……いや、慢性的な資金難に苦しむ弱小チームだからこそ、可夢偉がF1復帰を実現するための苦労は並大抵のモノではなかったはずだ。

そこで(またかよって言わないでね)本誌F1解説委員、“F1界のセルジオ越後”ともいわれる(?)、タキ・イノウエ氏にご登場いただき、可夢偉F1復帰の舞台裏について熱く語ってもらった。

■カムイサポートだけでケータハムと契約?

―というワケで、タキさん、本日もよろしくお願いします!

タキ いやー、可夢偉クンの件ですよねぇ、うーん、困りましたねぇ。どうしようかなぁ……(汗)。

―あれっ? 今日は珍しく歯切れが悪いじゃないですか? でも、オメデタイ話ですよね? 弱小のケータハムとはいえ、一時は絶望と思われていた可夢偉のF1復帰が実現したワケですから。

これで1年前に集めた「カムイサポート」の募金、約1億8000万円も本来の目的で使うことができた。正直、今年もF1に乗れなかったら、去年募金で集めたお金の件がまた問題になるんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしていたんですよ。

それにしても、今年は必死にスポンサーをかき集めたのかと思ったらスポンサー資金はゼロ。あの募金だけでケータハムと契約したっていうんだから、ホントにすごいですよね?

タキ うーん、ソコなんですけど、可夢偉クン本人がそうコメントしているので、僕が勝手な臆測で口を挟むべき話じゃないんですが、彼とケータハムのシートを争ったほかのドライバーがどのくらい資金を持っていたのか、具体的な金額を聞いているんでねぇ……。まぁ、F1の世界は本当のコトを言えないときも多いと思うんですが、正直、僕としてはチョット解せない部分はあるんですよねぇ(汗汗)。

―そう言われてみれば確かに、去年、資金不足でF1浪人の憂き目に遭った可夢偉が、今年も「1億8000万円の募金だけしか資金を持っていなかった」というコトは、裏を返せば可夢偉のマネジメントはこの1年でひとつもスポンサーを獲得できなかったというコトですもんねぇ? 今回、結果的にケータハムに乗れたからよかったけれど、そもそもF1復帰なんて不可能に近い状態だったというコトなのかぁ?

タキ 昨年までケータハムのドライバーだったギド・ヴァン・デル・ガルデとシャルル・ピックはどちらもシビレルぐらいのお金持ちです。それにフランス人のピックはケータハムにエンジンを供給するルノーの秘蔵っ子なのに、そのピックを外しちゃうんですからね。

ちなみに、今回、最後までエリクソンとシートを争ったといわれるヴァン・デル・ガルデの持参金が1500万ユーロですから、日本円にして約21億円(汗)。エリクソンもそれに匹敵する資金を持っていたと考えるのが自然です。ケータハムにこれほどの持参金が必要という時点ですでに常軌を逸した世界ですが、これが今のF1の現実。今年、リザーブ(控え)ドライバーとして契約したロビン・フラインスですら相当の金額を持ち込んだといわれています。

そうしたなか、可夢偉クンが持ち込みスポンサーゼロ、純粋に募金だけの1億8000万円で契約を勝ち取ったのだとすれば、それはもちろんすごいことですが、ケータハムの財政状況を考えれば常識的にはアリエナイ……。ただ、可夢偉クンがそうコメントしている以上、僕としてはなんとも申し上げにくいワケでして(汗)。

―そういえば、F1での優勝経験もある実力派のヘイキ・コバライネンですら、去年はケータハムに残留できず、チーム関係者から「どうして必死にスポンサーを集めなかったんだ」と怒られたと聞いています。可夢偉がどんなに実力派だとしても、フツーはそれだけじゃ難しいですよねぇ……。

だとすると、実際には見えないところで大きな資金が動いている可能性もあるんでしょうか? もちろん、タキさんが関わってないから、マネーロンダリングみたいな必殺技は無理でしょうけど(汗)。可夢偉のドライバーとしての実力に加えて、それ以外の部分で、今はまだ名前を明かせない大スポンサーの存在とか、あるいは、それに匹敵する何か……?

タキ いやぁ……ホントにワカンナイんですけど、ついついそう考えちゃいますよねぇ。それでね、コレはあくまでも単なる臆測でしかないんですけど、トヨタなんて線もないとはいえないですよね。

■可夢偉のF1復帰をトヨタが援護射撃?

