KOの山を築いてきた“神の左”には、本人も絶対の自信。「KOは意識するし、今度も勝ち方にこだわる」

23日、大阪城ホールで開催される「ワールドプレミアムボクシング19 The REAL ダブル世界タイトルマッチ」でWBC世界バンタム級王者の山中慎介が6度目の防衛に挑む。

“神の左”と呼ばれる左ストレートで現在4連続KO防衛中(通算5度の王座防衛)。その圧倒的な実績に、知名度が比例しない現状は、本人も理解している。だが、山中慎介(帝拳ジム)はブレない。間近に迫った6度目の王座防衛戦を前に、確実に距離を縮めている“軽量級でのラスベガス進出”への思いを語った!

■「負けより怖いのが、しょぼい試合」

――まずは挑戦者のシュテファーヌ・ジャモエ(世界ランク3位・ベルギー)の印象は?

山中 気持ちの強い、好戦的な選手ですね。前に出て、ロープに詰めたら連打が出る。まあ、強いとは思います。

――山中選手の圧勝では、という予想も多いですが。

山中 いや、わからないですね。お互いの距離が近くなるんで、その分、リスクもあります。僕が早いラウンドで倒す可能性もありますけど、逆に早いラウンドでもらったらという怖さもあります。

――でも、負けるつもりはない。

山中 許されないですからね、負けは。厳しい世界やなって思うんですけど、ボクシングは実績や評価を徐々に徐々に積み重ねていっても、ひとつの負けで一番下までバッと落ちてしまう。ベルトを失えば、次にタイトルマッチができるチャンスがいつ来るかもわからない。「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」って、テレビのサッカー中継で言うじゃないですか。ボクサーの状況のほうがピッタリなフレーズかなって。

――確かに。

山中 ただ、負けより怖いのが、しょぼい試合をすることですね。

“神の左”に絶対の自信

――それはなぜ?

山中 負ける以上に、すべてを失うんで。つまらない試合を一度でもしたら、みんなにそっぽを向かれる。少しずつ積み上げた評価も知名度も消し飛んでしまう。だからこそ、勝ち方が問われる。同じ日に試合をする長谷川(穂積)さんは3階級制覇のかかった試合。自分は勝って当たり前と思われている試合。自分の勝ちっぷりで、ファンを振り向かせるしかないというか、そういう思いを持っています。だから、KOも意識します。

――自分の左ストレートが当たれば倒せると。

山中 ええ。最近よく「山中はカウンターを恐れず、左ストレートを出す勇気がある」って言われるんですけど、勇気というより、自信があるから迷わず打ち込めるんです。本当に自信を持って打てるんで。自分の左を外してカウンターを打てた選手は今までいない。

――勇気ではなく自信だと。

山中 そうですね。絶対に当たるという自信です。それに、KOにこだわるのは、強いなと印象に残るのはやっぱり判定ではなくKOでしょうから。僕は日本で戦っているんで、海外での知名度や評価をなかなか得られない。でも、KO勝ちを重ねることで、少しは海外にも「強いヤツがいるんだぞ」って、アピールできるかもしれないですからね。

――ちなみに、“神の左”と呼ばれていることについては?

山中 「まあまあ」って言って、聞き流すことが多いです(笑)。

――先ほど知名度という話が出ましたが、WBO世界バンタム級王者で、かつて山中選手を挑発していた亀田和毅(ともき)選手との統一戦などは眼中にないですか? 注目度は抜群だと思いますが。

山中 眼中にないというか……。ファンの方からも、「(亀田君との)試合、実現すればいいですね」「もっと知名度も上がりますね」って言われたりもするんです。その場では「そうですね」と答えますし、実際に試合をすれば、それはある意味ではプラスなのかもしれない。ただ、相手の状況(事実上の国外追放処分)もありますし、ぶっちゃけ、そんな世間の評価なんて、どうでもいいんです。

手にしたいのは、本場ラスベガスでの評価

――どうでもいい?

山中 (亀田君と)試合をして、是が非でも国内だけでの評価や知名度を上げたいという気持ちは全然ないんで。それよりもラスベガスで戦いたい。それが、日本国内での評価につながらないとしても、あの舞台に立ちたいって気持ちが強いんで。僕はそっちを優先します。結果、国内の知名度が上がらなくても、後悔はないですし。応援してくださる方に対しては非常に申し訳ない発言になってしまうんですけどね。でも、知名度だけのために戦っているわけじゃない。負け惜しみじゃなくて、そういう気持ちがあります。

――あくまでも手にしたいのは、本場ラスベガスでの評価だと。

山中 そうですね。ホンマの自分の思いとしては、ラスベガスに進出して、世界的な評価、ボクシング界の評価を得るってことが大事なんで、はい。今後を考えたとき、そっちのほうが後悔しないから。

――なるほど。

山中 ラスベガスで試合をするだけじゃない。そこでビッグマッチをしたいんです、ヒリヒリするような。もちろん、マッチメイクは自分だけで決められるわけではないんで、「ラスベガス」「ラスベガス」って何度も口にすることで、メディアを通して、(帝拳ジムの)本田会長の耳にも届けばいいなと(笑)。生意気ですけど、言わなければ、何も始まらないんで。

■「自分は強さだけを求めていきたい」

――具体的に、対戦してみたい選手はいるんですか?

