経営危機、2度のJ2降格を乗り越え、昨季、最終節で大逆転のリーグ連覇達成。今季、Jリーグ3連覇に挑むサンフレッチェ広島。強さの理由は、地元密着志向にあった――。サンフレッチェ広島代表取締役社長の小谷野薫氏を直撃した。
■どんなときもブレないクラブ方針
2連覇したことで、皆さんから注目していただけるようになりましたが、2009年のJ1復帰以降は4位、7位、7位、優勝、優勝。リーグから賞金が出る上位7位までに5年連続して入っているのはウチだけ。優勝する前から少しずつ地力がついてきていたのでしょう。その一番の要因は、サッカーのスタイルに対する考え方とか、育成重視でやっていくことなど、クラブの方針が決してブレないことだと思います。
私は「この金額の枠のなかでチーム編成をお願いします」と言う立場。そこから先はフロントがとやかく言うのではなく、現場の方たちにお任せしていますが、強化部門は一貫していて、監督、選手との意思疎通もすごくいい。チーム編成に関しても、思いつきの選手補強はせず、3年後、5年後の年齢構成からどのポジションが足りなくなるかを考えて、狙った選手は何年もかけて調査しています。
森保一監督がチームのOBというのも大きいでしょうね。クラブカルチャー、歴史的な背景をわかっていますし、われわれは“アクションサッカー”という言葉を使っていますが、サンフレッチェが長年取り組んできた、常に点を獲りにいくアグレッシブなサッカーを貫いています。そして、できるだけ育成組織から育てた選手を使う。
若手、中堅、ベテランのバランスがよく、チームとしての一体感がある。これからもっともっとタイトルを獲ります。皆さんの力で広島の街をもっともっと紫にしていきましょう!
ゆるキャラ“こやのん”はサポーターに大人気
■“オリジナル10”としてJクラブの模範になりたい サンフレッチェには、Jリーグ発足時の“オリジナル10”としての歴史があります。さらにさかのぼれば、日本リーグ時代の東洋工業4連覇の歴史、マツダサッカーの輝かしい歴史があり、広島にはサッカーが文化として根づいた土壌があります。今チームがうまく回り始めたことで、クラブの歴史や伝統、地元のサッカー文化の力が十分発揮されて、好循環が生まれているのではないでしょうか。
私はこれまでのクラブの方針を引き継ぎ、着実にやっているだけで、何か新しいことを始めたわけではありません。ただ、財政的な制約でマーケティングを自己規制していたような部分があったので、それは解き放って、スピード経営を実践してきました。私をモデルにした「こやのん」については、明るいクラブキャラクターを前面に出せればという思いです。
広島というところは、野球やサッカーはもちろん、バレーボール、ハンドボール、バドミントンなど、プロでもアマチュアでもいろいろなスポーツが盛んです。ぜひ、オールスポーツで力を合わせて、音楽や映画といったサブカル系とも連携して、“オール広島”で盛り上げていきたいですね。
東名阪などの大都市圏から離れた場所で、クラブが成功できるかどうか。地域貢献を大切にして、選手もしっかり育成して、健全財政も維持していくのは、Jリーグの理念に関わることです。われわれは広島の街を背負って立つとともに、Jリーグの模範となるクラブでありたい。スポーツを愛する地元の方々が、サンフレッチェを応援することを誇りに思えるようなクラブを目指していきます。
(取材・文/宮崎俊哉 山田美恵 中島大輔 撮影/伊藤晴世)
■小谷野薫(こやの・かおる) 1963年生まれ、東京都出身。東京大学教養学部卒業。ニューヨーク大経営大学院修了。野村総研、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、クレディ・スイス証券、エディオン(財務アドバイザー)などを経て、201 3年1月サンフレッチェ広島の代表取締役社長に就任