2014年W杯の初戦を迎えるサムライブルー。辛口解説でおなじみのセルジオ越後氏が「エースは本田でも香川でもない。岡崎だね」と太鼓判を押すザックジャパンの得点王・岡崎慎司。最高の状態で臨む大舞台への思いを聞いた!
■「僕は人気もオーラもない(笑)」
――ブラジルW杯の話の前に、まずは絶好調だった今季を振り返りたいです。シュツットガルトからマインツへ移籍した今季は15得点を決めて、香川真司選手の持つ欧州主要リーグ日本人シーズン最多得点を更新しました。
岡崎 真司の持つ13得点に並んだのが4月19日。試合後に「記録更新も見えました」と話したんですけど、残り3試合しかなかったから、「超えられるかな」という気持ちも正直ありました。だから、超えられなかったときの言い訳も考えていたんです。「ウチはマインツなんで」って(笑)。
――記録をつくった当時の香川選手が所属していたドルトムントとは、チーム力に差があると(笑)
岡崎 はい。でも、超えられたのでホッとしました。真司はうまい選手だけど、MFですから。FWとしての面目が立ちました。
活躍のきっかけは“エゴイスト”になったこと
――そういえば、マインツへの移籍が決まる直前のコンフェデレーションズ杯では「ストライカーとして、エゴイストにならなくちゃいけない」と宣言していました。考え方を変えたのですか?
岡崎 シュツットガルト時代のポジションはサイドのMFでした。成績が悪くなると、監督は攻撃的な選手ばかりを起用するので、地味な仕事をする選手がいなくなるんです。だから、僕がサイドのMFに入ってチームのバランスを見たり、守備をしなくちゃいけなかった。「俺はストライカーとしてドイツへ来たのに」と、日々悩んでいましたね。もう、このまま中盤の選手になってしまってもいいんじゃないかと考えることもあったほど。でも、僕はうまい選手じゃないから気の利いたパスとか出せないし……。
――そんなふうに葛藤しているうちに、出場機会も減っていった。
岡崎 状況としては最悪だったけど、そこで俺はFWとしてしか生き残れないなと悟れた。ストライカーという仕事にしがみつかざるを得ないと。そのためにはゴールが必要で、ゴールを決めるにはパスが必要。特に、自分は周りに生かされて初めて仕事ができる選手だから、周りに要求しなくちゃいけないし、エゴイストにならなくちゃいけない。FWは勝利に最も貢献できるポジションで、それだけの責任を背負っているのだから、エゴイストになって当然なんだと思うようになったんです。
――その結果、マインツではワントップとして大活躍できたと。
岡崎 自分が生きる場所、形というのを周りの選手に理解してもらえたことが大きいです。
――エゴイストとなり、要求し続けたら理解も深まった。
岡崎 そうですね。ただ、僕はチームのためにプレーすることを第一に考えて生きてきたから、エゴイスト宣言をしても、まだ葛藤はあるんです。だから、ゴールも決めるけど、守備やほかの仕事も手を抜かないことも目指している。背も低い、足も遅い僕の強みはそれだから。
目立たないのは。地味でブサイクだから?
――それが今季の大爆発につながったと。ちなみに、週プレでコラムを連載中のセルジオ越後さんは、以前から岡崎選手が日本代表の試合でゴールを決めるたびに、「なんでマスコミはもっと岡崎に注目しないんだ! 一番活躍しているのに」と怒っていました。
岡崎 そうなんですか!? ありがたいですね。確かに、僕は人気がないので(笑)。人気がないというか、オーラがないというか……。例えば、真司や(本田)圭佑が年間で15得点決めたら、もっと騒ぎになると思うんですよね。
――う~ん、どうですかね……。
岡崎 昔は、真司や圭佑にスポットライトが当たっているのを見て、「それに比べて俺は……」と思うこともありました。「岡崎は地味でかわいそう」とか思われているんかなと思ったりして。
――そんな悩みがあったとは。
岡崎 気にしぃなんです、僕。でも、28歳になった今は、現状の扱いというのは妥当だなと思うし、逆に恵まれているなとまで思います。僕は周りに生かされないと仕事ができないわけですから。ルックス的にもブサイクやし。
――そこ関係ありますか?(笑)
岡崎 関係ありませんか?(笑)。もちろん、セルジオさんにホメていただけるのはすごくうれしいですけど、やっぱりセルジオさんには厳しく言ってもらいたいような気がしますね(笑)。客観的な目から生まれる声は、自分にプラスになるので。
W杯もワクワク感がないネガティブ人間
■「自信はある。でも、“満々”ではない(笑)」
――さて、ここからはいよいよW杯の話を聞かせてください。4年前の南アフリカW杯では、開幕直前にスタメン落ちしましたね。
岡崎 (当時の)岡田監督から開幕直前に呼ばれて、「途中から起用する」と告げられたとき、実は僕、ホッとしてしまったんです。責任から解放された感じがあって、「できることを精いっぱいやればいいんだ」とラクになった。というのも、それまで取材とかで「W杯での目標は?」と聞かれて、「3得点です!」と何度も答えているうちに、「背番号9をつけた自分がゴールを決めないと、チームの目標も達成できない」と考えるようになっていたんです。
――責任を抱え込みすぎていた。
岡崎 自分に期待しすぎましたね。それがストレスになって、体調は崩れるし、プレーはどんどん精彩を欠いていく。自分を信じられない。自信がなかったんです。代表に入って2年ほどでW杯で活躍できるなんて、自分を過大評価してました。力もなく、弱い自分を大きく見せようとしたことで、失敗してしまったのがあの大会です。大きく見せることで、結果を残せる選手もいるけど、僕はそうじゃない。コツコツと積み上げていくことでしか成長できない。
――でも、今度のブラジルW杯は自信満々で臨めるのでは?
