写真/佐貫直哉/JMPA 写真/佐貫直哉/JMPA

ソチ五輪で日本勢初のメダリストとなったスノーボード男子ハーフパイプの平野歩夢(あゆむ/15歳)、平岡卓(たく/18歳)。惜しくも金メダルには届かなかったものの、絶対王者ショーン・ホワイト(米国)を抑えての銀・銅ダブルメダルに日本中が沸いた。

今回の好結果について、スノーボードに詳しいライターの徳原海氏はこう語る。

「ふたりともエアの高さがあり、滑りの完成度も高かった。何よりミスがなかったことが最大の勝因だと思います。今までの日本代表選手は、技術的には高いものがあっても本番でミスをし、力を出し切れずに終わっていたところがありました。しかし、今回のふたりはあの大舞台で、いつもどおり冷静に滑れていましたからね」

1998年の長野五輪で正式競技に採用されて5大会目、日本スノーボード界にとっても初のメダル獲得だが、当のふたりは順位が確定した直後も、表彰台の上でも、あまり喜んでいないように見えた。ネット上でも、「もっとはしゃげばいいのに」「金メダルの選手の喜び方とのギャップがすごい」といった意見が飛び交ったが、ふたりはなぜ、そんな落ち着いた態度だったのか?

「メダル獲得を目指していたので、本当は喜んでいると思います。ただ、シャイなのでしょう(笑)。もっとも、4位に沈んだショーン・ホワイトがとてつもない大技に挑戦していたこともあり、今回の結果でショーンを超えたという達成感までは得られなかったはず。また、スノボ選手の最終目標は必ずしも五輪のメダリストではありませんから」(徳原氏)

スノボ選手にとって、五輪は世界最高峰の舞台ではない。世界のトップ選手が集まるのは、米国のスポーツ専門テレビ局「ESPN」主催の高額賞金大会「Xゲームズ」で、大会としての重みにはまだまだ差があるのが実情だ。

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「また、そのどちらにも参戦しないトッププロもいます。彼らはスポンサー契約を結んだメーカーが制作するイメージ映像に出演するなどして稼ぐ。とにかくカッコよさを追求するスタイルですね。もともとアメリカのストリートカルチャーから派生して生まれたスポーツなので、競技性を否定する向きもいまだにある。トップ選手であるショーン・ホワイトが06年トリノ五輪から参戦するようになって徐々に流れは変わりつつありますが、まだそうした考えを持つ選手もいるのです」(徳原氏)

五輪至上主義である日本にあって、「五輪が最終目標ではない」というスタンスは理解されにくい。また、部活仕込みのタテ社会をベースにする人間には、年上の選手を呼び捨てや君づけで呼ぶことなど、「言語道断」と受け止められる。

とりわけ日本代表選手は過去2大会で、成田童夢&今井メロのお騒がせ兄妹、國母和宏の腰パン事件など“ネタ”を提供してきた。その影響もあってか、日本では、スノボはほかの競技に比べ、どこか軽く見られがちだ。

「実際、大会期間中に『スノボ競技は子供の遊び』と揶揄(やゆ)した一部報道もありましたよね。結局、日本ではスノボはその程度にしか見られていない。今回は五輪だから大きく報じられましたが、昨年のXゲームズで平野君が銀メダルを獲得したことなど、日本メディアはその価値を理解して、もっと取り上げるべき。海外では尊敬を集めるスーパースターなのですから。確かに、日本的ではないし、遊びから派生したスポーツであることも事実。でも、トッププロが繰り出す人間離れした技を見れば、遊びなんかでできるわけがないことは一目瞭然ですよね。そこは日本でももう少し理解してもらえたらなとは思います」(徳原氏)

今回のメダル獲得が、日本のスノボ競技の地位向上に役立つか。

(取材・文/コバタカヒト[Neutral])

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