最強ドイツが優勝、まだ祭りの余韻(よいん)が冷めやらぬ2014ブラジルW杯ーー。
王国ブラジルが準決勝で味わった惨劇、前回覇者スペインのグループリーグ敗退など、いくつものサプライズが起こった。そんななか、ポジティブな意味で大きな驚きを与えたチームがコスタリカだった。
開幕前はイタリア、イングランド、ウルグアイが居合わせるグループDで断トツの最下位候補と目されていながら、フタを開けてみれば2勝1分けで“死の組”を首位通過。その勢いを駆って決勝トーナメント1回戦ではギリシャを破り、同国初のベスト8に進出した。
迎えた準々決勝、コスタリカは、強豪オランダを相手に堂々と渡り合い、延長戦の前後半を終えても両者無得点のまま。最終的には2試合連続のPK戦にもつれ込んだ末、惜しくも敗れたものの、その健闘には世界中から称賛の声が寄せられた。
しかし、このコスタリカ、よくよく考えてみれば今大会開幕直前の調整試合(6月2日、アメリカ)で、日本が3-1と完勝している相手なのだ。そんなチームがどうして、日本さえ成し遂げたことのないW杯8強入りを果たせたのか?
W杯を取材したサッカージャーナリストの後藤健生(たけお)氏が語る。
「コスタリカ躍進の原動力となったのは第一に、強固な守備です。フラット3、そして時にはフラット5となる最終ラインを見事にコントロールして相手をオフサイドトラップにかけ、さらにはGKナバスが好セーブを連発して、5試合で失点はわずか2。逆に攻撃陣にさほどスーパーなタレントはおらず、各選手ができることは限られていたのですが、それをうまくつなげて、カウンターで効率的に点を取っていました」
日本戦の敗退で本番での戦い方を自覚した?
そして、このコスタリカの戦いぶりには、日本戦が大きく影響している可能性が高いのだという。
「対戦相手を考えれば、コスタリカが守備的に戦わねばならないことは明白だったし、チームとして準備もしてきたでしょう。しかし、選手たちの心には、『俺たちだってちゃんと攻めれば、結構やれるんだ』という意識がどこか残っていたはず。でも、調整試合で真正面から攻め合ってみると、日本程度の相手にも簡単に裏を取られ、3失点を喫してしまった。そこで彼らは『大会本番ではもっと強いチームと当たるんだから、俺たちには徹底的に守り抜く戦い方しかない』と、覚悟が固まったのではないでしょうか」(後藤氏)
いったん腹を決めた者は強い。コスタリカはどの試合でも守り倒し、ギリギリの局面では躊躇(ちゅうちょ)せず体を張り、相手の攻撃を阻(はば)んだ。そしてボールを奪うやすかさず前線のFWキャンベルにボールを当て、スピード感あふれるアタックで敵ゴールに迫ったのだ。その迫力や懸命さは、残念ながら日本代表の試合ではついぞ感じられなかったものだった。
だったら、いっそのこと日本も方針転換して、コスタリカみたいなサッカーを目指したほうが勝てるのでは? 次の代表監督の最有力候補と噂されるアギレは、守備のエキスパートらしいし……。
「それは、ちょっと早計でしょう。コスタリカのような戦い方では、目先の小さな成功は得られても、そこから上は無理。日本サッカーの志はもっと高いはずです。いつの日か、W杯で優勝するためには、攻撃の主導権を握る戦い方を突き詰めていかないと。ただ、それでも1対1で絶対抜かせないDFを早い段階から育てるとか、代表チームでも守備力の向上にもっと力を入れるとか、ディフェンス面の強化は不可欠ですが」(後藤氏)
日本サッカー協会は、そのあたりのバランスがとれた次期代表指揮官を、ちゃんとつかまえられるのだろうか? でも、その責任者が「攻撃LOVE」「スペインLOVE」の原博実専務理事だから、なんだか心配……?