4年前の南アフリカW杯では、守備的な手堅いサッカーをする国が多かった。1試合の平均得点は2.27点で、過去最低だった1990年のイタリア大会(2.21点)に次ぐ2番目に低い数字。消極的で見応えを欠く試合も散見され、大会終了後にはFIFA(国際サッカー連盟)によるルール変更も噂されたほどだ。
おそらくブラジルW杯も似たような傾向になるだろう。現代のサッカーは非常にシステマティックで、フィジカルを前面に押し出し、相手を潰(つぶ)す守備重視のスタイルが主流。特に代表チームは一発勝負の試合が多いので、どうしてもそういう慎重なサッカーをするチームが多くなってしまう。
華麗なテクニックを武器にするファンタジスタにとっては、まさに受難の時代。かつてのペレやマラドーナのように、ひとりで試合を決め、ひとりでチームを優勝に導くという選手は生まれにくくなっているんだ。
でも、試合を観る側からすれば、そんな守備的な手堅いサッカーをするチームだらけの状態が続いても面白くないよね。だから今回、僕はクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)とメッシ(アルゼンチン)のふたりに期待しているんだ。
ここ数年、毎年のようにバロンドール(FIFA年間最優秀選手賞)を争い、「世界最高」の称号を二分する彼らが、守備重視の傾向が特に強くなるW杯の舞台でも輝けるか。現代サッカーの守備重視、フィジカル重視の潮流に一石を投じてほしいし、ふたりにとっても真価の問われる大会になる。
“メッシ仕様”のサッカーがどう出るか?
ロナウドは高さ、速さ、うまさ、強さ、狡猾さ、勝負強さのすべてを兼ね備え、左右両足、ヘディング、フリーキックとあらゆる形からゴールを奪う。パーフェクトに近い選手だ。
ロナウドはこれまでもポルトガル代表では大黒柱にふさわしい活躍を見せてきた。ただし、過去2度出場したW杯ではチームを牽引(けんいん)しながらも、計10試合2得点と彼本来の得点力は発揮できていない。29歳という年齢を考えれば、今回のブラジルW杯は集大成になる。本人も気合いが入っているんじゃないかな。
メンバー的にポルトガルの優勝は難しいかもしれないけど、彼がゴールを量産してチームを決勝まで導くような活躍を見せれば、ペレ、マラドーナに次ぐレジェンドになれると思う。
一方のメッシは、これまでアルゼンチン代表ではあまり活躍していない。そのため、母国でも「クラブチームの選手」「(所属する)バルセロナ以外では活躍できない」と批判されている。
なぜ、そうなってしまうのか。ロナウドと違って、メッシには“組織”が必要だからだ。バルセロナでは周囲の選手が彼のために動き、スペースやパスコースをつくる。まさにメッシのための戦術を採用している。だから、ある意味、ワンパターンともいえる彼の左足からのドリブルとシュートが生きるんだ。でも、代表では違う。だから、うまくいかなかった。
ただ、今回のアルゼンチンは、バルサほどではないにせよ、“メッシ仕様”のサッカーで臨むようだ。それがどう出るか。
もちろん、このふたり以外にも、新しいスターの登場には期待したい。W杯初出場となるネイマール(ブラジル)がその筆頭になるだろうけど、ほかにもこんな面白い選手がいるのかというサプライズがあると盛り上がるよね。
(構成/渡辺達也)