山中 1階級上のWBC世界スーパーバンタム級王者、レオ・サンコ)です。

――史上初の世界6階級制覇王者オスカー・デ・ラ・ホーヤの秘蔵っ子と呼ばれる選手ですね。

山中 実現したら、もちろんオッズは僕が不利になると思う。それでも、そういうスリルのある試合をしたいし、勝負をしたい。

――勝つ自信は?

山中 単純な比較ですけど、僕は初防衛戦で、ビック・ダルチニアン(豪)に勝ちました。そのダルチニアンが昨年、世界4階級制覇王者のノニト・ドネア(フィリピン)といい試合をしてます。一流の選手、超一流の選手とやっても、いい勝負ができるという自信はあります。ただ、僕の階級がバンタム級(~53.52kg)というのが、また難しくて。実現しても、ラスベガスなら前座でしょうから。

ロンドン五輪金メダリストの村田諒太との関係は

元世界2階級王者の長谷川穂積とのダブル世界戦で、山中がメインを務める

――世界では重い階級のほうが人気が高いですからね。高校の後輩でもあるミドル級(~72.57kg)の村田諒太選手がうらやましかったりもしますか?

山中 村田は五輪で成績も残しましたし、注目されて当たり前。ミドル級は海外でもどんどんビッグマッチができる階級なんで、そこはうらやましいし、悔しい面もあります、世界王者として。

――今年2月には、ラスベガスで村田選手と一緒に合宿をしていますよね。

山中 一緒にというか、僕が途中から勝手に合流したというか(笑)。

――村田選手とはどんな会話を?

山中 後輩なのに、むっちゃイジってきました(笑)。でも、“高校時代あるある”を言ってきたかと思えば、突然、ボクシングのマジメなことを聞いてきたりもして。金メダル獲るような人は、少し変わってるんでしょうね(笑)。

――いつか一緒にラスベガスの舞台に立てたらいいですね。

山中 実現したらスゴい。しかも、お互いタイトルマッチなら最高ですね。階級(の差)もあるんで、メインは譲ることになるかもしれませんけど。

――山中選手は昨年、日本ボクシングコミッションの最優秀選手賞を受賞。やっぱり、“日本のエース”という自覚がある?

山中 エースとは考えないですけど、その年に一番輝いたっていうことですよね。そういう評価をいただいたことは誇りに思いますし、プライドも高くなりましたね。

拳で“何か”を伝えたい

――ボクシングを知ってもらおうと、あまり得意ではなさそうなバラエティ番組にも積極的に出演されているようにも見えますが?

山中 そこまでの意識はないですけど……うーん、ボクシングが面白いスポーツやなって思ってほしいという部分は、確かにありますね。まあ、テレビは何度出ても慣れないですけど。このインタビューも、もしテレビカメラが回っていたら、違うこと言ってると思います(笑)。

――リング上ではあれほど堂々としているのに(笑)。

山中 試合はカメラに視線を向けるわけじゃないですからね。それに、自分は口ベタだし、生い立ちなど劇的な物語を持っているわけでもない。テレビに出ても知名度が上がらないのも、ある意味当然。でも、それでええかなと。自分は強さだけを求めれば。

――なるほど。

山中 もし、僕が一生懸命闘っている姿を見て、何かを感じ取ってもらえたら、それだけでいい。“何か”っていうのは、見てる人を熱くさせたり、元気にさせたり、勇気づけたり、そういうことで。それが一番かなって。僕は、ボクシングで熱い試合をするだけ。そんな思いが今度の試合で、少しでも届けばいいなと。

――言葉では届かない。でも、拳なら届くかもしれないと。

山中 そう、それです! 今の、僕が言ったことにしてください(笑)。こんなこもり気味の声で何を言っても届かないけど、この左拳なら何か届くと思うんです、必ず。

(取材・文/水野光博 撮影/ヤナガワゴーッ!)

●山中慎介(やまなかしんすけ)1982年生まれ、滋賀県出身。南京都高校時代にボクシングを始め、専修大学を経て、2006年にプロデビュー。11年にWBC世界バンタム級(~53.52kg)王座を獲得。以降、5度防衛(現在4連続KO防衛中)。身長171㎝。22戦20勝(15KO)2分