見事に100mで初の銅メダルを獲得した桐生

怪物スプリンターが底力を発揮した。陸上・世界ジュニア選手権(アメリカ、7月22日~27日)の男子100mで、18歳の桐生祥秀(よしひで)が銅メダルを獲得。シニア、ジュニアを通じて世界大会の同種目では日本人初となる快挙を遂げたのだ。

さらに、桐生はチーム戦でも力を発揮。ほかのメンバーと「打倒アメリカ」を誓った4×100mリレーでは、1走が少し出遅れたものの、2走として6月に9秒97のジュニア世界記録を達成したトレイボン・ブロメル(アメリカ)相手に最後は若干その差を詰める走りを見せたのだ。

ちなみに、3走以降も好走した日本チームは、王者アメリカに0秒32差の39秒02でゴールして銀メダルを獲得。この種目で02年以来、6大会連続して2位以内だった3位のジャマイカの記者は「日本に負けた! 日本に負けた!」と何度も叫び、悔しさを表現していた。

「銅、銀ときたけど、金メダルだけないですね。それはこれからの大会にとっておきますよ」

リレー後、そうおどけていた桐生は、今大会をこう振り返った。

「結果がすべてというわけじゃないけど、やっぱり結果を出さなければ世界には認めてもらえないと思います。いくら自分が(昨年4月に)10秒01を出したからといって、ここで予選落ちしていたら結局は日本でしか戦えない選手という評価になってしまうので……。その面では、世界ジュニアで銅メダルを獲得できたことで、少しは世界に、タイムだけの選手ではないことを証明できたと思います」

これまで100mの電気計時での9秒台は、1968年メキシコシティ五輪でジム・ハインズ(アメリカ)が9秒95を出して以来、今年6月13日のブロメルまで計94人が出している。過去、日本人で最も9秒台に近づいたのは、1998年アジア大会で10秒00を出した伊東浩司だ。以来、伊東や朝原宣治(のぶはる)、末續(すえつぐ)慎吾など日本のトップスプリンターが挑んでははね返されてきた大きな壁である。

いま達成しないことがよかった?

世界のホープたちと堂々肩を並べ、戦えることを証明した

それだけに、昨年4月、17歳の桐生が10秒01で走ったときには、「やっと日本人が9秒台で走れる」と期待を集めた。そして、桐生自身もその後は9秒台を意識して走っていた。

だが、昨年8月、ロシアでの世界選手権に出場し、トップ選手と戦うなかで意識は変化してきた。

「今回、9秒台はまったく狙っていなかったですね。狙って走るとどうしても硬くなるし、結局は自分がタイムを狙ってないところで出るものだと思っているので……。だから、いつかは出ますよ」(桐生)

東洋大学に進学した4月から彼を指導する土江寛裕(ひろやす)コーチもこう話す。

「陸上競技というのは順位を競い合う競技だから、今、僕たちが取り組んでいるのは記録を狙うことではなく、世界の舞台でラウンドを積み重ねていって決勝まで進出して勝負するということです。桐生の場合は、しっかり集中したら限界値がポンと上がるという、スプリンターとしてのいい特質を持っているから、今回もギリギリ間に合った状態にもかかわらず、銅メダルを獲得できたのだと思います。

世界の舞台でトップ選手と一緒に走る経験を積んで場数を踏んでいけば、だんだん勝負できるようになれるはず。ジュニアの舞台だけど、ここで結果を残せたのは彼にとってもすごく大きな収穫だと思います」

土江コーチは、「目標にしていた金メダル獲得はなりませんでしたが、少しやり残した部分があった結果のほうが、今の桐生にとってはよかったのではないかと思います」とも続けた。

そんな桐生が、次の目標にするのは9月19日から始まるアジア大会(韓国)での金メダル獲得だ。

夢の9秒台のXデー。桐生がアジア大会でまたキッチリと勝負の場を経験できれば、それは遅くとも来年にはやって来そうな気配がする。

(取材/折山淑美 撮影/岸本勉)

■週刊プレイボーイ33号「ハッキリ見えた!怪物・桐生祥秀、夢の9秒台達成のXデー!!」