かつて隆盛を誇っていた日本の格闘技界は、なぜ衰退し、そして今どうなっているのか? 過去から現在までを辿り、そして未来を推測しよう。

2000年代前半、K-1とPRIDEの2大メジャーイベントを中心に、いくつもの格闘技団体が乱立するほど、日本は空前の格闘技ブームを迎えていた。03年大晦日(おおみそか)には、TBSがK-1「 Dynamite!!」を、フジテレビが「PRIDE 男祭り」を、日本テレビが「INOKI BOM-BA-YE」をそれぞれゴールデンタイムに放送。国内で格闘技ブームが沸騰すると同時に、世界の格闘技マーケットの中心地は間違いなく日本だった。

しかし06年、一部メディアがPRIDE関係者と闇社会のつながりの疑惑を報道。フジテレビは中継から撤退し、スポンサーも離れ、PRIDEは窮地(きゅうち)に陥った。

これに救いの手を差し伸べたのがアメリカの総合格闘技イベントUFCを主催するズッファ社だった。だが、当初ズッファ社はUFCと並ぶメジャーイベントとしてPRIDEの存続を宣言したものの、その後一度も開催されないままPRIDEは消滅していった。

08年、新たなメジャーイベントとしてDREAM、戦極(せんごく)が誕生したが、格闘技界にかつての人気は戻らず現在は活動していない。09年にはK-1を牽引した魔裟斗が引退。10年には吉田秀彦も引退し、スーパースターが次々とリングから離れていった。

こうした激動期のさなか、北京五輪の柔道100kg超級金メダリスト、石井慧(さとし)が格闘界に転身。09年大晦日「Dynamite!!」のデビュー戦、吉田を皮切りに、ジェロム・レ・バンナ、エメリヤーエンコ・ヒョードルら強豪相手に挑んでいった。

しかし10年、格闘技界を再び激震が襲う。K-1を主催するFEGによる選手、関係者へのギャラ未払い問題が発覚したのだ。FEGは興行能力を失い12年に破産。結果として10年大晦日の「Dynamite!!」を最後に格闘技は地上波ゴールデンタイムから姿を消した。

現在、7連勝中の石井が、日本格闘技界の救世主となるか?

今や格闘技の覇権はアメリカにあり、五味隆典や山本“KID”徳郁をはじめとする日本のトップファイターの多くが海外の大会に活躍の場を求めている。

日本格闘技界に新たな兆(きざ)しを見いだすとすれば、それは“燃える闘魂”アントニオ猪木が主宰するIGF(イノキ・ゲノム・フェデレーション)の存在だろう。ボクシング世界ヘビー級王者モハメド・アリとの「格闘技世界一決定戦」(1976年)で世界的知名度を得た猪木にとっては、プロレスも総合格闘技も「闘い」。IGFはひとつの大会の中でIGF(プロレス)ルールとMMA(総合格闘技)ルールの試合が混在する団体であり、それに異を唱える向きもあるが、現在、ミルコ・クロコップら海外の強豪を呼べるのは事実上IGFだけとなっている。

12年大晦日、IGFの「INOKI BOM-BA-YE 2012」(両国国技館)は、久々に日本の格闘技が地上波に戻ってきた大会となった。もっとも大晦日のゴールデンタイムではなく年明け1月3日の深夜枠ではあったが、これは猪木のネームバリューとビッグスポンサーの力が大きかった。

ここでIGFに初参戦した石井は、元UFC王者にMMAルールで勝利すると、以来は海外の大会を含め破竹の7連勝中。昨年大晦日の「INOKI BOM-BA-YE 2013」では、IGFチャンピオンの藤田和之を下し、第3代王者となっている。

メジャー選手を呼べるIGFというリング、そしてその王者である石井――、この両者が日本における格闘技人気復活のカギを握っているのが現状だ。

(文/大谷“Show”泰顕)

■FieLDS HEIWA presents INOKI GENOME FIGHT 14月5日(土)/両国国技館/17:00開場/18:00開始予定予定カード:石井慧VSフィリップ・デ・フライ、ミノワマンVSヨーラン・ウルフ、クラッシャー川口VSブレッド・ロジャースほか【http://www.igf.jp/】