サッカーU-17日本女子代表、通称“リトルなでしこ”が、コスタリカでのU-17女子W杯で優勝を飾った。
グループリーグから決勝戦までの計6戦に全勝し、総得点23、総失点はわずか1。さらに大会MVPであるゴールデンボール賞など、4つの個人賞を日本選手が占めた。終わってみれば、まさにリトルなでしこのためにあったような大会だったのである。
彼女たちは何が素晴らしかったのか? 現地で日本の全試合を取材した、FIFA(国際サッカー連盟)公式サイトのピーター・スミス記者が言う。
「とにかく、フィールドプレーヤー全員が高いテクニックを持っているのがすごい。その上、多くの選手が複数のポジションをこなせる。だからこそリトルなでしこはどの試合でも、どんな選手の組み合わせでも、圧倒的なボールポゼッションができたんだ。きっと日本には、女子選手を育てる優れたシステムがあるんだろうね」
その指摘の正しさを、サッカー専門誌デスクのA氏が裏づける。
「なでしこジャパンが女子W杯制覇を成し遂げる前から、日本サッカー協会は全国でのトレセン活動などを通じ、技術の習得に主眼を置いた指導を地道に続けてきました。体格やフィジカルで劣る日本の女子選手が世界で戦うには、テクニックを武器にするしかないからです。だから今回のリトルなでしこの快挙は、日本協会の育成方針の勝利でもあります」
そうした技術の土台に加え、リトルなでしこは戦術面でも他国を圧倒していた。
「テンポよくパスをつないで敵ゴールまで迫るさまは、まるでバルセロナ。コスタリカの地元観客たちは攻撃的な日本サッカーのファンになり、スタンドから大声援を送っていたよ」(前出・スミス記者)
とはいえその強さには幸運も?
なでしこジャパン譲りの戦術をチームに植えつけた高倉麻子監督は、若き日の澤穂希(ほまれ)とともに日の丸を背負った元代表選手だ。日本初の女性代表監督は、就任2年目にして世界の人々を魅了するチームを作り上げた。
「45歳と若く、クラブレベルでの指導経験もないのに、よくチームをマネジメントしました。日本協会上層部からも高く評価されているし、次期なでしこジャパン監督の有力候補のひとりに躍り出ましたね」(前出・A氏)
将来性十分の選手と監督による偉業だったわけだ。
ただ、だからといって〈これで20年東京五輪でのなでしこジャパン金メダルは確実だ!〉などとぶち上げるのは早計。リトルなでしこの優勝にはいくつかの幸運が味方していたし、フル代表ともなればユース時代とは比較にならない敵が立ちはだかるからだ。
「今大会の日本が、組み合わせに恵まれていた感は否めません。優勝候補のドイツがまさかのグループリーグ敗退を喫した上、アメリカに至っては北中米カリブ海予選で不覚を取り、出場すらしていない。また、アフリカ勢との対戦もありませんでした。つまり日本選手が苦手とする、速く強い相手と一度も当たることがなかったのです」(A氏)
「欧米の国々はユース年代の女子選手に対し、まずは1対1の局面に勝つことを叩き込む。だから今大会では、リトルなでしこだけがまともなチーム戦術を持っていたに等しく、優勝はある意味当然だった。しかし、フル代表ともなれば、強豪国は選手の個が強い上、組織としての戦い方もマスターしている。今回のリトルなでしこの何人かがフル代表となって東京五輪を迎えたとしても、日本が好成績を残せる保証はどこにもないんだよ」(スミス記者)
それを考えれば、快挙だ、史上初だと喜んでばかりもいられないのかもしれない。