岡崎 自信はあります。でも、決して“満々”ではないですよ(笑)。アスリートでは珍しいと思うんですけど、僕はどちらかといえば、ネガティブ思考の人間なんで。大きな試合を前にしても、ワクワク感がないんです。試合のことをイメージしていると、ミスシーンが思い浮かんで、ドキドキが止まらなくなる(笑)。
例えば、初戦のコートジボワール戦のことを考えても、「(相手MFの)ヤヤ・トゥーレと一戦交えるのが楽しみだ!」なんて絶対に思えない。ヤヤ・トゥーレはすべてのクオリティがナンバーワンだから「ヤバイな……」と。
ただ、悪い状況をイメージすることで冷静にもなれるんです。気持ちを上げて試合に臨んだら、僕は空回りするだけなんで。テンションを少し落とし気味くらいでちょうどいい。それに、ネガティブなこともイメージできていれば、つまずいたときに立ち直るのが早いし、うまくいったときの喜びも倍増するじゃないですか。
――なるほど。でも、FWだし、どうしても報道陣から強気なコメントを期待されることが多いですよね?
岡崎 求められるし、求める気持ちもわかります。また、僕自身もそういうタイプじゃないなりに、強気なことを言いたくなるときもあるし、実際に言ってしまうこともある。でも、できれば秘めていたい派ですね。
早く大会が終わってほしい?
――なるほど。そういう報道陣とのやりとりひとつでも、いろいろと試行錯誤しているのですね。
岡崎 選手も人間なんで、好不調の波があります。それを小さくするためにいろいろなことにチャレンジしていたんです。ある時期は“中畑清作戦”で、どんなときでも「絶好調です!」と言っていたことも(笑)。その結果、今は「ぼちぼち」に落ち着いた感じです。好調とか不調とかを意識しすぎるよりも、どんなときもできることをやる。全力でやり尽くす。それしかないと思うし、力を出し切っていると、不思議と不調だと感じることがなくなるんです。
――先ほど、今回のブラジルW杯には自信を持って臨めると言っていましたが、それは南アW杯以降のドイツでの積み重ねた経緯があるから?
岡崎 もちろん、それがあります。この4年間、目の前のことに向かい、一日一日を生きてきた。そんな毎日の積み重ねがあるから、自分を信じられるんです。
――ブラジルW杯の初戦の朝は、どんな気持ちで迎えたいですか?
岡崎 いつもどおり。無心でいたいと思っているけど、無の状態には絶対になれないはず。不安を認めつつ、たかぶる感情を抑えながら、ドキドキしていると思います。なんとかして勝って、自分もゴールを決めて、ホッとしたいと。
――もしかして、早く大会が終わってほしいとか考えています?
岡崎 いや、もちろん、W杯は楽しみなんですけど、実はそういう気持ちも若干ありますね。「終わったぁ~!」となっている状態の自分を早く見てみたい。
(取材・文/寺野典子 撮影/千葉 格)
●岡崎慎司(おかざき・しんじ) 1986年生まれ、兵庫県出身。 滝川二高から清水に加入。2009年にJリーグベストイレブン。11年にシュツットガルト(ドイツ1部)へ、13年にマインツ(同)へ移籍。サッカー日本代表通算38ゴールは歴代3位(74試合出場*14年5月28日時点)。174cm、76kg。本人オフィシャルブログ『侍』【http://ameblo.jp/okazaki-shinji】
■『鈍足バンザイ! 僕は足が遅かったからこそ、今がある。』 岡崎慎司 幻冬舎 1300円+税 自らを「足が遅い。背も低い。テクニックもない」と評する岡崎は、なぜ日本代表で得点を重ねるまでの選手になれたのか。本人がその秘密を明かす!