―ええっ、ト、トヨタ?

タキ いや、ホントに単なる臆測ですけど、なんでも今年からケータハムがドイツにあるトヨタのF1用風洞実験施設を使うらしいじゃないですか? 可夢偉クンもF1復帰報告のビデオメッセージでわざわざそのコトに触れていましたよね。風洞実験設備ってF1チームの設備の中でも一番お金がかかるもののひとつですから、仮にトヨタが今回の件で直接お金を出していないとしても、そのあたりでバーターという可能性もないわけじゃない気がします。

―それって、トヨタF1復帰への布石とか……。

タキ もうひとつ気になるのは、アジア最大の格安航空会社、エアアジアの総帥で、ケータハムのオーナーでもあるトニー・フェルナンデスが「今年、結果が残せなかったら撤退する」みたいなコトを公言しているコトです。普通ならチームオーナーが開幕前から「今年でやめるかも」なんて絶対に言いません! そんな先行きが不確かなチームには誰もお金なんて出そうとしませんからね。将来的なエンジン供給の可能性も含めて、何か先にアテがあるから、あんなコトが言えるのかな……と。そう考えれば、今年ケータハムが“ルノー・ボーイ”のピックを放出したのも納得がいくんですけどね。

―ちなみに、来年からホンダがF1に復帰します。近い将来、可夢偉がホンダのエンジンを載せたチームで走れないかと期待しているファンもいると思うのですが、やはり「トヨタ色」の強い可夢偉をホンダが起用するなんて可能性は薄いんですかねぇ……。

タキ うーん、難しいでしょうね。ホンダは今年からF1のひとつ下に当たるGP2に日本のスーパーフォーミュラやスーパーGTで活躍する伊沢拓也選手を参戦させると発表しました。しかし、仮に伊沢選手が速いドライバーだとしても、F1を目指す「若手」が世界中から集まるGP2に今年30歳のドライバーを送り込むというのは常識的に考えてオカシな話です。おそらく、ホンダはホンダで自前の若いコを育てるつもりで、伊沢のGP2参戦はそれまでの「つなぎ」なんじゃないですかね。

―トヨタが本当にF1復帰を考えているかはわからないけど、ホンダと同じく「エンジン供給」なら、あながちない話ともいえないし、そのときに可夢偉を乗せたいなら彼のF1生き残りを陰ながら「援護射撃」したという可能性も否定できないかぁ……。

タキ いやいや、僕の与太話なんで、なんの根拠もないただの臆測ですから……(汗)。ただ、F1ではそういう自動車メーカーがらみの「何か」があれば、ライバルが持ち込む10億とか20億がどっかに吹っ飛んじゃうというコトもありますからね……(汗汗)。

【取材中、ここで速報が入る】

―タキさん大変です! たった今、トヨタの社長が記者会見で「私が社長でいる限り、F1復帰はない」って断言しました!

タキ うーん、さすがトヨタ、週プレの報道内容を事前に察知して潰しにきましたかぁ(汗)。じゃあ可夢偉クンの言うとおり、ファンの募金だけで乗ったんでしょ! 彼がそう言うんだから、もうそれでいいですよ!(汗汗)

―いずれにせよ、なんとか土俵際で生き残ったんですから、今季の可夢偉にはぜひともがんばってほしいですね。ケータハムで戦う以上、最下位争いみたいな状況もある程度覚悟しなきゃいけないでしょう。でも今年F1に復帰できなければ可夢偉のチャンスはこの先「ゼロ」に近かったワケですから、トヨタうんぬんにかかわらず、このチャンスをなんとか来シーズン以降につなげてもらいたい!

タキ そのためにはまず、同じマシンに乗るエリクソンに絶対負けないことです。ニューマシンを見る限り「史上最高に醜いマシン」の戦いになりそうですが、モナコから可夢偉クンの健闘を祈っております!(激汗)

■タキ・イノウエどこよりも早くF1最新&ウラ事情を暴露する伝説の元日本人F1ドライバー。たまに、いなかったことにされがちだが、正真正銘の元F1ドライバー。1994年にシムテックから、1995年にフットワークからF1参戦。最高位8位